マンション飛び降りで告知義務を果たさないと賠償金が生じる
飛び降り自殺のあったマンションには告知義務が生じ、告知義務を果たさないと契約不適合責任で損害賠償を請求される恐れがあるため注意が必要です。
この章では告知義務と賠償請求について解説します。
飛び降りで心理的瑕疵が生じた場合は告知義務がある
飛び降り自殺によりマンションに心理的瑕疵※が生じた場合は、借主・買主の契約判断に大きな影響を与える可能性が高いため、事実を伝える告知義務※が生じます。
※心理的瑕疵物件とは
不動産の取引において「その事実を知っていれば契約しなかった」と借主や買主に心理的な抵抗感や嫌悪感を与える瑕疵のある物件のこと。
※告知義務とは
不動産の売却・賃貸契約において、買主や借主が不動産の不具合(瑕疵)を知って判断できるように、売主や不動産業者が必要な情報を提供する義務のこと。
飛び降り自殺によって買主や借主に対する告知義務が生じるのは、例えば以下のようなケースです。
【告知義務が生じるパターンと生じる箇所】
- 部屋から飛び降りた場合=該当の部屋のみ
- 居室の上下左右の部屋から飛び降りた場合=飛び降りた部屋と該当の部屋
- 居室に続くベランダから飛び降りた場合=該当の部屋とベランダに接する部屋
- 庭に落下してきた場合=庭の属する部屋
- 住民が日常的に利用する共有箇所で飛び降りが起きた場合=建物全体
- 繰り返し報道されるなど事件性が高い場合=建物全体
一方、マンションの「共用部」から飛び降りた場合は、告知義務の対象にならないとされています。
例えば、住人以外の者が入館して屋上から飛び降り、日常使わない場所へ落下した場合などは基本的に告知が不要です。
とはいえ、実際には告知すべきか判断が付きにくい場合も多いので、国土交通省の告知事項ガイドラインを参照することをおすすめします。
参照元:国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関する ガイドライン」
ガイドラインの内容の詳細については、以下の記事も参考にしてください。
告知義務違反により賠償金が生じた事例
告知義務があるにもかかわらず、事実を告げなかった場合は契約不適合責任を負い、損害賠償請求を受ける恐れがあります。
※契約不適合責任とは
売買や請負などの契約に基づき引き渡された目的物が契約内容と相違していた場合に、売主・貸主が買主・借主に対して負う責任のこと。買主・借主は履行の追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、 契約の解除を請求できる。
なお、共用部からの飛び降りのような本来告知義務がない自殺であっても「心理的瑕疵物件」と扱われ、借主・買主から告知義務違反で訴訟を起こされる可能性はあります。
そのため、告知義務がないとされる共用部からの飛び降りでも、告知しておくほうが適切です。
例えば、以下の事例では自殺を告知しなかったために借主から賠償請求を受け、104万円の賠償金支払い命令を受けています。
大阪地裁H26.9.18<貸主控訴を棄却> RATIO98-136(ファミリータイプ尼崎市)
事案:
入居直後に、約1年5カ月前に当該貸室で自殺事故があったことを知った借主が退去し、事件を告知しなかった貸主に退去費用等を請求。判断:
自殺事故を知る貸主には、信義則上、借主に本件事実を告知する義務があり、借主が負った損害について不法行為によう賠償責任を負う。
貸主の告知義務違反により、賃料・礼金・保証料・引越料・エアコン工事代金64万円余、慰謝料30万円、弁護士費用10万円、計104万円余を認容。
なお、バレないと思って過去の自殺を隠ぺいしても、借主(買主)は他の住人から真実を聞くことになるので、隠し通すことは不可能と考えましょう。
マンション飛び降りで賠償金請求の対象・対象外となるケース
マンションの飛び降り自殺で出た損害は賠償請求することが可能です。
法的解釈では、故人(借主)が飛び降り自殺という「心理的に嫌悪される事情」を引き起こしたことによって、貸主に対する契約違反(善管注意義務違反)をした、とみなされるためです。
この章ではオーナー側からの損害賠償請求について解説します。
心理的瑕疵により損害賠償請求の対象となるケース
飛び降りによって心理的瑕疵が生じ、事故物件となった場合は、オーナーは居住人側に対し損害賠償請求が可能です。
事故物件となれば家賃や売却価格を下げざるを得なくなり、その損失分(逸失利益)に対して損害賠償を請求できます。
例えば以下のようなケースです。
- 居室の窓など「専有部」からの飛び降り(部屋が事故物件)
- 玄関やエレベーター、階段、廊下、ベランダ、ラウンジなど買主が日常生活で使用する共用部分での飛び降り(マンション全体が事故物件)
特に日常で使われる共用部での飛び降りは心理的瑕疵が強く、家賃や売却価格の下落が生じるため、逸失利益や原状回復の費用を請求できます。
心理的瑕疵がなく損害賠償請求の対象とならないケース
一方、共用部でも日常的には使用されない屋上や廊下などからの飛び降りは、基本的に賠償請求の対象となりません。
事故物件にならなければ、家賃値下げや売却価格下落による逸失利益が生じないためです。
実際、東京地裁での平成18年4月7日の判例によれば、マンションの屋上から道路へ飛びおりた自殺について「建物部分に心理的瑕疵は認められず、賃貸物件における嫌悪事項にはならない」として、保証人への損害賠償請求を退けています。
ちなみにこのケースでは、自殺者が地元の有力者だったものの、その影響力は審判に勘案されませんでした。
参照元:内閣府「自死遺族が直面するいわゆる心理的瑕疵物件をめぐる空き室損害問題に関する判例集」
心理的瑕疵が生じるかどうかが微妙な場合は、先述のガイドラインや過去の判例から判断するしかないでしょう。
マンションで飛び降りがあった場合の賠償金相場
マンションで飛び降り自殺があった場合にオーナーが請求できる賠償金相場・目安は以下のとおりです。
賠償金の相場・目安 | 基本的な考え方 | |
---|---|---|
賃貸 | 1年~3年分の賃料相当額 |
|
分譲(一棟) |
|
価値の下落分については証明できる場合に限り請求が可能 |
分譲(一戸) | 専有部:一棟に同じ 共有部:事案による |
共有部での自殺の場合、一居室に与える影響を個別に判断 |
オーナーから飛び降りた元入居者側に請求する賠償金の金額は原則、逸失利益や原状回復にもとづいて決定されます。
- 逸失利益:本来得られた家賃と告知により生じた空室期間の家賃・家賃減額分との差額
- 原状回復:特殊清掃やリフォームなどの後処理の費用
賃貸マンションで飛び降りがあった場合の賠償金額には、一律の法的規定はなく、事案ごとに間取りや立地、流動性などをもとに裁判所で損害額を判断することになります。
一方で、分譲マンションの資産価値の減少分については、原則として損害賠償の範囲に含まれません。
なお、事故物件の告知義務の年数については、以下の記事で詳しく解説しています。
マンション飛び降りによる賠償金を請求する相手
マンションの飛び降り自殺で出た損害は以下の相手に賠償請求することが可能です。
相続人に請求する
入居者の自殺が原因でマンションが事故物件となってしまった場合、損害賠償請求は原則として入居者の相続人に対して行います。
ただし相続人すべてが相続放棄した場合は、遺族に損害賠償請求ができません。
特に請求する損害賠償金額が高額な場合は相続放棄される可能性が高いので、その場合は後述する請求先へ請求しましょう。
なお、事故物件の損害賠償責任を遺族が負うべき理由は、以下の記事で詳しく解説しています。
連帯保証人に請求する
故人に連帯保証人がいる場合は、連帯保証人に損害賠償請求が可能です。
賃貸借契約の連帯保証人は、借主が家賃や修繕費を支払えない場合に、借主の代わりに支払う義務を負う人のことです。
相続人が連帯保証人だった場合、相続放棄しても連帯保証人の債務は残ります。
連帯保証人に請求できるのは、借主死亡時点での未払い賃料や原状回復費用です。
ただし、保証人の「個人根保証契約※」の契約時期と上限金額について確認が必要です。
※個人根保証契約とは
保証人が個人で、将来発生する不特定の債務を保証する契約のこと。
個人根保証契約では、保証人が負う債務の範囲を限定するために、極度額(保証上限額)を定めなければならない。
個人根保証契約の契約締結が2020年(令和2年)4月1日以降の場合、保証人は極度額の限度でしか責任を負わないため、契約日と限度額をチェックする必要があります。
また、令和2年4月以降に締結・更新された「極度額の定めがない個人根保証契約」は無効となることにも注意しましょう。
相続人がいなければ相続財産清算人(相続財産管財人)に請求する
自殺した入居者に相続人がいない、または相続放棄された場合、相続財産清算人(相続財産管理人)を選任して請求する方法もあります。
※相続財産清算人とは
相続人がいない・不明などのケースで、相続人の代わりに相続財産の調査や管理・換価に対応するために、家庭裁判所が選任した者のこと。弁護士などの専門職の人が選ばれることが一般的。
相続財産清算人制度は、被相続人の債権を回収する場合などに使われます。
相続財産や債権に関する利害関係者(この場合はマンションオーナー)が、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てることが可能です。
ただし相続財産清算人の選任申立てには、膨大な書類を提出しなければならないうえに、相続人を探す「公告」を6カ月にわたり行うことが必要です。
申し立てにかかる費用は収入印紙800円分と切手代、官報公告料5,075円程度ですが、別途「予納金(財産管理の費用)」が必要となる場合もあります。
もし訴訟が必要になれば、高額な裁判費用もかかるでしょう。
参照元:裁判所「相続財産清算人の選任」
そこまで手間暇・お金をかけて相続財産清算人を申し立てても、希望どおりの損失補填ができるとは限りません。
まとめ
マンションで飛び降り自殺があった事実は告知義務に当たり、告知を怠れば賠償請求を受ける可能性があります。
なお、飛び降り自殺を告知すれば確実に買い手・借り手が付きにくくなるので、得られたはずの損失分については、自殺者の相続人や保証人、相続財産清算人に賠償請求することが可能です。
ただし売却益が目減りする分に関しては、価格が下がったことを自力で証明できない限り、賠償請求できないので注意が必要です。
このように、告知したことで売れない・貸せない事故物件になってしまったマンションは、心理的瑕疵を問わない事故物件専門の買取業者に売却することをおすすめします。
ちなみに当サイトを運営する弊社AlbaLink(アルバリンク)は、事故物件を多数買い取っている不動産買取業者です。
これまで多彩な訳あり物件を買い取ってきた実績は、TV Asahi「グッドモーニング」をはじめ、数々のメディアで紹介されてきました。
引用元:株式会社AlbaLink
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