相続で共有名義になってしまう2パターン
相続で不動産が共有名義になってしまうパターンは主に2つあります。それぞれ解説します。
遺産分割協議の結果として共有
相続人全員で「遺産分割協議」を行った結果、相続不動産を相続人全員の共有名義にすることが多々あります。
相続人(遺産を受け継ぐ人)全員で遺産の分け方を話し合うこと。
後ほど詳しく解説しますが、遺産分割協議の際は以下の3つから相続方法を選択するのがベストです。
- 現物分割
- 不動産を特定の相続人が取得し、他の遺産で価値を均等に揃える。
- 代償分割
- 不動産を特定の相続人が取得し、他の遺産で足りない分を現金(代償金)で清算する。
- 換価分割
- 不動産を売却して、売却代金を相続人同士で分け合う。
ただ、遺産分割協議がどうしてもまとまらない場合には、やむをえず不動産を共有名義にしてしまうケースもあります。
そもそも遺産分割協議をしていない
遺産分割協議を行っていない場合、相続不動産は「法定相続人」全員での共有名義になります。このとき、持分割合は「法定相続分」通りになります。
- 法定相続人
- 亡くなった方と親族関係にあり、民法上において遺産を受け継ぐ権利を有する人。
- 法定相続分
- 民法上の基準として定められている、各法定相続人が遺産を受け継ぐ取り分。
具体的には、遺産分割協議で不動産の相続方法を確定して相続登記がなされるまでの間、対象の不動産は民法上定められた基準通りの共有状態とみなされます。
ですが、遺産分割協議が行われていないのであれば、いつでも協議を行って相続不動産を単独名義にすることが可能です。
後述する共有名義のトラブルを回避するためにもなるべく早めに協議を行いましょう。
共有名義で不動産を相続した場合のトラブル6選
冒頭でもお伝えしましたが、共有名義で不動産を相続してしまうと、共有者間で様々なトラブルが発生するリスクがあります。ゆえに遺産相続時は、可能な限り共有名義を避けることを強くおすすめします。
また、後ほど「相続前(生前対策)」「相続発生時」「共有名義での相続完了後」に分けて、共有名義を回避する対処法をお伝えしますので、安心して読み進めてください。
さて、共有不動産のトラブル事例を見ていきましょう。
不動産の売却や利用で揉める
不動産を共有名義で相続すると、いずれ共有者間で不動産の売却や利用を巡って揉め事が起こる可能性があります。共有名義の不動産は、民法上、売るにしろ貸すにしろリフォームを施すにしろ、いちいち共有者の同意が必要になるからです。
他の共有者と意見が対立すれば、売却も活用もできないまま、気が付けば不動産の価値が低下してしまったなんてことにもなりかねません。
不動産の共有者が行える行為、制限される行為については以下の記事でまとめておりますので、参考にしてください。
参照元:民法251条(共有物の変更行為)
参照元:民法252条(共有物の管理行為)
他の共有者が音信不通になる
他の共有者が突然音信不通になる可能性も十分に考えられます。
共有者間で連絡が取れなければ、固定資産税の負担割合を巡るトラブルや、合意形成が取れずに売却や利用できなくなるトラブルが起こります。
1人の共有者が物件を占有する
万が一、他の共有者が1人で対象の物件を占拠している場合でも、占拠している共有者を追い出すことは容易ではありません。各共有者は共有不動産全体を使用する権利を持ち、仮に裁判(明渡訴訟)を起こしたとしても、よほどのことがない限り、占拠が適法であると判断されてしまうからです。
そのため、複数の共有者が不動産の使用を望んでいれば、お互いの中に不公平感がつのりトラブルとなることがあります。
共有不動産を占拠する共有者に対する明渡請求については、以下の記事で詳しく解説しております。
参照元:民法249条(共有物の使用)
占有者が賃料を支払わない
上記のように、特定の共有者が対象の物件を占拠している場合、他の共有者は占拠者に対して持分割合に応じた金額を賃料として請求できます。ですが、占拠者が賃料の請求に応じるとは限りません。
特定の1人が物件を独占利用しているにもかかわらず、賃料も支払わなければ、他の共有者が不満を抱きトラブルにつながります。
管理費や税金の負担割合で揉める
共有不動産にかかる固定資産税や管理・維持にかかる費用は、原則共有者全員が持分割合に応じて負担することとなっています。にもかかわらず、「費用を負担しない」「話し合いにすら応じない」のような共有者がいるとトラブルになりかねません。
自分の子どもや孫の代ではさらに複雑な共有関係に
共有名義で相続した不動産を放置していると、将来自分の子供や孫がトラブルに巻き込まれる可能性があります。
共有者のうちの誰かが死亡して、複数の相続人に共有持分が受け継がれる度に共有者が増え続け、合意形成が困難になるからです。
例えば、相続が何世代にもわたって繰り返され、不動産を顔も名前も知らない10人で共有しているとしましょう。この中には自分の子どもや孫もいます。
この場合、自分の子どもがマンションを売却して手放したいと考えても、まずは人探しをしなければならず、個人での合意形成は困難を極めます。
つまり、不動産の共有名義をそのままにしておくことで、自分の子どもや孫に面倒事を押し付けることになりかねません。
共有名義で相続するメリットはほぼない
以上のように共有名義にはトラブルのリスクが多く、メリットはほぼありません。
強いて言うなら、共有名義で不動産を相続するメリットは以下になります。
共有名義は平等なので協議がまとまりやすい
遺産分割協議がうまくまとまらない場合でも、法定相続分で登記して共有名義にすれば、相続人同士で納得しやすいというメリットがあります。
法定相続分は、民法上定められている遺産の取り分の目安であり、一見して公平感があるからです。
ですが、いったんは納得が得られても、後々起こり得る大きなトラブルを考えると、共有名義での相続は得策ではないでしょう。
登記費用の負担が減る
不動産を共有名義で相続すると、相続登記の費用は共有者が持分割合に応じて負担するので、一人ひとりが支払う登記費用の金額は抑えられるでしょう。
しかし登記費用はさほど高額ではありません。具体的には相続登記費用の相場は総額で6万円程度です。
少額を節約しても将来大きなトラブルを招いて、解決のためにその数十倍、数百倍の費用が発生することもあります。一時の登記費用節約のために共有名義にするのは、本末転倒ともいえるでしょう。
共有名義不動産になる前の生前対策
遺産相続時に不動産が共有名義になるのを避けるためには、被相続人が生きている間に対策するのがベストです。
これからお伝えする具体的な生前対策を行い、将来起こり得る様々なリスクを回避してください。
遺言書を作成
遺産相続時に共有名義を避けて不動産を相続するためには、生前に遺言書を作成しておきましょう。
あらかじめ遺言書で、誰に不動産を相続・遺贈させるか明記しておけば、基本的には遺言書の内容に従って単独名義で不動産を相続させられるからです。
遺言によって、遺言者の死後に特定の人へ遺産を無償で譲ること。
注意点としては、「特定の相続人へ遺産を全て譲る」等、遺言書の内容があまりに不公平であった場合に、相続人同士で「遺留分」を巡る争いが起こりかねないことです。
民法上、法定相続人に最低限保証されている遺産の取り分。
したがって、遺言書作成時には「相続不動産の代替になる遺産を他の相続人へ受け継がせる」などの対応が必要です。
1円単位で帳尻合わせが利く、預貯金などの遺産がない場合には、次項で解説する「不動産売却により現金化する」も視野に入れておくと良いでしょう。
遺産相続時の「遺留分」について以下の記事で詳しく解説しておりますので、参考にしてください。
売却して現金化しておく
もしも、相続不動産を何にも活用していないのであれば、被相続人の生前に不動産を売却してしまうのも有効です。
生前に不動産を現金化しておくことで、相続人は現金を平等に分ければ良くなり、将来争いが起きる可能性が大幅に減るからです。
もちろん、被相続人の余生を豊かにしたり、施設入所費用に充てたりと活用の幅も広がるでしょう。
単独名義に変更(すでに共有なら)
相続発生前からすでに、不動産が共有名義になっているのであれば、被相続人が生前に共有状態から抜け出しておくのが良いでしょう。
被相続人の持分が相続されて、新たな共有状態となったときに共有者同士で揉めるリスクを回避できるからです。
例えば現状、兄弟2人で不動産を共有しているとしましょう。
将来兄が亡くなり、兄の持分は配偶者や子供へ引き継がれるとします。つまり弟、妻、子で不動産が共有状態となります。
妻と子が揉めることはなくとも、自分の弟とうまくやっていけるとは限りません。
万が一、共有者間で折が合わなければ、不動産の活用で意見が対立した際に、裁判沙汰になるなんてことも考えられます。
したがって、将来の家族の苦労を考えるなら、早めに共有状態から抜け出しておくのが賢明な判断です。
共有不動産の共有状態から抜け出す方法は「すでに複数の相続人で不動産を共有してしまっている場合の対策」を参考にしてください。
被相続人死亡から相続登記前の対策
被相続人(亡くなった方)が遺言書を作成していなかったとしても、相続人全員で遺産分割協議を行うことで、相続不動産が共有名義になることを防げます。
相続手続きを放置していても良いことはありませんので、なるべく早急に遺産分割協議に取り掛かり、共有名義を避けるようにしましょう。
具体的には、以下の3つの相続方法で共有名義を避けられるように、相続人全員で話し合います。
複数の遺産を価値が公平になるように分ける(現物分割)
特定の相続人が単独で不動産を相続し、価値が公平になるように他の相続人が預貯金や自動車などの他の遺産を相続します。この相続方法を「現物分割」と言います。
具体例を用いて現物分割を解説します。
父親の遺産を相続する例
- 遺産は「3,000万円の不動産」「1,000万円の自動車」「4,000万円の預貯金」
- 兄弟2人で「2分の1ずつ」相続する
上記の例で、遺産を公平に分けるとこのようになります。
- 兄:「3,000万円の不動産」と「1,000万円の預貯金」=「合計の価値は4,000万円」
- 弟:「1,000万円の自動車」と「3,000万円の預貯金」=「合計の価値は4,000万円」
上記のように相続割合に応じて価値が公平になるように分けます。特に預貯金など1円単位で分けられる遺産がある場合は、帳尻合わせがしやすく現物分割に適しています。
ただし、各相続人が分割方法に納得している場合は、必ずしも価値を均等にする必要はありません。
また、相続不動産が土地のみの場合、「分筆登記」で物理的に分けて現物分割することもできます。
1筆(1つ)の土地を、複数の土地に分ける登記手続きのこと。
分筆登記については以下の記事で詳しく解説しています。
公平でない分を代償金で清算する(代償分割)
上記した現物分割のように、遺産の形をそのままにして価値を公平に分けられるとは限りません。
遺産の価値を公平に分けられない場合は、不公平な分を現金(代償金)で清算することでも遺産分割が可能です。簡単に言えば、特定の相続人が単独で不動産を受け継ぎ、不公平な分を他の相続人へ現金で支払うということです。
この相続方法を「代償分割」と言います。具体例を用いて代償分割を解説します。
父親の遺産を相続する例
- 遺産は「3,000万円の不動産」「1,000万円の自動車」
- 兄弟2人で「2分の1ずつ」相続する
上記の例では、遺産を均等に分配することはできません。兄が不動産を取得する場合、兄の手出し金で弟へ「代償金1,000万円」を支払うことで代償分割が成立します。
- 兄:「3,000万円の不動産」-「代償金1,000万円の支払い」=「合計の価値は2,000万円」
- 弟:「1,000万円の自動車」+「代償金1,000万円の受取り」=「合計の価値は2,000万円」
代償金で清算することで、兄弟2人とも「2,000万円の価値」を相続できるという考え方をするのです。
不動産を売却して現金を分ける(換価分割)
上記した2つはいずれも、特定の相続人が単独で不動産を受け継ぐ相続方法でした。
一方で、「誰も不動産の相続を希望しない」「誰が相続するかで揉めたくない」の様な場合には、相続不動産を現金に換えて相続する方法が有効です。
相続不動産を売却して、売却代金を各相続人の相続割合に応じて分配します。この方法を「換価分割」と言います。
具体例を用いて換価分割を解説します。
父親の遺産を相続する例
- 遺産は「3,000万円の不動産」のみ
- 兄弟2人で「2分の1ずつ」相続する
上記の例で換価分割する場合、実家の売却で得た3,000万円を兄弟2人で「1,500万円」ずつに分けます。
すでに複数の相続人で不動産を共有してしまっている場合の対策
すでに遺産分割協議を終え、相続不動産を共有名義にしてしまっている方もいるかもしれません。
前述の通り、不動産の共有状態を放置すると共有者間でトラブルとなるリスクが高まります。そのため、なるべく早期に共有状態の解消に向けて対応するべきでしょう。
ここからは不動産の共有状態を解消する方法を6つご紹介します。
共有者全員で協力して不動産全体を売却
共有者全員の合意のもと不動産全体を売却し、売却代金を持分割合に応じて各共有者に分配することで共有状態を解消できます。
共有名義の不動産とはいえ、完全な100%の所有権として売却するのですから、一般の不動産売買と同じく、相場通りの価格で売りに出せます。
具体例をもとに説明します。
不動産全体売却による共有解消の具体例
- 市場相場5,000万円の共有不動産
- 夫婦で不動産を「2分の1」ずつ共有
- 共有不動産全体を市場相場通り「5,000万円」で売却
このとき、売却によって得た「5,000万円」を夫婦で「2,500万円」ずつ分配します。
ただし、共有不動産全体を売却するためには、共有者全員の合意が必要であるため、1人でも反対すれば売却はできません。
したがって、他の共有者が誰かわからない、あるいは音信不通である等の場合には共有解消が難航する可能性があります。
他の共有者に自分の持分を買い取ってもらう
あなた自身の共有持分のみを他の共有者に買い取ってもらうことで、共有状態から抜け出すことが可能です。
例えば、相続した実家を兄弟2人で共有しているとしましょう。この時、兄の持分を弟が買い取ることで、兄は共有関係から抜けられますし、弟は実家を単独所有して自由に活用できるため、双方にメリットとなります。
この方法は、不動産の活用には特段興味がなく、それよりは現金化したいという人におすすめです。
ただし、他の共有者が買取に応じるかは共有者同士での交渉次第です。他の共有者と交渉を上手に進め、共有関係から抜け出したい人は以下の記事を参考にしてください。
他の共有者から持分を買い取る
あなたが他の共有者全員の持分を買い取ってしまえば、不動産があなたの単独名義となり共有解消できます。
この方法は、他の共有者に買取代金を支払ってでも、不動産を単独名義にして自由に活用したい方におすすめです。
とはいっても、なるべく安く共有持分を買い取りたいと思うものです。他の共有者と交渉をうまく進めるテクニックは以下の記事で解説しておりますので、参考にして下さい。
土地を分筆する
共有名義の土地を「分筆登記」によって物理的に切り分けることで、各共有者が単独で所有する複数の土地となり、共有状態を解消できます。
ただし、建物は物理的に切り分けられないため、土地上に建物がある場合は分筆登記による共有状態の解消はできません。
具体例をもとに解説します。
土地分筆による共有解消の具体例
- 合計面積100㎡の共有地A
- 兄弟2人で土地Aを「2分の1」ずつ共有
このとき、共有地Aを「50㎡の土地X」と「50㎡の土地Y」に切り分け、それぞれ兄と弟で単独所有します。
注意点としては、分筆登記を行ったことによって土地の価値が低下する可能性があること。分筆登記によって「狭くなりすぎる」「いびつな形状になる」ような場合、土地の使い勝手(利用価値)が悪くなるからです。
分筆後もある程度の面積を確保できて土地の価値が下がりにくいなら、検討の余地があります。
分筆登記に関しては以下の記事で詳しく解説しておりますので、参考にしてください。
共有物分割請求訴訟を起こす
他の共有者と話し合っても、不動産全体の売却や共有持分の売買などによる共有状態の解消に応じてくれない場合は、裁判(共有物分割請求訴訟)を行うという手もあります。
裁判所を通して、他の共有者に共有状態の解消を求める裁判。
ただし、訴訟を起こすと共有状態の解消方法は裁判所が強制的に決定するため、あなたの希望通りの結果になるとは限りません。
したがって、共有者同士で話し合いの余地がなく、不動産の売却や利用に対して譲れない思いがある方でなければ、訴訟はおすすめできません。
共有物分割請求に関しては、以下の記事で詳しく解説しておりますので、参考にしてください。
自分の共有持分のみを売却
あなた自身の持分のみを他の第三者へ売却することで、共有状態から抜け出す方法もあります。あなたの持分は、完全なあなたの所有物であるため、他の共有者から合意を得なくとも自由に売却可能です。
ただし、共有持分のみを持っていても、共有不動産を自由に活用できるわけではないので、一般の個人や一般の不動産屋はまず買い取りません。
現実的には、共有持分を専門に取り扱う買取業者に相談して持分を買い取ってもらうのが良いでしょう。
ただし、買取価格は市場相場より若干安価になってしまいます。
買取業者が数年単位で時間をかけて、権利関係を整理してから再販等の方法で活用するからです。
共有持分買取業者は以下のような方におすすめです。
- 他の共有者と話し合いの余地がない。
- 他の共有者と一切かかわりたくない。
- 他の共有者と音信不通。
- 他の共有者が誰かわからない。
上記に当てはまる方は、共有持分買取業者への共有持分売却を検討しましょう。
共有持分専門の買取業者であれば、直接業者が持分を買い取るので、金額感さえ合えば数日で現金化が可能です。
弊社でも共有持分の買取を積極的に行っておりますので、共有状態でお困りの方はお気軽にご相談ください。
また、優良な共有持分買取業者の選び方は以下の記事で詳しく解説しておりますので、気になる方は参考にしてください。
まとめ
この記事では、共有名義で不動産を相続した際のトラブル発生リスクについて解説してきました。
記事内でお伝えした通り、共有名義で不動産を相続すると様々なリスクを抱えることになるため、可能な限り共有を避けて相続することをおすすめします。
また、すでに共有名義で不動産を相続してしまっている場合は、早急に共有状態を解消したほうがよいでしょう。
- 他の共有者と話し合いの余地がない
- 他の共有者と一切かかわりたくない
- 他の共有者の連絡先や住所もわからない
上記のような場合は、共有持分専門の買取業者へあなた自身の持分を買い取ってもらうことで、ストレスなく共有関係から抜け出すことが可能です。
弊社でも、共有持分のみの買取を積極的に行っております。共有不動産で頭を悩ませている、将来のリスクが心配という方はお気軽にご相談ください。
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