原状回復トラブル解決の教科書【弁護士解説の保存版】

國竹弁護士(正面) 特集記事
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2021年度、国民生活センターには12,677件もの敷金・原状回復トラブルの相談が寄せられています。

2021年度消費生活相談データベース(PIO-NET)に登録された相談件数:12,677件
相談件数は2022年6月30日現在(消費生活センター等からの経由相談は含まれていません)。

引用元:独立行政法人国民生活センター

この件数は氷山の一角であり、泣き寝入りしている入居者さんも少なくないでしょう。

こういった背景により、国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を1998年(平成10年)に策定しています。

退去時における原状回復をめぐるトラブルの未然防止のため、賃貸住宅標準契約書の考え方、裁判例及び取引の実務等を考慮のうえ、原状回復の費用負担のあり方について、妥当と考えられる一般的な基準をガイドラインとして平成10年3月に取りまとめた。

引用元:国土交通省

とはいえ、12,000件以上もの相談が寄せられている現状を考えると、管理会社やオーナー側の意識改革を待つばかりではなく、入居者自身が自衛を行っていく必要があります。

そこで、今回は「賃貸借に関するトラブル」を得意としている、四谷見附法律事務所の弁護士 國竹千恵美 先生に直接お話を伺いました。

國竹弁護士 宣材写真2

國竹千恵美(くにたけ ちえみ)弁護士。首都大学東京法科大学院卒業後、都内法律事務所や大手保険会社で勤務。社内弁護士として、契約書のリーガルチェック、各事業部からの法務相談、金融ADR対応などさまざまな経験を経て、四谷見附法律事務所へ入所。これまでに積んできた多彩な経験と、人としての共感性・法律家として客観性のバランスをもとにした、依頼者に寄り添った問題解決を強みとしている。

原状回復費用の相場や基準は決まっているのでしょうか?

原状回復費用は、お部屋の規模や損傷具合によるため、一律で相場が決まっているわけではありません。

ただし、基準としては、国交省の定めるガイドラインである程度明確になっています。

ガイドラインは、原状回復の費用負担のあり方について、トラブルの未然防止の観点から現時点において妥当と考えられる一般的基準を取りまとめたものです。

ガイドラインでは、建物の損耗の原因を大きく以下の3つに分けて区分しています。

賃借人の通常の使用により生ずる損耗(通常損耗)

通常損耗とは、入居者が通常の使用、住まい方をしていても発生してしまうと考えられる汚れや傷のことです。

例えば、「冷蔵庫やタンスなどの重い家具を設置していたためについた床の跡」「画鋲の差し跡」等があげられます。

通常損耗の修繕費用は、賃料の中に含まれていると解釈されるため貸主(大家さんや管理会社)負担が原則です。

賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等(特別損耗)

入居者さんが、わざと(故意)、あるいは一般的に払うべき注意義務(善管注意義務)を怠ったことで、生じた汚れや傷のことです。

例えば、「壁を殴って空けた穴」「結露を長期に渡って放置した大量のカビ」「ヘビースモーカーによる壁一面の黄ばみ」等があげられます。

特別損耗の修繕費用は、賃料の中に含まれているとは解釈されないため、借主(入居者)の負担が原則です。

年月の経過を原因とした劣化(経年劣化)

年月の経過によって自然に生じた劣化や建物の価値の減少のことです。
どんなに丁寧に入居者が使用していたとしても、形あるものは少しづつ劣化してしまいますよね。

例えば、畳やクロスも徐々に日焼けはしてしまいますし、エアコン等の設備も寿命は来ます。

経年劣化は、借主(入居者)の責任ではないので、貸主(大家さんや管理会社)の負担が原則です。

もちろん、契約書で原状回復に関して特約等を定めることも可能です。

通常損耗の場合でも、借主が原状回復義務を負うとする内容の特約を通常損耗補修特約といいます。

しかし、そのような特約は、借主に予期しない負担を課すものです。

そのため、判例においても

「賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に契約書で明らかでない場合は、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意のないようとしたと認められる」

など、特約が明確に合意されていなければ、特約の有効性を認めていません。

例えば、1Kで家賃10万円のマンションにおいて、「退去時に30万円のクリーニング費用を支払う」といった特約が設定されている場合、具体的な通常損耗の範囲が明記されておらず、金額も家賃と比して合理的であるといえないことから、特約の有効性は認められない可能性が高いでしょう。

管理会社にどのように伝えれば良いでしょうか?

「どこの補修をするためにこんなに費用がかかるんだろう?」「明らかに高い・・・」と感じるようであれば管理会社に質問してみてください。

管理会社が窓口となっている場合、詳細を教えてくれるはずです。管理会社が窓口でない場合は、大家さんに確認しましょう。

具体的には、

    1. 具体的な損耗はどのような内容か?
    2. 補修工事はどのようなものを想定しているのか?

等を聞いてみてください。

[1]に関して、その損耗が本当に借主側の負担であるのかをガイドラインで確認します。
基本的にはガイドラインにある表をチェックすればよいかと思います。

[2]に関して、その補修工事の費用は相場から逸脱していないを確認します。
インターネットで検索するだけで、おおまかな相場は分かります。
例えば、「クロス張替え 相場」などで検索してみると良いでしょう。

  1. に関して、本来であれば貸主(大家さんや管理会社)側が原状回復義務を負う損耗の補修を入居者側に請求している。
  2. に関して、補修の相場費用を逸脱している。

このような場合、管理会社にその旨を伝えましょう。

伝える際には、必ずメールや書面等残る形で伝えてください。

管理会社が、損耗の内容や程度について説明をしてくれて、双方が納得のいく対応を行ってくれるのであれば一件落着です。

管理会社が誠実に対応してくれなければ次はどうすればよいでしょうか?

管理会社が、回答期限を過ぎても何の対応も回答もしてもらえない場合は、第三者に相談することも検討しましょう。

丁寧に相談に乗ってくれますし、具体的にどのように動けば良いのか等のアドバイスをもらえるでしょう。

最初から弁護士に相談するのはどうでしょうか?

国民生活センターや市区町村の窓口では、助言をもらえますが、直接的な交渉はしてもらえません。

そのため、直接間に入って交渉してもらって、解決をしたい場合は弁護士に相談しましょう。

実際に任意交渉(弁護士が相手方と直接交渉すること)や裁判となると、弁護士費用が発生してしまいますが、初回相談が無料の弁護士も多いので、一度相談をしてみることをおすすめします。

極論ですが、支払いを無視するのはどうでしょうか?

支払いを無視したとしても、賃貸人(管理会社やオーナー)側が調停を申し立てたり、訴訟を提起してくる可能性があり、根本的な解決にはなりません。

納得がいかない場合は、一度弁護士にご相談することをおすすめいたします。

印象的だった原状回復トラブルはありますか?

國竹弁護士 依頼風景
最近は、ペットの飼育に関する原状回復のトラブルが増えています。

ペットの飼育不可となっている物件において、入居者が勝手に飼っていたことで出来た汚れや傷であれば、当然に特別損耗ですので、借主側が原状回復義務を負います。

一方で、ペット飼育可能の物件であったとしても、ペットによる汚れや傷が全て通常損耗に当たるわけではありません。

例えば、

  • ペットの排泄物を長期間放置して染み付いた汚れ
  • 爪で引っ掻いたことにより床や壁についた傷

などは、特別損耗として賃借人が原状回復義務を負う可能性が高いです。

ペットによる傷や汚れ、臭いが、本当にペットにより付いたものなのか(元からあったものや、経年劣化によるものではないか)は、争いになる可能性がありますので、契約する段階で、しっかり確認をしておいた方がいいでしょう。

弁護士の選び方を教えてください。

弁護士ごとにそれぞれ専門性や進め方が異なりますので、

  • 不動産関連のトラブルを良く扱っているか
  • 説明がわかりやすいか
  • 相談者の意向をくんで対応をしてもらえるか

などを意識して弁護士選びを行うと良いでしょう。

弁護士に相談することで、法的にどのような解決方法があるのかが明確となり、一番適切な解決方法を一緒に考えてもらえると思います。

まとめ

年間に1万件以上のトラブル相談が寄せられている現状を考えると、やはり不動産業界のトラブルは身近なものであると感じます。

業界が変わることはもちろん大切ですが、やはり入居者自身もトラブルに対応できる知識を備えるに越したことはありません。

知識といっても、難しく考える必要はありません。

上記でご説明したような簡単な知識を使うことで、話し合いをすることができます。

また、あわせて相談窓口も積極的に活用してみてください。

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