共有者に相続人がいるケース
死亡した共有持分権者に相続人がいる場合、相続人がそのまま持分を取得します。
相続人が1人の場合はその相続人に持分が移り、相続人が複数いる場合は「法定相続割合」に応じて共有持分が各相続人に帰属します。
相続人が複数いる場合でも、遺産分割協議をおこなって誰か1人が単独で共有持分を相続することに決めれば、その1人の相続人が新たな共有持分権者となります。
また、被相続人が遺言によって誰か1人の相続人を共有持分の引継人と定めていた場合もその相続人が単独で共有持分を取得できますが、ほかの相続人が自身の取り分を求めて遺留分侵害額請求を起こす可能性があります。
遺留分
法定相続人が相続できる最低限の遺産のことです。遺留分侵害額請求の訴えが裁判所に認められた場合、法定相続人は遺留分を取得できます。たとえ遺言書で相続人が定められていたとしても、このケースではほかの相続人と不動産を共有しなくてはいけなくなる点に注意が必要です。
共有状態のままだと、共有持分を取得した共有者と今後の共有不動産の取り扱いについて意見が合わず、トラブルに発展する恐れもあるので早めに共有状態を解消するための方法を話し合う必要があります。
共有者と一緒に売却するか、自身の共有持分のみを売却するか、共有者へ共有持分を売却する方法があげれられます。共有者と関係性がよくない場合は、共有持分専門の業者へ売却するのが一番手っ取り早くおすすめです。まずは査定に申し込み、売却価格を確認してみましょう。
共有者に相続人がいないケース
共有不動産の持分権者が死亡した際に相続人がいなければ、特別縁故者に共有持分を相続する権利が与えられます。場合によっては身内ではない人物と不動産を共有せざるを得ず、不動産の活用方法を巡ってトラブルが発生する可能性がある点に注意しましょう。
ここでは、共有者に相続人がいない場合に誰が共有持分を相続するのかについて解説します。
相続人不在のケースとは?
死亡した共有者に相続人がいないケースとして考えられるのは、以下の2パターンです。
配偶者・親・子ども・兄弟姉妹がいない
相続人がもともと天涯孤独で法定相続人となる親族がいないケースです。子どもや孫、ひ孫、親、祖父母、兄弟姉妹、甥姪が存在しない場合は法定相続人がいません。
相続人が全員相続放棄した
たとえ相続人がいたとしても、相続人全員が相続することを放棄した場合は相続人不在と同じ状態となるため、共有持分を相続する人がいなくなります。
相続人がいないケースにおける共有持分の取扱い
共有持分権者に相続人がいない場合、共有持分の取り扱いに関しては民法で定められていますが、「民法255条」と「民法958条の3」とではそれぞれ規定が異なるので、多くの方が混乱してしまいがちです。
相続人がいないケースにおける共有持分の行方をしっかりと理解するためにも、まずは民法の規定について把握しましょう。
次の項目では、「民法255条」と「民法958条の3」の違いについて詳しく解説します。
「民法255条」と「民法958条の3」では共有持分を相続できる人物が異なる
死亡した共有持分権者に相続人がいない場合、民法255条と民法958条の3では共有持分の帰属先が異なります。
民法255条と民法958条の3の条文の違い
まずは、民法255条と民法958条の3の条文がどのように異なるのかを確認しましょう。
255条(持分の放棄及び共有者の死亡)
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)
前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
民法255条とは
民法255条をみると、「共有者の1人が死亡して相続人がいないときには、共有持分が他の共有持分権者のものになる」と書いてあります。
これによると、共有持分権者が死亡して相続人がいなければ、他の共有持分権者に権利が移ることになります。
不動産への所有権はなるべく一人に集中させる方が好ましいので、こういった規定がもうけられています。
民法958条の3とは
958条の3は「特別縁故者への財産分与」を認めています。これは、内縁の配偶者など被相続人と特別な関係にあった人による遺産受け取りを認める規定です。
人が死亡したとき、遺産を受け取れるのは基本的に「法定相続人のみ」です。内縁の妻や献身的に介護をおこなった人などには相続権がないので、一切の遺産を受け取れません。
しかし相続人がいない場合にまで、生前に遺族と親しい関係にあった人が一切遺産を受け取れないのは不合理です。
そこで相続人がいない場合には、死亡前に被相続人と近しい関係にあった人を「特別縁故者」として、財産を一部もらう権利を定めています。
上記の2つの規定があるために共有持分権者が死亡して相続人がいない場合、共有持分を「共有持分権者」が取得できるのか、「特別縁故者(内縁の妻など)」が取得できるのかがはっきりとしません。
いったいどちらが共有持分を取得できるのでしょうか。
最高裁判所の判例では特別縁故者を優先
共有持分権者が死亡した場合の民法958条の1と民法255条の問題について、最高裁は以下のように判断しています。
(最高裁平成元年11月24日)
958条の3の規定は、本来国庫に帰属すべき相続財産を被相続人と特別の縁故があった者に分与し、特別縁故者を保護するためのものである。
特別縁故者への財産分与の制度が設けられているにもかかわらず、相続財産が共有持分というだけで分与が認められないのは不合理であり、被相続人の意思にも合致しない。
共有持分権者が死亡して相続人の不存在が確定したときには、まずは特別縁故者への財産分与の対象となり、その手続を経ても承継する人がいない場合にはじめて255条によって他の共有者に帰属すると理解すべきである。
このように裁判所は、民法958条の3と民法255条については958条の3が優先的に適用されると判断しています。
共有者に相続人がいないケースでは、共有持分はまず特別縁故者への分与対象となり、分与がおこなわれなかったときに他の共有持分権者のものとなるということです。
マンションの敷地権の場合、共有持分権者は取得できない
マンションの共有持分のケースでは、民法958条の3と民法255条について特例が設けられています。
それは「建物部分」と「敷地権の共有部分」の所有者を分けないルールです。
マンションの権利は「建物部分」と「土地(敷地権)部分」に分かれており、建物部分は所有者の「専有(単独所有)」、敷地権はマンション所有者全体の「共有」となっています。
そこでマンションの所有者が亡くなった場合、専有部分である建物部分と共有部分である敷地権のそれぞれの相続が問題となります。
そしてマンションについては「区分所有法」という法律により、「建物と敷地権持分の所有者が一致しなければならない」という原則が定められています。
参照元:e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律第24条」
建物と敷地権を両方所有していないと、利用や売却などの際に混乱が生じて不都合だからです。
相続の結果、「建物部分は国のもの、敷地権は共有持分権者のもの」などとなるのは区分所有法に反するので認められません。そこでマンションの所有者が死亡した場合、敷地権の所有者は建物の所有者に従って決まります。
建物を特別縁故者が取得する場合
建物を特別縁故者が取得する場合は、敷地権も特別縁故者のものとなります。
特別縁故者がいない場合
特別縁故者がいない場合は、建物も敷地権も国のものとなります。
マンションの敷地権だけを他のマンション所有者が取得することはできません。
共有不動産に住宅ローンが残っている場合の手続き
共有不動産に住宅ローンが残っている場合、相続人は被相続人の残債も含めて受け継ぐことになります。このとき、被相続人が団体信用生命保険に加入していれば、被相続人分の残債は保険金によって相殺されるため、亡くなった共有者分の残債を支払う必要はありません。
この場合は以下のように保険金の支払い手続きを進めます。
- 住宅ローンを借り入れている金融機関に連絡し、必要書類を受け取る
- 書類に必要事項を記入のうえ金融機関に提出する
- 生命保険会社の審査を受ける
- 保険金の支払いを受ける
- 相続登記で不動産名義を相続人のものに変更する
- 抵当権抹消登記をおこなう
なお、団体信用生命保険は住宅ローンの残債を保険金によって弁済するしくみのため、一般の生命保険とは異なり相続税の対象とはなりません。
共有者が亡くなったあとに共有持分を相続する流れ
不動産の共有持分権者の死亡後、共有持分を相続する流れは相続人がいるケースといないケースとで異なります。
ここでは、相続人がいるケースといないケースにおける共有持分を相続する流れや手続きについて解説します。
相続人がいるケース
共有持分権者に相続人がいる場合は、以下の流れで共有持分の相続手続きをおこないます。
相続人が遺産分割協議をおこなう
相続人がいる場合、相続人らが「遺産分割協議」をおこなって、誰が共有持分を相続するのかを決定します。
相続人が共有持分の相続登記をおこなう
遺産分割協議によって誰が共有持分を取得するか決まったら、その相続人が自分で共有持分の名義変更登記(相続登記)をします。その後、不動産がこれまでの共有持分権者と新たな相続人との共有状態になります。
相続人がいないケース
死亡した共有持分権者に相続人がいない場合の共有持分相続の流れは以下のとおりです。
共有持分権者が「相続財産管理人」の選任を申し立てる
共有持分権者が死亡した場合、他の共有持分権者が共有持分を取得するには、まずは家庭裁判所で「相続財産管理人」の選任を申し立てなければなりません。
前述のように共有持分権者よりも特別縁故者が優先され、相続財産管理人が特別縁故者への財産分与の手続きを終えない限り、死亡した人の共有持分を他の共有持分権者の名義に移すことができないからです。
相続財産管理人の選任方法は、後の項目で詳しく説明します。
相続財産管理人が相続人の捜索や債権者・受遺者への支払い、特別縁故者への財産分与などの手続きを進める
家庭裁判所で相続財産管理人が選任されたら、その人が相続人の捜索や財産の現金化、債権者への支払いなどを進めます。その後、特別縁故者への財産分与の手続きがおこなわれます。
最終的に共有持分が残ったら共有持分権者による取得が認められる
相続財産管理人が換価や必要な支払いをしたあと、死亡した人の共有持分が残っていたら、その持分は他の共有持分権者のものとなります。
取得した共有持分についての名義変更登記をおこなう
共有持分権者が不動産の共有持分を取得した場合には、その持分について自分の名義に変更する名義変更登記をおこないます。これにより、第三者に対しても引き継いだ共有持分を主張できる状態になります。
共有持分権者が死亡した人の共有持分を取得する方法
共有持分権者が死亡したときの共有持分は、法定相続人がいれば法定相続人、法定相続人がいなければ特別縁故者、特別縁故者がいなければ他の共有者が取得することになります。
しかし共有状態の不動産はトラブルにつながりやすいため、できれば他の共有者が共有持分を取得して単独名義にすることが理想です。
ここでは、共有持分権者が死亡した際に、他の共有者がその持分を取得する2つの方法をご紹介します。
死亡後に相続財産管理人を選任する
共有持分権者が死亡したとき、他の共有持分権者がその持分を取得したい場合には、家庭裁判所で「相続財産管理人」を選任しなければなりません。相続財産管理人とは、死亡者の財産を管理処分して、最終的に国に帰属させる人のことです。
死亡した人の共有持分は優先的に特別縁故者のものとなり、それがおこなわれないときに生きている共有持分権者のものとなります。
そこで、まずは特別縁故者への分与手続きをしないと共有部分を取得できません。その特別縁故者への財産分与をおこなうのが、相続財産管理人です。
共有持分権者が勝手に特別縁故者と話し合いをしたり財産分与したりすることはできないので、共有持分をもらうために、まずは相続財産管理人を選任しなければならないのです。
相続財産管理人を選任する方法
相続財産管理人の選任申立は、「被相続人の住所地の家庭裁判所」にておこないます。
その際、以下の書類が必要です。
- 被相続人や被相続人の両親、子どもや孫などの出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本類
- 相続人の住民票除票または戸籍附票
- 被相続人の財産に関する資料(不動産全部事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金や株式などの残高が分かる書類など)
- 不動産を共有していることを示す資料(共有不動産の全部事項証明書)
- 財産管理人の候補者を立てる場合、その人の住民票または戸籍附票
なお、共有持分権者が自ら相続財産管理人となることも可能です。
申立の際にかかる費用としては、800円分の収入印紙と連絡用の郵便切手、「予納金」が必要です。相続財産管理人選任の際の予納金は、20万~100万円以上かかるケースもあるため、注意が必要です。
相続財産管理人選任後の流れ
相続財産管理人が選任されたら、その人が財産の換価や処分をしていき、最終的に特別縁故者への財産分与の手続きをおこないます。
その時点で共有持分が処分されずに残っていたら、民法255条によって生きている共有持分権者が死亡した人の共有持分を取得することが可能です。
共有者に対する遺贈(遺言で財産を譲ること)
相続時のトラブルを避けるためには、生前に予防策を打っておくことが重要です。そこでおすすめなのが、遺言書の作成です。他の共有者にスムーズに自身の共有持分を引き継ぐためにも、共有持分のすべてを他の共有者に相続させる旨をしたためておくとよいでしょう。
遺言が有効な理由
上記のように、共有持分権者の死後に他の共有持分権者が自力で死亡した人の共有持分を取得しようとすると、非常に大変で費用もかかります。
しかし遺言で共有持分の引き継ぎ手を指定しておけば、相続開始後すぐに指定された人が共有持分を取得可能です。
この場合、相続財産管理人の選任も不要であり、特別縁故者に分与される可能性もありません。
またマンションの場合、遺言がなかったら特別縁故者のものになるか国のものになるかのどちらかであり、共有持分権者が取得できる可能性はありませんが、遺言があれば建物と敷地を両方共有持分権者がもらうことも可能です。
遺言内容は本人が決める
遺言内容は遺言者本人が自由に決められます。たとえば共有持分権者が特別縁故者へ共有持分を遺贈すると決めた場合、共有持分は特別縁故者のものになります。
共同で不動産を所有している共有持分権者が共有相手の死亡後に持分を取得したいのであれば、生前からしっかりと話し合い、自分に共有持分を譲ってくれるよう説得してから遺言書を書いてもらう必要があります。
まとめ
不動産を共有している相手が亡くなった場合、その共有持分は法定相続人が、法定相続人がいない場合は特別縁故者が相続することになります。
しかし、第三者との不動産共有はトラブルのもとです。まとまった現金がほしいなどの理由で売却を検討したとしても、共有者すべての同意がない限り売却できません。
相続が発生して単独名義にすることが難しい場合は、トラブルを未然に防ぐためにも自身の共有持分を売却して共有状態を解消することをおすすめします。一般の不動産会社では買取が難しい共有持分でも、専門の買取業者であれば問題なく買い取ってもらえます。
弊社では、積極的に共有持分の買取をおこなっています。全国の弁護士とも提携しているため、共有者間で起こったトラブルの解決も可能です。
共有不動産でのお困りごとがあれば、まずはお気軽にお問い合わせください。