共同で相続登記することは可能
冒頭でも述べた通り、不動産を2人以上の共有名義で相続登記することはできます。しかし、注意しなければいけないのは、「共有名義」というのは概念であるということです。
不動産の所有権を登記する方法として「単有(1人の名義にする)」の他に「共有(2人以上が持分を明示して登記する)」があります。
共有というのは物理的に「こちら側2分の1がAさん、むこう側2分の1がBさん」といったものではありません。
そのように物理的に分けたい場合は、下図のようにいったん土地を「分筆(2つの登記簿になるように物理的に分ける)」して、お互いの持分を譲り合う登記をします(現物分割)。
※下記例はいったん相続人の共有に所有権を登記してから分筆するパターンですが、死者名義の状態で「相続人による分筆登記」をして、直接それぞれの相続人の単有にすることもできます。
「共有名義にする」とは、あくまでも登記簿は1つ、それを2人以上が持っている状態なのです。
共有名義になっている不動産については、全体を使用する権利が共有者全員にあり、それをお互いに制限し合っています(=つまり観念的なものである)。
相続する共有持分の決め方は3つのパターンがある
不動産の相続を共有名義で行いたい場合、具体的な持分の内容としては
- 法定相続分(民法で定められた相続分)
- 遺産分割協議による相続
- 遺言書による相続
の3パターンがあります。遺産分割協議と遺言書による相続の場合、必ずしも法定相続分と同じ割合になるとは限りません。
法定相続分による相続登記
法定相続分とは、民法によって定められた相続割合のことを言います。
法定相続分に関する参考記事
そして、「法定相続分で登記する場合」に限った話ではありますが、相続人の誰か1人からでも登記手続きをすることができます。
例えば、故山田太郎の相続人が山田花子と山田一郎の二人だったとすると、花子もしくは太郎どちらか1人が2人分の「法定相続分での相続登記」を入れることができます。
下記登記簿例で言えば「甲区2番」の登記をどちらか1人から申請した可能性もあるということです。
ただ、いくら合法的とはいえ他の相続人に断りなしに誰か1人が相続登記を入れてしまうと、後から相続人同士のトラブルの原因となることもありますので、他の相続人の分まで登記しようとする際は事前に同意を得る方が賢明でしょう。
逆に自分が知らないうちに「他の相続人によって登記されている」可能性もあるということを知っておかなくてはならないのです。
遺言書での相続登記
もし被相続人(亡くなった人)の「遺言書」が存在しており、遺言書の中で「〇〇の不動産を相続人のうち、長男Aに相続させる」のような文言があれば長男Aは自分1人だけで相続登記をすることができます。
もちろん、共有での指定がされているなら、指定された人全員が関与すればその他の相続人が関与せず共有にすることも可能です。
ただし、気をつけなければならないのは、
「遺言書を使って単独(もしくは指定された2人以上の相続人のみ)での登記手続きができるのは、遺言書が有効であり、かつ法務局の調査をクリアできるものである場合のみ」
ということです。
「公正証書遺言」であれば、いったん公証人が目を通しているため、法的に無効な遺言であるということはほぼないでしょうが、自分で書く「自筆証書遺言」は、そもそも法律的要件を満たしていない場合が珍しくありません(署名、日付、押印などの要件がある)。
また、実際に登記申請した際に法務局の調査に通るためには「不動産の特定性や、相続人の特定性」などが重要です。
つまり「私の土地を〇子に」といった当事者同士にしか通じない書き方では登記できない可能性もあるということです。
また、「相続させる」と記載されていれば問題ありませんが、「自分の財産を譲る」「任せる」など、法的な用語ではない口語的な記載がされていることも多く、このような遺言書では登記できないケースが多々あります。
つまり、これから遺言書を作成して将来相続人の誰かに確実に名義を移したいと考える人は、極力「公正証書遺言」を利用すべきということなのです。
遺産分割協議での相続登記
遺産分割協議をした場合も同様に、そこで承継すると決められた相続人だけで登記手続きをすることができます(単有でも共有でも)。
ただし、登記申請の際にあくまでも法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)全員の実印が押されて印鑑証明書が添付された「遺産分割協議書」が必要です。
つまり、協議自体を拒んだり、内容に賛成しなかったり、事実上協議できない人(認知症、行方不明等)が1人でもいれば遺産分割協議での相続登記はできないということになります。
では、不動産を共有名義で登記することのメリットやデメリットを確認してみましょう。
不動産を共有名義で登記するメリット
同じ共有であっても、相続ではなく「夫婦が住宅ローンを組んでマイホームを購入した場合」であれば住宅ローン控除を二人分効率良く使えるなどのメリットもあります。
しかし、相続で共有にした場合は特筆すべきメリットはほぼありません。
他サイトで「相続登記せずに(潜在的な)共有状態にしておけば、手間もお金もかからない」といったことをメリットとして掲げているものもありますが、これはメリットではなく、ただ単に解決すべき問題を先送りしているだけです。
下にも説明しますが、相続登記をせずに放っておけば自分たちの子孫の代でさらに人数が増え、弁護士を入れなければ解決できなくなって桁違いのお金がかかることも、さらには子孫たちの人間関係に禍根を残すことすらあります。
放っておいて潜在的共有状態にする、という選択肢は最初からありえないものと考えるべきです。
不動産を共有名義で登記するデメリット
これに対して、共有で相続登記するデメリットはいくつもあります。
不動産に関する法律行為に制限がかかることがある
冒頭に説明したように、共有する不動産は「各共有者が持分に基づいて使用収益する権利を持っており、それをお互いに制限し合っている状態」です。
つまり、不動産について「保存行為」を超えると考えられる行為については共有者の一人が勝手にすることができず、以下のように「合意とみなすために必要となる共有者や持分価格の数」が決まっています。
行為の種類 | 合意が必要な共有者の人数 |
変更(処分)行為 | 共有者全員の合意が必要 |
管理行為 | 共有者の持分価格の過半数が必要 |
保存行為 | 各共有者が単独で可能 |
例えば、相続した不動産を第三者に売買したい場合は前提として相続登記をしなければなりませんが、もし共有名義にした場合、売買は典型的な「変更(処分)行為」となるため、全員の合意と全員の手続きへの協力が不可欠となります。
なお、他にどのような行為が変更、管理、保存に該当するかというのは明確な線引きがないものも多く、判断が難しい場合は裁判に委ねることも多々あります。
詳しくは下記記事を参照してください。
次の代に移った際に人数が増えてしまう
これは、相続登記をせずに放っておいた場合、相続登記を共有名義で入れた場合どちらにも起こってくる問題なのですが、子供だけであれば2人だったものが孫の代では4人、さらにひ孫の代では8人になるような状況が考えられます。
2代以上放っておけば、もはや当事者同士が話合って決めるというのは不可能なケースの方が圧倒的に多くなります。
そうなるとどうすればよいのかというと、一般的には弁護士を入れて裁判所に調停を申立て、調停が調わなければ裁判に・・という流れになっていきます。
登記に関して言えば、2代以上放っておいた不動産の名義変更を「1個の登記申請でできる場合」と「複数の申請をしなければならない場合」に分かれます。
これは不動産登記のテクニカルな問題なのですが、「最終的に誰の名義にしたいのか?単有か?共有か?」で必要な申請件数(手間、コスト)が違ってきます。
もし2申請以上必要な場合にはそれなりに費用がかさむことにもなります。
しかし、やはり最大の問題は、
「人数が増えるほど、当事者同士の関係が遠くなるほど仲裁してもらうための膨大な費用と時間がかかり、解決してもその後の人間関係が悪くなってしまう危険があること」
でしょう。
もともと仲が良かった親戚同士が、自分たちの知らない先祖の事情を憶測し合うことで険悪な関係になってしまうこともしばしばあります。
少なくとも自分が親などから受け継いだ財産については、きちんと名義変更を済ませておくことが子供や孫の代への果たすべき責任であると考えなければなりません。
共有で相続した不動産でのトラブル事例
では、相続した不動産を共有で登記したことによるトラブル事例を見てみましょう。
少しでも持分を持っていると明渡しを請求できない
上記のように、共有名義になっている不動産は各自に持分に基づいた使用収益権がありますので、自分の権利を主張できる一方で、不当に他の共有者の権利を侵害することはできません。
つまり、共有者の1人が不動産を独占的に使用収益している場合、それ以外の共有者が持分の過半数を持つ場合であっても、使用収益する人に対して全面的に明渡しを請求することはできないのです。
判例の基本的な考え方としては、このような場合、1人で占有する人に対してできるのは持分に応じた金銭請求のみということになります。
ただ、同様の事例では占有の経緯や状態などによって判断が異なる場合もあります。
ある共有者が実力行使で強引に占有したようなケースでは、その人に対して明渡請求、金銭請求の両方が認められた例もあります。
アパートを共同相続したものの家賃を貰えない
投資用物件については、法定相続人のうち誰に相続させるかをよく検討しなくてはなりません。
なぜなら自宅とは異なり、投資物件については「空き家にしないための工夫、家賃設定の際の相場感」など、投資家としてのセンスが問われます。
もし単独で投資用アパート等を相続するのであれば同時に銀行からのローンも相続しなければならなくなるため、単に収入をもらっていれば良いだけのものではないからです。
投資用物件を相続する場合に、そのような点を加味しても2人以上で相続しなければならない事情がある人もいるでしょう。
物件が共有になれば当然「家賃設定、管理会社の決定、自分で管理するならどちらが実質的に動くのか、費用負担の割合」など、細かい決定事項を話し合わなくてはなりません。
「管理費用等を負担させられているのに家賃の取り分をもらえない(不当に少ない)」のようなトラブルにならないように、もし共有で相続する場合は必ず細かい項目についても詳細に書面に残しておくべきです。
共有名義となった不動産トラブルの解決方法
もし何らかの事情で不動産を相続人の共有にしてしまい、後日トラブルとなったらどのように対処すればよいのでしょうか。
不利益を被っている側の共有者が、今後共有状態を「維持したい」のか「解消したい」のかによっても対処は異なります。
共有状態のままで良いが不公平を解消したいのであれば、上記のように「金銭を請求」することにより解決の道を探ることができますが、共有そのものを解消したいのであれば「共有物分割請求」という方法もあります。
もちろん、相手との話し合いによって共有持分を買い取ってもらうなどの方法が取れるのであればそれに越したことはないのですが、すでにトラブルを抱えている相手方と話し合うこと自体が難しい状況も考えられます。
そのような場合、話し合いを尽くしても解決しないことを条件にして「共有物分割訴訟(共有状態を何らかの方法で解消するための訴訟)」を起こすこともできますし、共有持分だけを専門の業者に買い取ってもらう方法もあります。
なお、共有状態解消の具体的方法についてはこちらの記事でも詳しく解説していますので参照してください。
ここまで見てきたように、共有名義の相続登記はテクニックとしては可能ですが、上記のようにさまざまな問題を抱える危険があります。
できれば不動産については最初から誰か1人の相続とし、無用なトラブルを避けるようにしたいものです。
まとめ
・不動産を相続した場合、相続人の1人の名義にも(単有)2人以上の名義にも(共有)できる。
・不動産を共有で相続することのメリットはほぼないが、デメリットやトラブル要因が数多くあるため、極力最初から単有にすることが望ましい。
・後から共有名義を解消する方法としては、話し合いで持分を他の共有者に買い取ってもらう他、話し合いができなければ共有物分割訴訟を起こしたり、自分の持分のみを専門の業者に買い取ってもらうという方法がある。