家賃を値上げするには「正当な理由」が必要
賃貸物件の家賃の値上げは法律で認められており、大家の判断で家賃を増額できます。ただし、「正当な理由」がなければ家賃の値上げは認められない点に注意が必要です。
ここでは、家賃の値上げが正当な理由として認められるケースと認められないケースについて解説します。
家賃を値上げできる3つの正当な理由
借地借家法第32条第1項により、大家は以下のケースに該当する場合に家賃の値上げを入居者へ請求できます。
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。
ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。引用元:借地借家法第32条
条文の内容を要約すると、以下の場合には正当な理由が認められます。
それぞれのケースについて詳しく解説します。
物件の資産価値が上昇した
賃貸物件の家賃は物件の資産価値に応じて設定される形が一般的です。
そのため、街の再開発や鉄道駅の設置、建物への設備投資(老朽化部分のリフォームなど)によって土地や建物の資産価値が上がった場合は、家賃の増額が正当な理由として認められます。
物件にかかる管理費や固定資産税が上昇した
物件の資産価値が向上すると、納めるべき固定資産税や都市計画税の納税額が上がります。
また、物価の上昇に伴って建物の維持・管理費や修繕費などが高騰するケースもあります。
このように社会情勢の変化によって大家の経済的負担が増えたときは、家賃を値上げしても問題がないと見なされます。
近隣物件の相場より家賃が低い
地価や物価の上昇、新しいアパート・マンションの増加などによって賃貸物件を建築した当時よりも不動産相場が上昇することがあります。
そのような状況下で近隣の類似物件よりも家賃が明らかに安い場合は、家賃を上げる交渉が可能です。
家賃を値上げできない3つのケース
一方、以下3つのケースは家賃を増額する正当な理由に該当しません。
これらの理由によって入居者に家賃の値上げを請求したとしても、仮に民事訴訟に移行した際は、認められない点に注意が必要です。それぞれのケースを詳しく見ていきましょう。
大家の個人的な経営事情による値上げ交渉
家賃を上げるには、現在の家賃が「不相当」になっているという客観的な事情が必要であり、収益を増やしたい、賃貸経営の損失を補塡したいという理由だけで家賃を値上げすることは法律上認められていません。
参照元:借地借家法第32条
たとえ家賃増額の調停や訴訟を提起したとしても、値上げの必要性はないと判断されます。
家賃相場とかけ離れた値上げを要求している
家賃を値上げできる正当な理由があったとしても、相場から大きくかけ離れた金額は請求できません。
たとえば、近隣の類似物件の家賃が5万円のところ、所有している賃貸物件の家賃を15万円にするなどの場合です。
家賃はあくまでも適正な金額の範囲内で設定する必要があります。
賃貸借契約に家賃増額を禁止する特約がある
借地借家法第32条1項には、「一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う」と規定されています。
したがって、賃貸借契約書に「一定期間、家賃を増額しない」と記載した特約がある場合は、たとえ周辺相場よりも家賃が安い場合でも値上げはできません。
正当な理由で家賃を値上げするときの入居者への交渉の流れ
家賃の値上げ請求は、入居者の合意がないと、実現するには調停や裁判が必要になってきます。
入居者に家賃の値上げを承諾してもらえるよう、法律に則った手順で交渉しなければなりません。
家賃値上げの交渉の流れは以下のとおりです。
それぞれの流れについて見ていきましょう。
入居者に値上げを通知する
家賃の値上げを決めたら、まずは入居者に通知する必要があります。
いつまでに通知しなくてはならないという決まりはありませんが、少なくとも値上げを実施する1ヶ月以上前に通知しましょう。
契約更新のタイミングで契約解除をする場合、1ヶ月前に申し出るように定めらている賃貸物件がほとんどだからです。
1か月以上前に家賃値上げを通知することで、入居者に家賃値上げの情報を知ったうえで契約更新するか、解除するかの選択肢を与えるようにしましょう。
ただし、前章でお伝えしたように、そもそも契約更新時期の値上げ通知はなるべく避けるのが鉄則です。
家賃の値上げを通知する際は「言った」「言わない」のトラブルを避けるため、口頭ではなく書面での通知、特に書面が届いた年月日を証明できる内容証明郵便の利用をおすすめします。
法律上は、値上げの通知が入居者に届いた時点から値上げの効果が発生するので、届いた年月日を証明できることがポイントになります。
家賃の値上げを交渉する最適なタイミングは契約更新時
家賃の値上げ時期に法的な定めはありませんが、契約更新のタイミングで契約条件を見直すのが最もスムーズです。
契約更新時は、賃貸借契約そのものの条件を見直す機会が生まれるため、入居者も契約を継続するか否かを判断する時期なので、家賃の値上げについても検討してもらいやすくなります。
しかし、ここで注意すべき重要な点があります。
入居者が値上げに合意しないまま更新日を迎えてしまうと、元の家賃のまま自動的に契約が更新されてしまいます。
この場合、大家側が改めて家賃の値上げを求めるには、別途、交渉や法的な手続きが必要となり、手間や時間、費用がかかる可能性が出てきます。
そのため、家賃の値上げを通知する際は、スケジュールに余裕を持たせて行うことが非常に大切です。
契約更新の少なくとも数ヶ月前、できれば3ヶ月〜6ヶ月前には、値上げの意向と理由を記載した書面を内容証明郵便などで入居者に送付することをおすすめします。
これにより、入居者は値上げについて十分に検討する時間ができ、大家側もスムーズな交渉を進めることができるでしょう。
もし交渉が難航した場合でも、更新日までに調停や訴訟といった次のステップに進むための準備期間を確保できます。
入居者との良好な関係を保ちつつ、家賃の値上げ交渉を成功させるためには、適切なタイミングでの通知と丁寧な説明が鍵となります。
交渉する
入居者にとって家賃の値上げは極力避けたいものであり、ただやみくもに家賃を増額する旨を伝えても承諾は得られないでしょう。
値上げした家賃を払ってもらえないからといって、むりやり入居者を追い出すことはできません。
家賃の値上げに承諾してもらえない場合は、調停や訴訟も視野に入れることになりますが、これらは時間と費用がかかります。
できる限り話し合いで解決できるよう、入居者の理解を得ることが重要です。
正当な理由があるときに家賃の値上げ交渉を成功させるコツ
家賃の値上げ交渉を成功させるには、入居者の理解と協力を得ることが重要です。
ポイントは大きく3つあります。
- 根拠となる資料を提示する
- 冷静に話し合う
- 幅広い選択肢を提示する
家賃の値上げが正当であることを示すために、客観的な根拠となる資料を提示しましょう。
資料には、以下のようなものが挙げられます。
- 近隣の類似物件の家賃相場データ
- 固定資産税の納税通知書
- 管理費や修繕費の増加を示す請求書
具体的な数値やデータを示すことで、入居者は値上げの必要性をより納得しやすくなります。
また、交渉の場では、感情的にならず冷静に話し合う姿勢でのぞみましょう。
入居者も家賃の値上げには抵抗があるのが普通です。
相手の立場を理解し、一方的に要求するのではなく、なぜ値上げが必要なのかを丁寧に説明し、質問には誠実に答え、合意点を見つけるための対話をしましょう。
入居者に値上げを受け入れてもらいやすくするために、複数の選択肢を提示するのも有効です。
たとえば、以下のような提案が考えられます。
- 値上げ額を段階的に適用する
- 次回の更新料を免除する
- 共用設備の改善を約束する
入居者にとってメリットとなる選択肢を示すことで、交渉の糸口が見つかる可能性が高まります。
家賃の値上げ交渉はデリケートな問題ですが、これらのコツを活用することで、入居者との良好な関係を維持しつつ、納得のいく結果に繋げられるはずです。
交渉が不調なら裁判所に調停を申し立てる
法律に基づいて家賃の値上げ交渉を行ったとしても、入居者がそれを拒否する可能性も十分あり得ます。
その場合は裁判所に調停を申し立て、裁判官や調停委員などを交えたうえで値上げ後の家賃が適正であることを認めてもらう必要があります。
調停が終わるまで、少なくとも3か月ほどの期間がかかることは覚悟しなければなりません。
裁判所に訴訟を提起する
調停でも話し合いがまとまらない場合は、家賃の値上げを求めて訴訟を起こす流れとなります。値上げの根拠が明確であれば、裁判の場で家賃の値上げを認められるでしょう。
しかし裁判を行うには訴訟費用や鑑定費用として50~100万円ほどの費用がかかるケースも珍しくなく、家賃の値上げを勝ち取ったとしても最終的に大きな損失を被りかねません。
そのため、信頼のおける弁護士や不動産会社などに相談しながら、できるだけ話し合いで解決を目指すことをおすすめします。
家賃の値上げ交渉で起こり得る3つのトラブル
正当な理由をもとに家賃の値上げ交渉を入居者にしたとしても、トラブルが起きる可能性はあります。
家賃の値上げ交渉によって起き得るトラブルは以下の3つです。
それぞれ解説しますので、値上げを検討している大家の方は、リスクを把握したうえで値上げをするかどうか、判断してください。
家賃の支払いを拒否される
客観的事実やデータにもとづく「正当な理由」をもとに家賃の値上げ交渉をしても、入居者が素直に納得するとは限りません。
入居者にとって、家賃の値上げは毎月の出費増に深く関わることであり、理屈が通っていても、感情的な部分で納得してもらえない可能性があるからです。
家賃の値上げに対し、入居者に不満を抱かれてしまうと、現状の家賃の支払いさえ拒否されてしまう恐れがあります。
家賃の値上げをしようとした結果、現状入ってきている家賃さえ入ってこなくなっては本末転倒です。
入居者との交渉がこじれた場合は裁判で決着をつけることもできますが、費用や時間がかかります(記事内の「交渉が不調なら裁判所に調停を申し立てる」参照)。
ただ、家賃の支払いを拒否するような入居者は、日ごろからクレームや要望が多いケースがあります。
ですから、家賃の値上げ交渉をする際は、自身が経営する賃貸住宅にそうした人が何人いるかを把握しましょう。
そのうえで、そうした人に仮に家賃の支払いを拒否されても、賃上げをする価値があるかどうかを判断しましょう。
値上げを理由に解約される
家賃の値上げを理由に、賃貸契約の解除が相次ぐ恐れがあります。
固定費(毎月定額でかかる出費)である家賃の値上げは、入居者の家計をダイレクトに圧迫するためです。
そのため、先ほどもお伝えしましたが、値上げするにしても近隣の相場も考慮し、急激に入居者の負担が増えないようにしましょう。
夜逃げされる
最悪のケースとして、家賃の値上げ交渉をした途端、入居者に夜逃げされてしまう可能性もあります。
通常であれば家賃を値上げするからといって、そうした極端な行動に走る入居者はいないでしょう。
しかし、すでに多額の借金を抱えているなど、経済的に困窮している入居者の場合、家賃の値上げが決定打となり、夜逃げに踏み切らないとも限りません。
夜逃げされてしまうと、家賃収入が途絶えるだけでなく、残された家財などの処理や新たな入居人の募集といった手間や費用がかかります。
事前に入居者の経済状況まで把握するのは難しいですが、家賃が相場より安い、いわゆる低所得者向けの賃貸物件の場合、経済的に余裕がない入居者が多くいると考えられます。
そうした賃貸物件を経営している場合、家賃の値上げにはより慎重になるべきでしょう。
家賃値上げの正当な理由がない・交渉が決裂した場合の2つの対策
先述したように、いくら家賃を値上げしたいと思っても、交渉がスムーズに進むとは限りません。
そこでこの章では、家賃の値上げ交渉が決裂してしまった場合の対策をお伝えします。
家賃の値上げ交渉がうまくいかなかった場合の対策は以下の2つです。
それぞれ解説します。
現時点で収益が見込めるのであれば現状維持も一つの手
賃貸経営において、もっとも避けなければならないのは空室リスクです。
家賃の値上げ交渉をした揚げ句、入居者が退去してしまったら次の入居者が決まるまで家賃収入は得られません。
現時点における家賃で十分な収益が見込めているのであれば、現状のまま住み続けてもらうほうが結果的に大きな収益につながる可能性があるでしょう。
収益性が低いなら売却してしまうのが得策
家賃の値上げを検討しないといけないほど、収益性の低い賃貸物件は売却を検討してもいいでしょう。
売却してしまえば、家賃の値上げ交渉に頭を悩ませる必要もなくなり、売却金としてまとまったお金を手にすることもできます。
また、売却してしまえば物件の維持・管理の手間や費用負担からも解放されます。
ただ、収益性が低い物件は老朽化していることも多く、通常の不動産業者(仲介業者)に売却を依頼しても、買い手はなかなか見つからないでしょう。
そうした場合は、不動産買取業者に売却を依頼するのが得策です。
不動産買取業者であれば、収益性が低く、老朽化している賃貸物件であっても買い取ってくれるからです。
詳しくは次項で説明しますので、ご確認ください。
低収益物件は専門の不動産買取業者に直接売却するのがおすすめ
収益性が低く、老朽化している賃貸物件であっても、専門の不動産買取業者であれば買い取ってくれます。
専門の不動産買取業者は買い取った賃貸物件にリフォームなどをほどこし、利益を生み出すノウハウを持っているからです。
また、不動産仲介会社に支払う仲介手数料も不要なので、その分、手元に残せる金額を増やせます。
売却金額を元金とし、収益率の高い物件の購入も可能です。
仲介業者に売却をもちかけ、断られた場合は買取業者に売却を依頼してみましょう。
弊社Albalinkでも低収益物件を積極的に買い取っております。所有している賃貸物件の経営を重荷に感じている場合は、ぜひ一度弊社の無料買取査定をご利用ください(査定依頼をしたからといって無理な営業などは行いませんのでご安心ください)。
なお、賃貸物件のお買取について詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてお読みください。

家賃を値上げしたいときの2つの注意点
家賃の値上げを検討する際は、以下の2つの点に注意が必要です。
家賃の値上げには入居者の同意が不可欠
大家が家賃を値上げするには、入居者の同意が不可欠です。
たとえ、家賃の値上げに正当な理由があったとしても、入居者の合意なしに一方的に家賃を値上げすることはできません。
これは、賃貸借契約が大家と入居者双方の合意に基づいて成立する「契約」だからです。
民法では、「契約内容を自由に決めることができる(民法第521条)」と定めていますが、これは同時に、一度合意した契約内容は、両者の合意がなければ一方的に変更できないという「契約の拘束力」を意味します。
もし、大家が一方的に家賃の値上げを通知して入居者がそれに同意しなかった場合、入居者は従来の家賃を支払い続ける権利があります。
反対に、大家は一方的に値上げ後の家賃の支払いを求めたり、契約解除を主張したりすることはできません。
トラブルを避けるためにも、事前の丁寧な交渉を通じて入居者の同意を得ることが重要です。
家賃の値上げに応じない入居者を退去させられない
入居者が家賃の値上げに応じない場合でも、大家は強制的に退去させることはできません。
家賃の値上げ交渉が不調に終わったとしても、借地借家法第28条によって入居者の居住権は強く保護されているためです。
この条文により、賃貸借契約の更新拒絶や解約の申し入れには「正当の事由」が必要とされており、家賃増額に応じないという理由だけでは、通常「正当の事由」とは認められません。
もし、入居者との家賃値上げ交渉がうまくいかず、収益改善が難しいと感じているのであれば、賃貸物件の売却を検討するのも一つの有効な手段です。
物件を売却することで、交渉の労力から解放され、まとまった利益を確定させられるでしょう。
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家賃の値上げ交渉に疲弊し、賃貸経営の重荷を感じているのであれば、ぜひ弊社までご相談ください。
まとめ
賃貸物件の家賃を値上げするには以下のような「正当な理由」が必要です。
- 物件の資産価値が上昇した
- 物件にかかる管理費や固定資産税が上昇した
- 近隣物件の相場より家賃が低い
しかし、正当な理由があったとしても、入居者がすんなり同意してくれると限りません。
入居者に家賃の値上げを拒否された場合には、調停や裁判で値上げの正当性を認めてもらう方法があります。
しかし裁判ともなると、費用や手間がかかり、家賃の値上げを勝ち取れたとしても金銭的なメリット少ないでしょう。
ですから、収益性が低く、家賃の値上げ交渉もうまくいかない賃貸物件は、不動産買取業者に買い取ってもらうことをお勧めします。
専門の買取業者であれば、収益性の低い賃貸物件でも買い取ってくれます。
そうした物件を活用し、利益を生み出すノウハウを持っているためです。
弊社Albalinkも、収益性が低く、老朽化している賃貸物件の買取に強い専門の買取業者です。
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