借地権とは何か?
借地権とは、建物を建てるために地代を払って他人から土地を借りる権利のことを言います。
1921年に制定された借地法(旧借地権)は、借地人の保護に重点を置いたものでしたが、借地法の課題点を踏まえて1992年に新たに制定された借地借家法では、地主にも配慮された法改正が行われました。
こういった背景があるため、「借地権」は1992年以前からあった「旧借地権」と借地借家法以後の「新借地権」と区別されています。
新・旧借地権の種類とその概要
現存している借地権は、旧借地権と新借地権に区別されることに加え、新借地権はさらに2つに大別されるため、現存する借地権は以下の3つとなります。
旧借地権の概要
契約期限は決まっていますが、更新することで期限を延長して借りることができます。
契約期間の下限は、木造(以下、非堅固な建物)は20年、鉄骨造・鉄筋コンクリート造(以下、堅固な建物)は30年となります。
これよりも短い期間を定めた場合や契約期間の定めがないものについては、非堅固な建物は30年、堅固な建物は60年とされています。
更新期間に関しては、非堅固な建物は20年、堅固な建物は30年とされており、当事者間の合意があれば、この期間より長く設定することも可能です。
旧借地権
構造 | 存続期間 | 最低期間 |
更新後の期間 |
木造等 | 30年 | 20年 | 20年 |
鉄骨造・鉄筋コンクリート造 | 60年 | 30年 | 30年 |
普通借地権の概要
普通借地権は、旧法借地権の性質を引き継いだ借地権となりますが、契約期間や更新期間に関して変更されています。
新法では構造によらず一律30年(契約期間の定めがないものも含む)とし、当事者間の合意があれば30年以上とすることも可能です。
更新期間は、初回の更新が20年、それ以降は10年とし、こちらも当事者間の合意があればさらに長い期間を設定することも可能としています。
定期借地権の概要
新たに創設された定期借地権制度は、契約の更新は無しで、所定期間が経過後は更地にして地主に土地を返却する必要があります。
定期借地権には、①一般定期借地権、②建物譲渡特約付借地権、③事業用借地権の3種類があります。
新借地権
当初期間 | 更新後の期間 | |
通常の借地権
※建物の種類による区別は廃止 |
30年以上 |
初回更新:20年以上
2回目以降の更新;10年以上 |
定期借地権 | ①一般定期借地権:50年以上
②建物譲渡特約付借地権:30年以上 ③事業用借地権:10〜20年 |
更新なし |
一般定期借地権はその名の通り一般的なものを指しますので、売買される不動産の多くは一般定期借地権に該当するとご理解いただいて差し支えありません。
契約期間満了後は、土地を更地にして地主へ返還することが義務付けられていますので、定期借地権付きのマンションなどでは解体のための積立金の支払いが求められるケースがあります。
事業用定期借地権とは、用途が店舗などに限定される借地権のため、一部であっても居住用として利用することはできない点に注意が必要です。
期間満了後は地主が建物を買い取り、借地権は消滅します。
建物譲渡特約付借地権は借地権の存続期間を30年以上に設定し、期間満了後にあらかじめ決めておいた金額で借地権者が土地を買い取る形態の契約となります。
新・旧借地権の主な相違点
建物の老朽化と借地権の消滅について
旧法借地権においては、借地上に建物がある限り、半永久的に土地を利用することができました。
しかし、契約期間が定められていない場合において「建物の朽廃によって借地権の契約が終了する(借地法2条1項)」が適用され、借地権が消滅する場合があります。
なお、新法においては、上記のような条項・規定は無いため、建物の朽廃による借地契約が自動的に終了することはありません。
また、旧法においても、契約期間の定めがある場合は、建物が朽廃しても借地権は終了せず、契約期間満了まで権利が継続します。
ちなみにこの「朽廃」という言葉はあまり一般的ではありませんが、辞書的には「朽ちて役に立たなくなること」という意味です。
住宅の場合、時間の経過や風雨による腐食状態などによって社会的・経済的価値が無くなることを指します。
建物が減失した場合の借地権の消滅について
建物が朽廃ではなく減失(地震・火事などの事故や災害で倒壊、人為的な解体などによって建物が消失した状態)した場合は、新旧どちらの借地権においても借地権が消滅することはありません。
ただし、新法借地権においては、建物の減失によって契約を解約できるルールがあります。
これは旧法借地権においては規定されていないルールとなります。
ちなみに、新旧いずれにおいても、期間満了時に建物が存在しない場合は、借地権者からの更新請求による更新は認められないと規定されています。
「正当な事由」による契約更新の拒絶
旧法の借地権においては、賃借人に更新の意思があれば、原則的に借地権は更新されることとなっていました。
地主が更新を拒絶する場合は「正当な事由」が必要とされ、その定義が曖昧だったこともあり、賃借人に有利な規定となっていました。
新法ではこの点を是正することを目的に、「正当な事由」を明確に定義した上で、立ち退き料を支払うだけで更新の拒絶ができるようになりました。
この場合の正当な自由として認められるものとして、地代の不払い、地主の許可なく建物の増改築を行った、借地人が建物を使用しておらず、建物の老朽化が進み、人が住めない状態になったなどが挙げられます。
新旧ぞれぞれの借地権を取引する際の注意点
旧法で契約した土地の更新後は旧法・新法のどちらが適用されるのか?
結論から申し上げると、旧法が適用されている借地契約は、何度更新しても旧法がそのまま適用されることが原則となります。
旧法は、半永久的に土地を利用することができるという借地権者に有利な法律である一方、新法は、土地が手元に戻らないといった状況を回避するために改正された地主に有利な法律です。
地主の方の中には旧法での契約から新法へ切り替えたいと考える方も多いと思われます。
新法への切り替えは、借地権者と地主の間で合意があれば、物理的には、旧法借地権から新法の普通借地権・定期借地権に変更することも可能です。
旧法借地権の契約を合意の上で解約し、新たに新法借地権で契約し直す手続きを踏みます。
しかしこの場合、普通借地権であればまだしも、定期借地権は借地権の更新ができない契約のため、旧法で契約していた借地権者にとってはメリットはほとんどありません。
「物理的に」旧法から新法への切り替えは可能ですが、「実質的に」は旧法から新法への切り替えはできないと言って差し支えないでしょう。
借地権の売却とその際のポイント
借地権とは、一定期間その土地を自由に使用できる権利を地主から購入したものです。
そのため、契約期間は残っているにも関わらず、賃借の当初の目的を果たしてしまった場合などにその権利を売却したいという考える方も少なくありません。
結論を申し上げてしまうと、借地権の売却は可能です。
その土地を当該期間使用する権利を第三者に売却することができますが、地主の承諾を得る必要があります。
その際、借地人から地主に譲渡承諾料として借地権価格の10%程度を支払う必要があります。
借地権を売却は、地主の承諾なしに行うとトラブルになる確率が高いです。
承諾を得るための交渉・調整も個人では難しいケースが多いので、不動産会社に間に入ってもらうと良いでしょう。
借地権の売却を行う際のポイントは以下の通りです。
借地権の確認
借地権は土地貸借権と地上権の2つに分けられます。
地主から土地を借りて自己所有の建物を建てることができる権利である前者に対し、後者は他人の所有する土地を使う権利である点に違いがあります。
具体的には、前者は建て替え・リノベーション・売却時などに地主の承諾が必要になりますが、後者は不要といった点が特徴的です。
当該不動産に地上権が設定されているかどうかを事前に確認しておくことが重要になります。
借地権の適用が旧法か新法かの確認
次に借地権の内容を確認します。
借地権が旧法と新法どちらの適用となるかを確認します。
旧法であれば、一度土地を貸してしまうと取り戻すことは難しいのですが、新法であれば契約期間が明確に定められており、契約満了時に正当な事由があれば、更新を拒絶することもできます。
借地権を誰に売るか?
借地権の売却先は主に以下の2つとなります。
・賃貸人(地主)による買取
借地権を地主に買い戻してもらうケースです。
第三者が関わってきませんので、交渉は比較的スムーズに進みやすいです。
・第三者による買取
賃貸人が買取を希望しない場合は、賃貸人の許可を取った上で個人・法人を含む第三者への売却を検討します。
なお、個人間での交渉はトラブルにつながるケースが散見されますので、不動産会社に仲介してもらう方が無難と言えるでしょう。
借地権売却を専門とした不動産会社もありますので、交渉から売却までの一気通貫で依頼してしまうのも一つの方法です。
地主の「介入権」に注意
借地権を第三者に売却することは可能ですが、地主はむやみに借地権を売却されることを防ぐために介入権を行使することができます。
賃借人と賃貸人でトラブルになることが多いので注意が必要です。
まとめ
借地権については、その特徴や違いを新旧問わずしっかり理解し、トラブルを未然に防ぐ手立てを講じておきましょう。
とはいえ、借地権の更新や減失・朽廃、借地権の売却などは旧借家法や借地借家法はもとより、建築や税制についても相応の知識が必要となるため、これらが相俟って理解を難しくさせています。
こういった背景のもと、個人間で取引を進めると、とかくトラブルに発展しやすく、ご自身が損害を被るようなことにもなってしまいがちですので、知識・実績の豊富な不動産会社に仲介してもらうなどの工夫が重要になります。
不動産会社といってもさまざまな業種業態があります。
また、同じ業種であっても得手不得手もありますので、過去の事例や取引実績などを参考にしつつ、所有している不動産を実際に査定に出してみるなどして、自分で良いと思った不動産会社を絞り込んで選定していくことが重要です。
