相続放棄とは
相続放棄とは、法定相続人が財産を一切相続しないことを意味します。
もともと相続人の立場であっても相続放棄したら「はじめから相続人ではなかった」状態になります。
資産も負債も一切相続しません。
相続しない資産の例
・預貯金
・株式、投資信託
・仮想通貨
・不動産
・車
・各種積立
・骨董品や貴金属、アンティークコイン等の動産
相続しない負債の例
・消費者金融からの借金
・クレジットカードの残債
・ カードローン
・ 事業用ローン
・未払い家賃
・ 未払いの税金、健康保険料
・(連帯)保証債務
相続放棄すると、預貯金や不動産などの資産を一切相続できなくなりますが、借金や滞納税などの負債も相続せずに済みます。
大きな負債を相続してしまった方には大きなメリットとなるでしょう。
相続放棄すべきケースとは
以下のような場合、積極的に相続放棄を検討してみてください。
負債が資産を上回る
遺された遺産の内訳として「負債が資産を上回る債務超過の状態」であれば、相続放棄をお勧めします。
債務超過の状態で相続してしまったら、遺産を全部使っても債務を支払いきれないからです。
相続人が自分の財産を使って支払わねばなりません。
払えなかったら相続人も自己破産せざるを得なくなるケースもあります。
相続放棄してしまったら、どんなに多額な負債も払う必要がありません。
遺産が債務超過なら早めに相続放棄しましょう。
税金や健康保険料などの公的な負債を相続した
税金や健康保険料などの公的な負債を相続してしまった場合、たとえ相続人が債務整理をしても免除してもらえません。
これらの負債は個人再生や自己破産の対象にならないからです。
分割払いなどで必ず支払わねばなりません。
高額な税金や健康保険料などの負債を相続した場合、他に資産がないなら早めに相続放棄しましょう。
相続トラブルに巻き込まれたくない
遺産にあまり関心がない、他の相続人との折り合いが悪いなどの事情で、なるべく遺産相続トラブルに巻き込まれたくない方も多いでしょう。
実際、相続トラブルが発生すると3年、5年と争いが続くケースも少なくありません。
相続争いを避けたいなら、相続放棄がお勧めです。
相続放棄が認められたら、遺産分割協議に参加する必要もなく、貴重な人生の時間を無駄にするリスクを避けられます。
生命保険や死亡退職金を受け取れる
相続放棄しても、生命保険金の受取人に指定されていたら保険金を受け取れます。
会社に死亡退職金制度があり、指定された遺族であれば死亡退職金も受け取れます。
このように「生命保険金や死亡退職金を受け取れれば充分」という考えであれば、相続放棄が1つの選択肢となるでしょう。
法定相続人になる人は?
そもそも相続が起こったとき、誰が法定相続人となるのでしょうか?民法の定めるルールを確認しましょう。
以下の記事も参考にして下さい。

相続についての基本は以下にもまとめています。

配偶者
夫や妻は常に法定相続人となります。ただし内縁の配偶者には相続権が認められません。
子ども、孫
子どもは第1順位の法定相続人なので、子どもがいれば必ず相続人となります。
養子や認知した子ども、以前の配偶者の子どもも、婚姻中に生まれた実子と同じだけの相続権を持ちます。
子どもが親より先に亡くなっている場合、孫がいれば「代襲相続人」として相続権を取得します。
孫も先に亡くなっていたらひ孫が相続します。
親などの直系尊属
親は第2順位の法定相続人です。
子どもや孫がいなければ親が相続人となります。
親が先に死亡しており祖父母が生きていれば祖父母が相続し、祖父母も先に死亡して曾祖父母がいれば曾祖父母が相続します。
兄弟姉妹
兄弟姉妹は第3順位の法定相続人なので、亡くなった人に子どもも親もいなければ兄弟姉妹が相続します。
兄弟姉妹が先に亡くなっていてその子どもである「甥姪」がいたら、甥姪が代襲相続します。
ただし甥姪が先に亡くなっていた場合、甥姪の子どもは相続人になりません。
相続放棄をすると相続権は誰に移るのか?
配偶者、子ども、親などが相続放棄したら、他の相続人へ相続権が移る可能性があります。
ケースごとに相続権がどのように移転するのか、確認しましょう。
配偶者が相続放棄する場合
配偶者が相続放棄しても、他の人へ相続権は移りません。
ただし他の相続人の法定相続分(割合)は増加します。
たとえば配偶者と子どもが法定相続人になる場合、もともとの法定相続分は配偶者が2分の1、子どもが2分の1です。
配偶者が相続放棄すると、子どもが100%相続します。
子どもが相続放棄する場合
子どもが相続放棄した場合、親へと相続権が移ります。
孫がいたとしても孫への代襲相続は発生しません。
孫が相続したくないケースでも、孫自身が相続放棄する必要はありません。
借金を相続したくないなどの事情で子どもが相続放棄するときには、被相続人の親(放棄者の祖父母)へ通知しましょう。
そうでないと、親が借金を払わねばならない可能性があります。
父母が相続放棄する場合
父母が相続放棄したとき、祖父母など上の世代の直系尊属が生きていたらそちらへと相続権が移ります。
借金相続を避けたいなら、祖父母も一緒に相続放棄するのが良いでしょう。
祖父母等も相続放棄をした場合
親も祖父母も曾祖父母も、すべての直系尊属が相続放棄したら兄弟姉妹に相続権が移ります。
兄弟姉妹も相続放棄したら、配偶者がいない限り相続人は不存在となります。
兄弟姉妹の子どもである甥姪には代襲相続されないので、甥姪は相続放棄する必要はありません。
相続放棄の注意点
相続放棄をするときには、以下の点に注意しましょう。
相続開始を知った日から3ヶ月以内に行う
相続放棄には期限があります。
基本的に「相続開始を知ったときから3ヶ月以内」に家庭裁判所で「相続放棄の申述」をしなければなりません。
この3ヶ月間を「熟慮期間」といいます。
たとえば親の遺産を放棄するなら「親が死亡したときから3ヶ月以内」に家庭裁判所で手続きをしないと、借金も含めてすべて相続しなければなりません。
ただし子どもが相続放棄した場合の親、子どもと親が相続放棄した場合の兄弟姉妹など「次順位の法定相続人」については「前順位の法定相続人が相続放棄した事実を知ってから3ヶ月」が期限となります。
次順位の相続人とトラブルになる可能性がある
相続放棄すると、次順位の相続人へ相続権が移るケースがあります。
たとえば子どもが相続放棄したら親へ相続権が移りますし、親が相続放棄したことで兄弟姉妹へ相続権が移るでしょう。
前順位者が相続放棄するときには、次順位の相続人へ「相続放棄します」と伝えないと、トラブルになる可能性があります。
たとえば親のいないケースで子どもが相続放棄したために兄弟姉妹へ相続権が移ると、債権者は兄弟姉妹へ借金の支払い請求をするでしょう。
突然借金の督促をされて、兄弟姉妹はパニックになるかもしれません。
兄弟姉妹は子どもに対し「なぜ言ってくれなかったのか」と不満を抱き、親族関係にヒビが入ってしまうのです。
こういったことにならないよう、相続放棄するなら次順位の相続人にも伝えておくのが良いでしょう。
家庭裁判所で申述する必要がある
相続放棄は、家庭裁判所で「相続放棄の申述」をしなければ有効になりません。
相続人同士で話し合い「私は一切相続しません」などと書いた文書を差し入れても無効です。
相続放棄をするときには、必ず家庭裁判所で手続きをしましょう。
相続人の財産に手を付けた場合は相続放棄できない
相続放棄したいなら、絶対に遺産に手を付けてはなりません。
たとえば遺産の預貯金を引き出したり使ったり自分の口座に移したりしたら、相続放棄できなくなってしまいます。
遺産に手を付けると「単純承認」が成立してしまうからです。
いったん単純承認が成立すると、資産も負債も全部相続しなければならず、相続放棄を受け付けてもらえなくなります。
相続放棄するなら預貯金や不動産、株式などの資産には近づかず、単純承認する相続人へ管理を任せましょう。
相続放棄の取消はできない
いったん相続放棄した場合、取消はできないので注意しましょう。
相続放棄後に高額な資産が見つかって「やっぱり相続したい」と思っても、相続放棄していたら資産を相続できません。
相続放棄する前に、資産と負債の状況についてしっかり調べておく必要があります。
ただし詐欺や強迫によって相続放棄させられた場合、未成年者が法定代理人の承認なしに勝手に相続放棄した場合などには、例外的に相続放棄を撤回できる可能性があります。
相続放棄の手続きに疑問があるなら、早めに弁護士に相談してみてください。
相続放棄の期間延長について
相続放棄できる期間は、基本的に「相続開始を知ってから3ヶ月以内」です。
ただ、相続人が海外に居住していたり相続財産が複雑だったりして、相続放棄するかどうかを決定できないケースもあるでしょう。
熟慮期間内に相続放棄するのが困難な事情があれば、相続放棄の期間を延長できる可能性があります。
そのためには、熟慮期間内に家庭裁判所で「熟慮期間伸長の申立」をして認めてもらわねばなりません。
延長される期間はケースバイケースですが、数ヶ月程度となるでしょう。
延長された期間内に申請すれば、熟慮期間の再延長も可能です。
どうしても相続放棄するかどうか決めにくい事情があれば、早めに家庭裁判所へ熟慮期間伸長の申立をしましょう。
相続放棄手続きの手順
相続放棄したいときには、以下のような手順で進めてください。
相続放棄申述書を作成
まずは「相続放棄申述書」を作成しましょう。
申述書には家庭裁判所の定める書式があります。
こちらのリンクから書式をダウンロードしてご利用ください。
20歳以上の方
20歳未満の方
https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_13_02/index.html
家庭裁判所に申述書を提出
相続放棄の申述書を作成したら、必要書類とともに家庭裁判所へと提出しましょう。
必要書類
必要書類は以下のとおりです。
・相続放棄の申述書
・被相続人の住民票除票または戸籍附票(市町村役場で取得しましょう)
・申述人の戸籍謄本(全部事項証明書)(市町村役場で取得しましょう)
・被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(全部事項証明書)(市町村役場で取得しましょう)
代襲相続人、親や兄弟姉妹が相続放棄する場合には、上記と別途戸籍謄本類が必要となります。
費用
相続放棄には費用がかかります。具体的には以下のとおりです。
・収入印紙800円分
・ 連絡用の郵便切手
郵便切手の金額や内訳は裁判所によって異なるので、事前に裁判所に電話して確認しましょう。
裁判所から届いた相続放棄照会書、相続放棄回答書を返送
相続放棄の申述書を提出すると、しばらくして家庭裁判所から「相続放棄照会書、回答書」という書類が送られてきます。
ここには、家庭裁判所からのさまざまな質問事項が書かれています。
「生前の被相続人との関係は」「いつ死亡の事実を知ったのか」「把握している財産内容は」などの質問が主となるでしょう。
回答書へ回答事項を記入し、家庭裁判所へと返送してください。
家庭裁判所で審理される
回答書を送ると、家庭裁判所でその内容が審理されます。
問題がなければ申述が受理されます。
相続放棄の受理書が送られてくる
相続放棄の申述が受理されたら、家庭裁判所から申述人へ「相続放棄の受理書」が送られてきます。
これで相続放棄の手続きが完了します。
債権者から連絡が来たとき、相続放棄の受理書を示せばそれ以上請求される心配はありません。
まとめ
借金や滞納税などの負債を相続してしまったら、早めに相続放棄を検討しましょう。
相続財産調査に手間取ってしまい期限が気になる方、自分で適切な対処方法を判断できない方には、弁護士に相談するようお勧めします。
共有不動産を相続して対応に迷っている場合、相続放棄しなくても共有持分や不動産全体を売却して解決できる可能性もあります。
不動産絡みで困ったときには、お気軽に共有物件買取プロへご相談ください。