不動産の共有状態を解消するには、他の共有持分権者と話し合うなどして「共有物分割」の手続きをしなければなりません。
話し合っても合意できなければ、裁判所で「訴訟」を起こす必要があります。
共有物分割訴訟にはメリットだけではなくデメリットもあるので、どういった手続きなのかを正しく理解しておきましょう。
今回は共有物分割請求訴訟のデメリットについて、詳しく解説します。

目次
共有物分割請求訴訟とは
共有物分割訴訟とは、「訴訟」によって共有物の共有状態を解消してもらう手続きです。
当事者同士の話し合いでは解決できないとき、裁判所に判断を委ねるために訴訟を利用します。
一般的には訴訟ではなく「裁判」と呼ばれるケースが多いので、その方がわかりやすいかもしれません。
訴訟で訴える人を原告、訴えられた人を被告といいます。
共有物分割請求訴訟は、話し合いの手続きではありません。
裁判官が当事者の主張をきいて判決をくだし、共有物の分割方法を決定します。
また判決には強制力があるので、判決が出たらその内容に従って共有物を分割しなければなりません。
たとえば裁判所が「土地を分筆して分けるように」という判決を下したら、共有だった土地を分筆してそれぞれの共有者が分筆後の土地を取得します。
不動産の共有状態を解消したい場合にも共有物分割訴訟をすれば分割してもらえます。
共有物分割方法の種類
共有物の分割方法には、以下のような種類があります。
詳細については以下にもまとめています。

現物分割
現物分割は、共有物を「そのまま分割」する方法です。
土地であれば1筆の土地を1人が取得し、建物であれば1棟の建物を1人が取得します。
代償金の支払いはしません。
たとえば3人で共有している300平方メートルの土地を現物分割するときには、100平方メートルごとに分筆して1人1筆ずつ取得したりします。
現物分割はもっとも単純でわかりやすく、共有物分割の基本となる方法です。
換価分割(代金分割)
換価分割は、共有物を売却して代金を分け合う方法です。
現物分割では、どうしても共有者間で不公平になりやすい問題があり、誰か1人が土地や建物を取得すると、他の共有者は何も取得できなくなってしまいます。
土地であれば分筆して分けられるケースもありますが、建物の場合には分筆もできません。
代金を分ける方法であれば公平に分割できるので、当事者の意見がまとまらない場合には裁判所が換価分割を決定する可能性があります。
換価分割を「代金分割」とよぶケースもあります。
裁判所が判決で換価分割を決定するときには、不動産の競売命令が下ります。そうなったら通常の不動産市場で売却できなくなる可能性があるので、注意しましょう。
競売になると売却代金が低くなるケースも多いので、換価分割になるくらいなら共有者間で和解して売却して代金を分ける方が利益を残しやすいことも覚えておきましょう。
代償分割(価格賠償)
3つ目の方法は代償分割です。
代償分割とは、誰か1人の共有持分権者が物件を取得し、他の共有持分権者へ代償金を払う方法です。
「価格賠償」と呼ばれるケースもあります。
たとえば3,000万円の価値のある不動産を3人で共有しているとき、1人が不動産を取得して他の2人に1,000万円ずつの代償金を払います。
代償分割は、以下の要件を満たす場合にしか指定されません。
・共有者のうち1人が土地や建物の取得を希望している
・ 取得希望者が不動産を取得するのが合理的である
・代償金の金額が客観的な評価額と一致しており合理的である
・取得希望者が代償金を支払う能力がある
誰も不動産の取得を希望しないのに、いきなり裁判所の判断で代償分割されることはありません。
また誰かが不動産の取得を希望しても、代償金を払う能力がなければやはり代償分割の判決は出ないと考えましょう。
共有物分割請求訴訟を起こすメリット
共有物分割請求訴訟を起こすと、以下のようなメリットがあります。
合意なしに共有状態を解消できる
不動産の共有状態を解消したくても、他の共有者と合意ができなければ協議や調停では解消できません。
そのままではずっと面倒な共有関係が続いてしまいます。
共有物分割請求訴訟を起こせば裁判所が共有状態を解消してくれるので、合意なしに共有状態を解消できます。
面倒な共有関係から外れたい方には大きなメリットとなるでしょう。
共有物分割請求訴訟のデメリット
共有物分割請求には、以下のようなデメリットもあります。
解決まである程度の時間が必要
共有物分割請求訴訟は1種の裁判なので、時間がかかります。
短くとも半年程度はみておく必要があるでしょう。
場合によってはもっと長びく可能性もあります。
スピーディに解決したいなら、訴訟ではなく話し合いで解決すべきといえるでしょう。
手間がかかる
訴訟には大変な手間がかかります。
まずは弁護士を探して依頼しなければなりませんし、たくさんの資料を集める必要があります。
相手から反論がでたら弁護士と面談して打ち合わせをしなければなりません。
手間をかけたくない方にはお勧めではありません。
高額な費用が発生する
共有物分割請求訴訟をするときには、弁護士への依頼が必須となります。
自分1人で訴訟を進めるのは困難でしょう。
ただ弁護士に依頼すると、当然費用が発生します。
共有不動産の評価額にもよりますが、数十万円、ときには100万円以上の費用がかかるケースも少なくありません。
また訴訟を提起するために印紙代や郵便切手などの実費も発生します。
不動産鑑定が必要になるケース
代償分割を行う際には、客観的に合理的な不動産価格を把握しなければなりません。
当事者間で意見が対立する場合には、不動産鑑定が行われるケースもあります。
その場合、不動産鑑定士に数十万円単位の費用を払わねばならないので、さらに費用がかさみます。
このように、共有物分割請求をすると弁護士費用や裁判費用がかさむので、かなり高額な出費が発生するデメリットがあります。
競売時は市場価格より値が下がる
共有物分割請求訴訟では、換価分割の判決がくだされる可能性もあります。
判決で換価分割が指定されると、不動産は基本的に「競売」によって売却されます。
競売の場合、裁判所が関与して強制的に売却されるので、当事者が自分たちで値付けできません。
実際、競売になると一般市場取引金額より低くなってしまうケースが多々あります。
「競売にかかる費用」も差し引かれるので、さらに手取り額が低くなりやすいことも問題です。
同じ不動産を売却するなら、自分たちで協力して市場で売却する方が、手元にお金を残しやすいでしょう。
共有者同士の関係に亀裂が入る
不動産を共有している人は、元夫婦(離婚した場合)や兄弟姉妹(相続した場合)など、もともと何らかの関係のあった(ある)ケースが多数です。
訴訟を起こすと「相手と争う」ことになってしまうので、こうした人間関係にヒビが入ってしまうリスクが高まります。
特に相続案件などで兄弟姉妹、親子で不動産を共有している場合には、その後の親族付き合いに大きな悪影響を及ぼしてしまう可能性が懸念材料です。
親類同士で不動産を共有している場合には、できるだけ話し合いで共有物を分割する方がよいでしょう。
共有物分割請求訴訟の流れ
共有物分割請求訴訟は、以下の流れで進めます。
事前に協議する
共有物分割請求訴訟をするには、前提として「話し合いが決裂したこと」が必要です。
相手と意見が合わないことが予想されるケースでも、いきなり裁判はできません。
まずは他の共有者に声をかけて話し合いをしましょう。
直接話し合うのが嫌な場合、調停を利用してもかまいません。
何の話し合いもせずにいきなり裁判を申し立てても手続きを進めてもらえないので、注意してください。
弁護士に相談する
共有物分割訴訟を素人が自分で進めるのは困難です。
訴訟をすると決めたら、まずは弁護士に相談してみてください。
できれば不動産関係に詳しく積極的に取り組んでいる弁護士を探しましょう。
地方裁判所へ訴訟申し立て
共有物分割請求訴訟を起こすときには「地方裁判所」へ申立をします。
裁判所には管轄があるので、間違えてはなりません。
被告(相手方)の住所地を管轄する地方裁判所または不動産が存在する地方裁判所で提訴の手続きを行いましょう。
弁護士に依頼すれば、適切な裁判所へ訴状や必要書類を提出してくれます。
裁判所から呼出状が送付される
提訴の手続きが完了すると、1ヶ月くらいの間に裁判所から口頭弁論期日への呼出状が届きます。
そこには第1回口頭弁論期日の日時や出頭すべき場所が書かれています。
弁護士に依頼した場合には期日の連絡は弁護士を通じて行うので、依頼者のもとに呼出状は届きません。
第1回口頭弁論
弁護士に依頼していない場合、第1回口頭弁論に出席しなければなりません。
ただし被告は欠席する可能性があります。
第1回期日に限っては、答弁書を提出しておけば被告は出席しなくてよいことになっているからです。
弁護士に依頼した場合には、通常弁護士のみが出席するので当事者は裁判所へ行く必要がありません。
ただし出席したい場合には、弁護士と一緒に裁判所へ行っても差し支えありません。
審理
第1回口頭弁論後は、争点や証拠の整理手続きが開かれます。
だいたい月1回くらいの頻度で期日が開かれ、共有者間で意見や資料を出し合っていきます。
和解
共有物分割請求訴訟では、裁判官から和解の勧告が行われるケースが多々あります。
第1回口頭弁論期日の直後に和解が勧められるケースもあれば、証人尋問前などの手続きが進んだ段階で和解が行われるケースもあり、タイミングは状況に応じてさまざまです。
話し合いによって解決できるなら、その方が手続きを早く終わらせられます。
自分たちの希望に従った分割方法を実現できるメリットもあるでしょう。
裁判官から和解を勧められたら、まずは話し合いのテーブルについて相手の意見も聞いてみるようお勧めします。
弁護士に相談しながら、不利益を受けないように手続きを進めていきましょう。
判決が下される
審理が進み、当事者がどうしても合意できない場合には最終的に裁判官が判決を下します。
判決では、現物分割、換価分割、代償分割のいずれかが選択されると考えましょう。
現物分割できないケースで誰も不動産の取得を望まない場合や代償金の支払い能力がない場合、換価分割が選択される可能性が高くなります。
競売を避けたいなら、事前に和解して自分たちの手で不動産を売却する方が大きな利益を得られやすいでしょう。
共有物分割請求訴訟でかかる費用
共有物分割請求訴訟には、以下のような費用がかかります。
収入印紙、郵便切手代
まずは裁判所に納める手数料を収入印紙のかたちで払わなければなりません。
収入印紙代は、不動産価額によって異なります。
対象の不動産の評価額が高くなると、収入印紙代も高額になる計算方法です。
弁護士費用
弁護士に訴訟の代理を依頼する場合、弁護士費用もかかります。
弁護士費用の価額も共有不動産の評価額によって変わるのが通常です。不動産が高額であれば弁護士費用も高くなります。
同じ事件でも弁護士事務所によっても金額が大きく変わる可能性があるので、いくつかの事務所で見積もりをとってみるとよいでしょう。
不動産鑑定にかかる費用
共有物分割訴訟で不動産鑑定が必要になると、鑑定費用がかかります。
不動産の内容にもよりますが、20~30万円程度はかかると考えましょう。
困ったときは専門家に相談を
共有物分割訴訟では、法律論に従った書面や証拠の提出が必要です。
素人では対応が困難となるでしょう。
適切な和解のタイミングや内容なども見極める必要があります。
期待と異なる判決が出て後悔しないため、当初から不動産関係に詳しい弁護士に相談・依頼しましょう。
まとめ
共有物分割訴訟を起こすと強制的に共有状態を解消できますが、デメリットがたくさんあります。
どちらかというと「どうしても話し合いができないときの最終手段」に近い手続きと考えましょう。
また共有物分割訴訟を起こす場合には、不動産関係に詳しい弁護士に依頼するようお勧めします。
訴訟をしなくても、共有持分のみ売却する方法によって共有関係から外れる方法があります。
共有持分を不動産会社に売れば、共有不動産との関わりを解消して代金も得られるので、大きなメリットを得られます。
当社でも共有持分の買取に積極的に取り組んでいるので、関心がありましたらぜひご相談ください。