相続全体の流れを理解する
事前に相続する不動産が再建築不可であることが分かっていれば、相続が発生する前に売却や買取を検討したり、法人や自治体に寄付・譲渡をしてしまうことなども検討が可能です。
検討の幅を広げるためにも、相続全体の流れをしっかりと理解しておく必要があります。
相続人と財産の確定
相続が発生した場合、まず相続人と財産を確定させることが必要です。
相続人の確定とは、相続財産が誰にどのように分配されるのかを決めることです。
被相続人が生前に遺言書を残していれば、その内容に沿って相続人が確定しますが、遺言がなかった場合、民法のルール(法定相続)に沿った形で法定相続人と法定相続分が決まっていきます。
その場合、被相続人が亡くなった際に相続人を確定するにあたっては、被相続人の戸籍謄本等の確認に加えて、非相続人の出生から死亡までの戸籍の確認を経て、法定相続人を確定させていくことになります。
戸籍の確認を怠ると、例えば被相続人に認知した子どもがいた、孫と養子縁組していた、不動産が共有名義になっていたなどの把握していなかった要件が後から分かり、トラブルや争いの原因となることがありますので十分に注意しておきましょう。
相続については以下にまとめています。

遺産の分割
遺言書の確認
財産を確定して遺産を分割する過程においても、まずは遺言書の有無とその内容を確認することから始まります。
相続人および財産の確定における遺言書の確認の流れは以下の通りです。
①遺言書がある場合は、遺言書に従うのが原則
②遺言書がない場合、相続人全員による遺産分割協議に従う
③遺言書がなく、かつ②の協議が進まない場合は、調停・審判に委ねる
①のケースは、①~③の中で最も遺産分割がスムーズに進むケースです。
遺言書があると相続人の負担軽減、被相続人の想いが反映されるなどのメリットがありますので、可能であれば、被相続人と事前に相談をし、後述する財産目録も含めて遺言書の作成を準備しておくことが望ましいです。
その際、相続する不動産についてもしっかり調査をし、再建築の可・不可についてしっかりと確認をしておくようにしましょう。
②や③のように遺言書がない場合、相続人は全員で遺産分割協議を行う必要があります。
また、相続人間の協議で話がまとまらない場合には、家庭裁判所において、調停委員が中立的な立場で協議内容を整理しながら合意を促していく遺産分割調停を行うことになります。
この分割調停も相続人全員の合意が必要なため、調停でもまとまらない場合は、遺産分割審判に進むこととなります。
調停と同じく家庭裁判所での手続きとなりますが、調停とは異なり、裁判官が最終的な遺産分割方法を決定することとなります。
財産の評価
遺産の内容の確定
上記②や③のように遺言書や財産目録などがない場合は、不動産・預貯金・株式など、被相続人が所有していたすべての財産や権利を把握し、遺産を確定させる必要があります。
これは負債についても同様で、借金なども含めた遺産の全体像を把握することが必要です。
遺産評価額を算定
遺産の内容が確定したら、遺産それぞれの評価額を確定させる必要があります。
特に不動産や株式などの価値が変動しやすいものについては、相続人の間で係争の種になることが多いので注意が必要です。
例えば不動産では、固定資産税評価額・相続税評価額などの税務上の評価額と、不動産会社が算出する査定額、不動産鑑定士が算出する鑑定評価額などさまざまな評価方法があるため、すべての相続人が納得する形での合意形成が図りづらいのが実態です。
財産目録の作成
財産目録とは、被相続人の財産を一覧でまとめたもので、財産に加えて借金などの負債も記入した、いわば個人における貸借対照表のようなものという認識で大きな相違はありません。
財産目録の作成は法律上の義務ではありませんが、相続税申告の要不要の判断や、相続税の納付額の目安、相続対象財産の明確化などに役立ちます。
被相続人の生前に作成しておくことも可能ですので、前述した遺言書と併せて、終活の際に話し合いながら準備を進めておくことが重要になります。
なお、これら書面の作成にあたっては、法律の要件が関わってくるものもあります。
相続人同士の話し合いで決めることも可能ですが、税理士や弁護士などの専門家に相談することがより確実と言えます。
遺産分割協議
遺産の内容が確定し、評価額の算定に目処がついたところで、遺産分割協議を進めていきます。
これは、相続人それぞれの相続分に応じて、取得割合を決めるものですが、相続人それぞれの取り分を巡って、意見が対立してしまうことがしばしばあります。
遺産分割協議は、相続人全員が協議を行い、相続人全員の合意が必要です。
また、言った言わないにならないように、協議の結果を遺産分割協議書という形で書面に残しておくことが重要です。
相続税の申告と相続登記
相続税の申告と納付を行うためのさまざまな手続きは、亡くなった日から10ヶ月以内に行う必要があります。
また、相続が発生し、不動産を取得することとなった場合、相続税の申告を行うことに加えて、相続登記を行うことも必要になります。
この不動産登記によって、当該不動産が相続人のものであることを第三者に証明することができるようになります。
相続登記については、特に期限などはありませんし、登記をしなかったことによる罰則などもありません。
しかし、登記を行わないと不動産の売却ができないなどのデメリットがありますので、なるべく早いタイミングで行うようにしましょう。
登記については、司法書士に手続きを依頼すると簡単ではありますが、所有者様ご自身で行うことも可能ですので、状況に応じてご判断ください。
再建築不可物件の処分方法
ここまで、相続の大まかな流れをまとめました。
相続する前の段階で、所有する不動産の再建築の可・不可を確認しておくことが重要なのは前述した通りです。
しかし、思いがけず相続が発生し、相続した不動産が再建築不可だった場合はこの限りではありません。
ここからは、相続後に再建築不可だったことが分かった場合の対応策について考えてみたいと思います。
相続放棄の検討
再建築不可物件のように、売却や転用が難しく、所有しているだけで負債になりかねない資産は、その権利を放棄することができます。
これを相続放棄と言います。
相続放棄申述書の作成
相続放棄を行う場合、相続を開始した直後三ヶ月以内に「相続放棄申述書」を家庭裁判所に提出するなど、所定の手続きを行う必要があります。
大まかな流れは以下の通りです。
①相続放棄申述書を作成する
所定のフォーマットおよび書式の記入例などは裁判所のホームページで確認することが可能です。
相続放棄申述書ダウンロード(外部リンク)
②家庭裁判所に必要書類を提出
相続放棄申述書の作成が完了したら、家庭裁判所に必要書類を提出する必要があります。
提出が必要なのは以下の3点です。
・相続放棄申述書
・相続放棄申請者の戸籍謄本
・被相続人(故人)の除籍謄本・住民票の除票
③相続放棄申請受理通知書の受理
必要書類を家庭裁判所に提出すると、後日裁判所から相続放棄申請受理通知書が届きます。
この通知書の受け取りをもって、相続放棄は完了します。
なお、相続放棄の申請にかかる費目の代表例として、以下が挙げられます。
・相続放棄申述書に貼付する印紙代(800円)
・戸籍謄本(450円)
・被相続人の除籍謄本(750円)
・被相続人の住民票(※約300円)
・司法書士/弁護士に代行を依頼した場合の費用(3万円程度)
※自治体によって異なります
相続放棄を検討する際の注意点
相続放棄を行う際の注意点は、相続するものすべてを放棄しなければならないという点です。
再建築不可の物件を放棄できる一方で、その他の優良な資産も手放す必要があります。
そのため、資産と負債になるもの(もしくはなりそうなもの)をできるだけ厳密に見極めた上で相続放棄するかどうかの判断が求められます。
また、再建築不可の土地を相続放棄したとしても、土地の管理義務がすぐになくなるわけではありません。
相続財産清算人が選定されるまでは相続人になるはずだった人が管理していく必要があります。
なお、相続財産清算人は家庭裁判所に請求することで選定されますので、相続放棄申請受理通知書が届き次第、速やかに管理人の選定請求を行うようにしましょう。
再建築不可物件の売却
再建築不可の物件を相続してしまったものの、相続した他の資産が放棄する必要のないものであれば、再建築不可物件を単独で処分する方法を検討しなければなりません。
ここでは、再建築不可物件の売却に絞ってポイントを整理してみたいと思います。
43条但し書き道路の適用申請
再建築不可となってしまう原因を取り除くために、隣接地の所収者から隣地を購入・賃借することで再建築を可能にすることができれば、売却の可能性が広がります。
建築基準法第43条の但し書き(例外規定)では、建築物の敷地周辺に空地や通路があり、建築審査会の許可を受ければ、建築が認められる旨の記載があります。
これを43条但し書き道路と呼びます。
再建築不可物件の多くは接道義務を果たしていないことを原因として再建築不可となっています。
接道義務とは、建築物の敷地が幅員4m以上の道路に2m以上の間口で接していることを求めるもののため、隣地から土地を購入、もしくは賃借することで間口を広げ、この条件をクリアすることができれば要件を満たす可能性があります。
ただし、市町村に設置されている行政機関の建築審査会の審査によって認められる必要がありますので、申請すれば必ず認められるわけではないということに注意が必要です。
43条但し書き道路につきましては、以下の記事で詳しく説明しておりますので、そちらも併せてご確認ください。
「再建築不可物件の救済措置とは?43条但し書き道路の条件と申請方法」

再建築不可物件のまま売る
上記方法でなかなか売却が進まない、早期に売却したいという方には、再建築不可物件のまま売却を行う「買取」が選択肢の一つとなってきます。
ここでいう買取とは、不動産会社に直接買い取ってもらうことを指します。
買取の場合、不動産仲介業者による売り手と買い手のマッチングと比べると、売却額は相場よりも安値となってしまうことが一般的です。
その一方で、不動産会社が査定し、その金額で双方が合意できればばすぐに買取となりますので、素早く現金化できることがメリットとなります。また、仲介手数料もかかりません。
これらのメリットが所有者様の求めているものと合致するのであれば、買取という選択肢も現実的なものとなってくるでしょう。
以下も参考にして下さい。

まとめ
ここまで、再建築不可の物件を処分するという観点で、相続前・相続後に行っておくべき準備と対策についてまとめてきました。
ポイントは以下の通りです。
①相続する前の段階から準備を進めておき、被相続人とのコミュニケーションを行う
→その際、相続する不動産の再建築可・不可についても確認しておく
②相続した資産の中に再建築不可の物件があり、処分を検討する場合、相続放棄・売却・買取などが主な選択肢となる
③まずは再建築不可物件の査定を行い、その市場価値を把握した上で②の選択肢を検討する
相続されるもしくは相続された不動産について、明確に用途が決まっていない場合は、不動産会社にご相談してみることをオススメいたします。
当該不動産が再建築可・不可の確認、物件価格の査定などを不動産のプロに相談した上で判断されることが望ましいです。
その場合、再建築不可の物件は不動産の中でも特殊性が高いので、売却・買取実績の豊富な不動産会社に相談することが重要です。
その判断が難しいという方は、複数の不動産会社に話を聞き、あなたが所有する不動産について最適な査定・提案ができそうな不動産会社を選定するとよいでしょう。
