共有持分の「買取請求」を2種類に分けて解説
「共有持分の買取請求」と聞いて、思い浮かべるイメージは人によって異なります。
「共有持分を強制的に買い取る」というイメージや、「買い取りたいので話し合いましょう」というイメージを持つかもしれません。
この記事では都合上、
- 「共有持分買取請求権の行使」
- 民法上の強制力を持つ買取請求
- 「通常の持分買取のお願い」
- 単に共有者間での話し合いを求める買取請求
の2つに分けて「共有持分の買取請求」を解説していきます。
共有持分買取請求権とは
「共有持分買取請求権(以下、持分買取権)」とは「民法上の強制力を持って他の共有者の持分を買い取る権利」のこと。
持分買取権の行使による買取請求を行えば、他の共有者の意思に関係なく持分を強制的に買い取ることが可能です。
ただし、この権利を行使(適用)するためには
- あなたが他の共有者の負担分も不動産の管理費を肩代わりしている
- 他の共有者が請求から1年以上、管理費を滞納している
という前提条件が必要です。
持分買取権を行使して、他の共有者へ買取請求を行いたいという方は、
後述の「他の共有者に対し法的強制力のある持分買取権を行使する」を参考にしてください。
逆に不動産の管理費を滞納して、他の共有者から買取請求を受けているという方は、
後述の「他の共有者から法的強制力のある持分買取権を行使された際の対処法」を参考にしてください。
通常の持分買取のお願いとは
民法としての共有持分買取請求は先述した強制力のある権利行使のことを指します。
ただ、一般の方の中では、民法上の権利ではなく、「他の共有者に対して買い取って欲しいとお願いすること」を買取請求と呼ぶ方もいます。
この記事では、民法上の権利行使と明確に線引きするために、他の共有者に対して「買い取って欲しいとお願いすること」を「通常の持分買取のお願い」と表現します。
共有持分とはいえ、自身の持分には完全な所有権を有しているので、他の共有者と売買代金などの条件さえ合意できれば、当然に売買可能です。
他の共有者へ持分買取のお願いをしたいという方は、
後述の「他の共有者に対し買い取らせて欲しいとお願いする」を参考にしてください。
逆に他の共有者から持分買取のお願いを受けているという方は、
後述の「他の共有者から買い取らせて欲しいとお願いされた際の対処法」を参考にしてください。
他の共有者に対し法的強制力のある持分買取権を行使する
状況次第では他の共有者の持分を強制的に買い取ることが可能です。
前述の通り、
- あなたが不動産の管理費を他の共有者の分も負担している
- あなたからの支払い請求を受けている共有者が、1年以上その支払いを無視している
上記の条件を満たすことで、「持分買取権」を行使できるからです。
持分買取権については民法253条で定められており、実際の条文は以下の通り。
第253条
1.各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
2.共有者が1年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。
引用元:Wikibooks「民法253条」
条文だけでは分かりづらいので順を追って解説していきます。
不動産の共有者は各自の持分割合に応じて「管理費」や「税金」を負担する義務を負っています。ただ現実的には、共有不動産にかかる費用を1人で肩代わりしていることも多々あります。
この時、費用を負担している共有者には、「他の共有者に本来支払うべき負担分を請求する権利(求償権)」が発生します。そして、負担分の請求を1年以上滞納している場合、費用を負担している共有者は滞納者に対して「持分買取権」を行使できるようになります。
「持分買取権の行使」による強制買取の流れ
前項で「持分買取権」を行使する前提条件を解説してきました。
ここからは「持分買取権」で他の共有者の持分を強制的に買い取る流れを解説していきます。
また、「持分買取権」の行使から買取までにかかる期間は人それぞれ異なります。
管理費の滞納者が手続きに協力的かどうかで、裁判等の余計な手順を踏まなければならなくなるからです。
具体的な買取までの期間は、滞納者が協力的なら「1か月程度」滞納者が非協力的なら「半年~1年程度」で考えておくとよいでしょう。
「持分買取権の行使」で他の共有者の持分を強制的に買い取る流れは以下の通り。
管理費用の請求
あなたが肩代わりした管理費や税金を他の共有者に対して請求します。
共有不動産に対する管理費や税金が発生して、他の共有者の負担分を肩代わりした瞬間に、あなたには「負担分を請求する権利」が生じます(前述)。
法律上、請求方法や請求書の様式についての規定はなく、口頭での通知でも構いません。ただ後々「言った、言わない」とトラブルになる可能性があるので、請求した事実が残る書面やメールで請求する方が安心でしょう。
持分買取権の行使を通知
管理費を1年以上滞納している共有者に対して「持分買取権を行使する」と意思表示をします。
「持分買取権の行使」は、買取請求を行う本人の意思表示のみで、法的効力が発生します。
法律上、意思表示の方法に規定はありませんが、後の手続きを安心して進めるために「内容証明郵便」で通知した方がよいでしょう。「内容証明郵便」を利用することで、万が一裁判となった場合でも「意思表示をおこなった事実」を証明することが可能です。
支払う対価(償金)を決定する
持分を買い取る際に支払う対価(償金)について、当事者間で協議を行い金額を決定します。
万が一、協議で対価についての話し合いがまとまらない場合は、以下の手順で対価の金額を決定します。
- 不動産鑑定士に鑑定を依頼
共有者間で不動産鑑定士に不動産の鑑定評価を依頼し、鑑定結果を元に再度協議を行う。 - 弁護士に相談
当人同士だけで協議がまとまりそうにない場合は、今後の「調停」や「裁判」の手続きを弁護士に依頼します。
今回のような民事事件の場合、弁護士費用の相場は「50万円~100万円程度」です。
ただ、不動産の価格等の条件によって変動するため、依頼する前に見積もりをお願いするとよいでしょう。 - 民事調停を申し立てる
「調停委員会」を間に通して当事者間での落としどころを見つける。 - 裁判所による判決
裁判所に訴訟を申し立てて、最終的には判決により対価の金額が決まる。
また「不動産鑑定士への依頼」と「民事調停」の手順は省略できます。
つまり、協議での解決が無理であると判断した時点で、裁判所に訴訟を申し立てることも可能です。
登記申請
持分移転登記を行い、滞納している共有者の持分をあなた名義に変更します。登記を行うには「滞納者」「持分買取権行使者」両方の共有者が共同で登記申請を行わねばなりません。
ですが、買取請求の意思表示を行ったとしても、滞納している共有者が登記申請に協力するとは限りません。滞納者が登記申請に協力しない場合は「登記移転手続請求訴訟」を地方裁判所へ申し立てます。
登記申請手続に協力するよう求める訴訟
裁判所で訴訟内容が認められれば、あなた単独での登記申請が可能になります。
【具体例付き】「持分買取権の行使」で支払う対価
ここからは具体的な数字を交えて「持分買取権の行使」で支払う対価がいくらになるか分かりやすく解説していきます。
あなたと弟が「2分の1ずつ」で不動産を共有
あなたが肩代わりした「管理費の負担分100万円」を弟が1年以上滞納
不動産鑑定士に鑑定を依頼し、不動産全体の鑑定評価額は「3,000万円」
上記の例で、不動産鑑定士の鑑定結果を元に対価を決定する場合「3,000万円の2分の1」なので対価の金額は「1,500万円」となります。
また、この時支払う対価から「あなたが肩代わりしている金額(求償分)」を差し引くことが可能です。
先ほどの例では「1,500万円-100万円」なので、最終的に支払う対価は「1,400万円」となります。
他の共有者から法的強制力のある持分買取権を行使された際の対処法
ここまで「持分買取権の行使」で他の共有者の持分を買い取る手順を解説してきました。前述の通り「持分買取権の行使」とは、「民法上の強制力をもって他の共有者の持分を買い取ること」です。
この記事を読んでいる方の中には、
「管理費の支払いを先延ばしにしていたら突然、持分買取権の行使による買取請求の通知が届いて驚いている」
このような方もいるかもしれません。
ここからはあなたが持分買取権を行使された際の正しい対応について解説していきます。
持分の買取は拒否できない
持分買取権の行使者が「あなたの持分を買い取る」という意思表示を行った時点で、法的効力が発生します。法的効力が発生してしまうと、持分が買い取られることに対してあなたは拒否できません。
例えば、相手からの連絡を無視する等で、買取を拒否することはおすすめできません。
裁判を起こされた場合、あなたが連絡を無視した事実によって、裁判所の判断が厳しくなり「あなたが受け取る対価」が低く見積もられる可能性が高まります。
対価(償金)を協議で決する
「買取請求をした」「買取請求を受けた」両方の共有者で協議を行い、あなたが受け取る対価を決めましょう。持分が買い取られてしまうことは免れませんが、あなたが受け取る対価(償金)は当事者間で決めることが可能です。
万が一、協議がまとまらない場合に対価の金額を決定する手順は前述の「支払う対価(償金)を決定する」で解説しております。
登記手続きに協力する
あなた自身の持分を譲り渡すために、買取請求をした共有者と共同で登記申請を行う必要があります。
登記手続きを拒んだとしても、訴訟を起こされれば持分の譲り渡しは避けられないので、登記申請には協力した方が良いでしょう。
他の共有者に対し持分を買い取らせて欲しいとお願いする
これまで解説してきた「持分買取権の行使」は「他の共有者が管理費や税金の支払いに1年以上応じない」という前提条件がなければ行えない方法でした。
ここからは通常の「持分買取のお願い」で他の共有者に対して買取請求を行う流れを解説します。
「持分買取のお願い」は強制力のある「持分買取権の行使」とは違って、お互いに売買条件に合意できれば買取ができます。
まずは「持分買取のお願い」で交渉を持ち掛けよう
前提条件が揃わず「持分買取権の行使」による法的な強制買取に踏み切れない場合は、他の共有者に対して「持分買取のお願い」で話し合いを持ち掛けましょう。
ただ「持分買取のお願い」では、
- 他の共有者から持分を買い取れるかどうか
- 持分の買取価格
- その他の売買契約条件
等の全てが共有者間の交渉次第で決まります。
つまり、他の共有者を説得できるかどうかが売買成功のカギです。
「共有者間での持分売買で持分のみを安く買い取るための交渉術」は、以下の記事で解説しておりますので、参考にしてください。

「持分買取の提案持分買取のお願い」の流れ
「持分買取の提案持分買取のお願い」によって他の共有者の持分を買い取る流れは以下の通りです。
- 他の共有者と「買取価格」等の条件を交渉する
- 「契約書の作成」や「登記手続き」を司法書士に相談する
- 共有者間で売買契約を締結する
- 「売買代金の決済」をして、司法書士が「持分移転登記」を行う
詳しい流れは、以下の記事で解説しておりますので、参考にしてください。

交渉がまとまらなければ「共有物分割請求」も可能
他の共有者が「持分買取のお願い」に応じない場合には「共有物分割請求(以下、分割請求)」という手段があります。
ただ、この分割請求は「他の共有者に対して共有状態の解消を求める」ことであり、あなたが必ずしも持分を買い取れるとは限りません。訴訟の申立先である地方裁判所が、最終的な不動産の分割方法を判断するからです。
例えば、判決の内容次第では「不動産全体を競売にかけ、得た売却代金を持分割合に応じて分割する」という結果になることもあります。
「共有物分割請求」による共有不動産の3つの分割方法
分割請求を起こした場合、以下の3つの方法のうちどれかで不動産を分割することになります。
- 代償分割
- 共有者のうち1人が共有不動産を取得する代わりに、他の共有者に対して持分相当分の金銭を支払う方法。簡単に言えば、共有者同士で持分を売買する分割方法。
- 換価分割
- 共有不動産全体を売却(競売)して、得た売却益を持分割合に応じて分割する方法。
- 現物分割(土地のみの場合)
- 共有名義の土地を物理的に切り分けて分割する方法。
切り分けた後の土地はそれぞれ単独所有の土地となる。
上記のうち「代償分割」で「あなたが不動産の取得者となること」が認められれば、あなたが他の共有者から持分を買い取ることができます。
「共有物分割請求」の流れ
分割請求を行う際、最初からいきなり裁判を起こすことはできず、共有者間での協議から段階を踏んで手続きを進める必要があります。
具体的な分割請求の流れは以下の通りです。
- 弁護士に相談する
「共有者間での協議の取りまとめ」や「裁判手続き」等を弁護士に依頼します。 - 共有物分割協議を行う
共有者全員で不動産の分割方法について話し合います。 - 地方裁判所に訴訟を申し立てる
協議がまとまらないのであれば訴訟を申し立て、裁判となります。 - 各共有者が口頭弁論を行う
口頭弁論や証拠の提出等で、訴訟内容に間違いがないかを、裁判所が確認します。 - 裁判所から判決が下る
口頭弁論や証拠等の内容を受け、裁判所が不動産の適切な分割方法を決定します。
共有物分割請求の詳細な流れは以下の記事にて解説しておりますので、参考にしてください。

買取を希望するなら弁護士に相談
あなたが分割請求を起こすことで、他の共有者の持分を買い取れる見込みがあるかどうかは弁護士に相談しましょう。
万が一、協議がまとまらずに裁判となった場合、どのような判決が下されるかというのは、一般の個人では見当のつけようがありません。
弁護士であれば過去の様々な判例から、あなたの状況に応じた見解を示してくれます。
他の共有者から持分を買い取らせて欲しいとお願いされた際の対処法
ここまでは「持分買取のお願い」で他の共有者に買取請求を起こす流れを解説してきました。
ですが、この記事を読んでいる方の中には、他の共有者から突然「持分を買い取らせてほしい」とお願いされて困惑している方もいるかと思います。
ここからは、他の共有者から「持分買取のお願い」で買取請求をされた場合の対処法を解説していきます。
提示金額に納得できる場合は素直に買取に応じる
もしもあなたが、
「現状で共有不動産を活用していないから手放してもいい」
このように感じていた場合、金額感さえ合えば買取に応じることで、提案者もあなたも双方にメリットがあります。
買取の提案者はあなたの持分を買い取れますし、あなたも共有不動産を手放して、まとまった現金を受け取ることができるからです。
ですが「可能な限り高値で買い取ってもらいたい」と思うものです。
「共有者間であなた自身の持分を高く買い取ってもらうための交渉術」は、以下の記事で解説しておりますので、参考にしてください。

どうしても不動産を手放したくない場合は相手の持分を買い取る
逆にあなたがどうしても「不動産を手放したくない!」のであれば、あなたが相手の持分を買い取るという方法があります。
この方法は、持分買取の提案を持ちかけてきた共有者が
- 不動産の権利関係を整理したい
- 将来のリスクを考えて共有状態を解消したい
等で「不動産の取得」ではなく「共有状態の解消」を目的にしている場合におすすめです。
提案してきた共有者からしても、不動産の共有を解消できれば良いのですから「どちらが不動産を所有するか」について関心がない可能性があります。
交渉が成立して相手の持分を買い取ることができれば、あなたが不動産を自由に活用できるようになります。
「あなたが持分を買い取る」ということも視野に入れて、共有者と協議を進めましょう。
相手方の共有者に売却したくない場合は第三者への売却も視野に
どうしても「相手方の共有者には自分の持分を売り渡したくない!」という場合もあるでしょう。
例えば、
- 以前から共有者間の関係が悪い
- 相手から提示されている金額が不当に安価である
等様々な理由が考えられます。
このような場合は「あなた自身の持分のみを第三者に売る」ことも検討しましょう。
あなたの持分のみを第三者に売却すれば、共有関係から抜けることで共有者との関係を断つことが可能です。
ただし、共有持分はそれのみを買い取ったところで、不動産全体を自由に活用できないため、一般の個人や一般の不動産屋はまず買い取りません。
しかし、共有持分を専門に取り扱う買取業者であれば、活用ノウハウがあるので持分のみであっても買い取ってもらえます。
共有持分専門の買取業者を利用するメリットは以下の通り。
- 最短で共有持分を現金化できる
- 買取業者が買主となるため、売主が提示された買取価格に納得できれば、すぐにでもあなたの持分を現金化できます。
- 他の共有者と関わらずに済む
- あなた自身の持分は他の共有者から合意を得ずとも、第三者に売却できます。
専門の買取業者であれば、最短で買い取ってくれるので、他の共有者と一切かかわらずに共有関係から抜けられます。
弊社でも、共有持分のみの買取を積極的に行っておりますので、他の共有者からの不当な買取請求でお困りの方はお気軽にご相談ください。
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協議がまとまらない場合は弁護士連携の買取業者に相談
万が一裁判になると、共有不動産全体を競売にかけることになり、共有者全員が損をする可能性があります。
共有者間で持分売買の交渉がまとまらず、裁判にもつれ込みそうという場合は「弁護士と連携した専門の買取業者」に相談しましょう。
弁護士と連携した買取業者であれば、あなたの持分を買い取り、共有者間の協議を引き継いでくれる可能性があります。
ただし、買取業者からしても共有者の心を開くのに時間を要したり、裁判になった際の費用がかかるリスクがあるため、買取価格が安価になりがちです。
安価でもいいから、面倒な話し合いから抜け出したいという方は、一度相談してみることをおすすめします。
弊社でも、弁護士等の士業と連携して共有持分の買取を行っております。以下URLより無料でご相談いただくことが可能ですので、お気軽にご連絡ください。
まとめ
この記事では、共有持分の買取請求について、「請求する側」「請求される側」両方の視点から、対処法を解説してきました。
記事内で解説した通り、他の共有者が物件の管理費を、1年以上に渡って滞納している場合、滞納者の共有持分を強制的に買い取ることが可能です。
また、他の共有者から、買取請求の内容証明を受け取っている人は、それが持分買取請求権に基づく法的強制力のある請求行為なのかによって取るべき対応が異なります。
いずれにしても、共有者同士で管理費を巡るトラブルが起きているのであれば、できる限り、共有状態の解消を目指すべきです。
他の共有者と今後一切関わりたくない、という人は、自身の共有持分のみを売却することで、最短で共有名義から抜け出せます。
当サイトを運営する「株式会社AlbaLink」は、共有持分に特化した専門の買取業者です。
今までに数多くの共有トラブルを解消してきた弊社独自のノウハウで、お客様のトラブル解決を最後までサポートさせていただきます。
気兼ねなくご相談ください。