地主都合で借地人に立ち退きを迫る場合は正当事由が必要
地主側の都合で借地人に立ち退きを要求するケースとしては、おもに以下の事情が考えられます。
- 底地をほかの用途に使用したい
- ほかの底地と合筆して土地の面積を広げたい
- 底地を再開発したい
- 更地にして第三者に高く売却したい
しかし地主から借地人に立ち退きを迫る場合は「正当事由」が必須です。
ここでは、どのような理由であれば正当性があると認められるのかについて解説します。
借地借家法で定められた正当事由
底地の賃貸にあたり、地主と借地人の間で借地契約が交わされます。
借地借家法によって契約期間は30年以上と定められており、契約は法定更新です。
地主側に契約更新を拒絶する「正当事由」があると認められない限り、借地人に立ち退きを強制できません。
参照元:e-Gov法令検索「借地借家法第三条」「借地借家法第六条」
ただし、地主側に底地を使用する事情があるなどと裁判所に判断された場合は、借地人の立ち退きを認める判決が下されることもあります。
正当事由があるかどうかは、以下の4つの観点から判断されます。
- 地主が土地の使用を必要とする事情がある
- 借地契約に関する従前の経過
- 土地の利用状況
- 地主が立ち退き条件として立ち退き料の支払いを申し出ている
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
1. 地主が土地の使用を必要とする事情がある
4つのポイントのうち、もっとも重要なのは土地を利用する必要性があるかどうかです。
「すでに一帯で再開発計画が進んでおり、借地人に土地を明け渡してもらう必要がある」「地主がほかに不動産を所有しておらず、自分が居住する家を建てるなど底地を利用する具体的な計画がある」などの場合は、比較的地主側の正当性が認められやすい傾向にあります。
2. 借地に関する従前の経過
借地に関する従前の経過とは、「地代がしっかりと支払われ続けてきたか」「支払いの延滞や滞納などはないか」「契約更新料の授受はあったか」など、これまでの借地契約の内容を考慮するものです。
「借地人の経済状況が苦しいために土地を貸してあげていた」「契約時から現在までの地代が周辺と比較すると安い」「借地契約を交わす際に権利金を受け取っていない」などの事情がある場合は、地主側に正当事由があると判断されやすくなります。
3. 土地の利用状況
土地の利用状況は、借地が具体的にどのように活用されているのか、周辺の土地と比較して適切な使われ方がなされているかを判断するものです。
たとえば「周辺に大型のマンションが林立しているにもかかわらず、平屋が建っているなど土地が有効活用されていない」などの場合は、地主側の正当性が認められることがあります。
4. 地主が立ち退き条件として立ち退き料の支払いを申し出ている
借地人に高額な立ち退き料の支払いを申し出たとしても、それだけで地主側の正当性が認められるわけではありません。
あくまでも上記1~3の事情を総合的に考慮したうえで、立ち退き請求に正当性があるかどうかが判断されるのです。
なお、以下の記事でも借地人に立ち退きを迫るために必要な地主の正当事由について解説しています。
併せて参考にしてください。
借地人に立ち退きを迫れるのは契約更新のタイミングのみ
たとえ地主であっても、いつでも借地人に立ち退きを要求できるわけではありません。
借地人に立ち退きを求める場合は、契約期間満了の6か月前~1年前に立ち退き交渉をする形が一般的です。
交渉をスムーズにおこなうためにも、事前に弁護士や不動産会社に相談することをおすすめします。
立ち退き料の支払いを申し出たとしても借地人が立ち退き拒否できるケース
地主が借地人に立ち退き料の支払いを申し出たとしても、以下のようなケースでは借地人に立ち退きを求めるのは難しい傾向にあります。
- 借地人側に転居が困難な理由がある
- 借地人が借地利用を継続する必要性がある
それぞれについて見ていきましょう。
借地人側に転居が困難な理由がある
借地人側に転居が困難な理由がある場合、借地人側の不利益が大きいとされ、地主が借地人に立ち退きを命じても認められないケースがあります。
例えば、借地人が底地に自宅を建てて住んでいて、借地人に収入がない、もしくは借地人が病気やケガで療養が必要などの理由で転居が困難なケースです。
このような状況で転居を求めた場合、借地人の生活を脅かしてしまいます。
もし、借地人が重い病気を抱えていれば、立ち退きの心労により病状が悪化し、命を落としてしまう可能性もゼロではありません。
借地人に転居が困難な理由がある場合、立ち退き料を支払えるとしても、立ち退きは認められないケースがほとんどでしょう。
借地人が借地利用を継続する必要性がある
借地人が借地利用を継続する必要性がある場合も、立ち退きが認められないケースがあります。
例えば、借地人が底地に店舗を建てており、長年にわたって事業を営んでいるケースです。
借地人が和菓子屋を経営しており、地元でも有名なお店であれば、地元民はそのお店がなくなることを良しとしないでしょう。
上記に加えて、地主側に底地を利用する必要性が低いなら、なおのこと借地人を立ち退かせるメリットがありません。
このように、借地人に借地利用を継続する必要性が認められれば、立ち退き料を支払えるとしても、立ち退きは認められないでしょう。
地主側に正当事由がなくても借地人に立ち退きを迫れるケース
地主が借地人に立ち退きを要求するには原則として正当事由が必要ですが、以下のケースでは地主側に正当事由がなくても借地人に立ち退きを求めることが可能です。
- 定期借地契約の場合
- 底地を駐車場などに利用している場合
それぞれの事例について解説します。
定期借地契約の場合
定期借地契約は普通借地契約とは異なり、当初定められた契約期間の満了をもって借地契約が終了します。
契約の更新もありません。
そのため借地人と定期借地契約を締結している場合は、契約期間の満了に伴い、立ち退きを求めることが可能です。
立ち退き料も支払う必要はありません。
なお、一般定期借地契約の場合、借地人は建物を取り壊したうえで土地を返還する義務を負いますが、建物譲渡特約付借地権の場合は地主が借地人の建物を買い取る必要があります。
以下の記事では、借地契約の満了時に借地人が地主の方へ借地権を返還する方法を解説しています。
地主の方にとっても役立つ内容となっているので、借地人から借地権の返還を受ける前にぜひご一読ください。
借地人が底地を駐車場などに利用している場合
借地人が底地を駐車場など建物以外の用途に使用している場合は借地借家法が適用されないため、正当な理由がなくても立ち退きを要求できます。
この場合も立ち退き料は不要です。
地主が借地人に立ち退きを要求した場合の立ち退き料の相場
地主側の都合で借地人に底地の明け渡しを求める場合は、立ち退き料を支払わなければなりません。
立ち退き料に関する明確な規定はありませんが、判例では借地権価格をもとに算出されることが多い傾向にあります。
それでは、いったいどのようにして立ち退き料は求められるのでしょうか。
ここでは、立ち退き料の相場について解説します。
住居として利用している底地の立ち退き料は借地権価格をもとに算出
借地人が底地を住居としている場合の立ち退き料は、借地権価格から「地主の正当事由の強さ」に応じて金額が増減される形が一般的です。
借地権価格の求め方は以下のとおりです。
借地権割合は該当の土地に対する借地権の割合を示したもので、地域ごとに30~90%の範囲で定められています。
裁判では、こうして求めた金額に「地主が借地を利用する必要性」と「立ち退きに伴う借地人の負担の大きさ」を考慮したうえで、借地権価格の何割を立ち退き料とするかを決めることがほとんどです。
このように、立ち退き料の金額には法的な定めはなく、あくまでも地主と借地人との話し合いによって決められるものです。
交渉がまとまらない場合は裁判で決着をつける必要がありますが、裁判をおこなうと時間や費用がかかってしまいます。
そのため、弁護士や不動産会社に相談に乗ってもらいながら交渉を進めることをおすすめします。
専門家に依頼すれば、借地人が納得のいく金額や交渉の進め方についてのアドバイスをもらえます。
なお、弊社AlbaLink(アルバリンク)では土地の無料査定をおこなっております。
売却前提でなくても構いませんので、借地権価格を割り出すために土地のおおよその売却価格を知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。
事業用として利用している底地の立ち退き料は営業補償が考慮される
なかには借地人が住居ではなく店舗として底地を利用しているケースもあるでしょう。
この場合は立ち退きに伴う営業休止期間中に想定される収益や移転費用、移転後の一定期間の売り上げ補償などが加味されます。
ただし営業補償の期間や金額についての明確な規定があるわけではないので、立ち退き料は地主と借地人とで話し合って決める必要があります。
交渉をスムーズに進めるためにも、やはり弁護士や不動産会社を間に挟むとよいでしょう。
借地人へ支払う立ち退き料が高額になってしまうケース
借地人に支払うべき立ち退き料には一定の相場があるわけではないため、ケースによって金額は異なります。
しかし、地主よりも借地人側に土地を利用する正当性があると判断された場合は、立ち退き料も高額になってしまう可能性があるため、注意が必要です。
ここでは、借地人へ支払う立ち退き料がどういったケースにおいて高額となってしまうのかについて解説します。
借地人が底地を利用する必要性がある
前述のように、地主が借地人に立ち退きを請求するには正当事由が必要です。
しかし地主よりも借地人のほうが土地を利用する必要性があり、立ち退きによって大きな不利益を被ると判断された場合は立ち退き料が高額にのぼる可能性があります。
たとえば地主が商業施設に底地を貸すために借地人に立ち退きを求めた判例では、借地人はほかに不動産を所有していないことから土地の利用を継続する必要性は高いものの、引っ越し先を見つけることは可能として5,000万円(借地権価格は5,500万円)の立ち退き料の支払いを地主側に命じています(東京地方裁判所平成25年3月14日判決)。
借地人が更新料を支払った事実がある
立ち退きに伴い、借地人から更新料支払いの事実を証明され、立ち退き料の値上げを求められることがあります。
更新料は借地契約の更新時に借地人が地主に支払う金額で、更地価格の3~5%が相場といわれています。
たとえば、更地価格が3000万円の場合、更新料は90~150万円です。
更新料を支払っている事実があれば、地主の立ち退きに対する正当な事由が弱くなるので、立ち退き料が上がる可能性があります。
借地人から建物を買い取るように要求される
地主都合の立ち退きの場合、借地人は建物を時価で買い取るよう地主に要求できます。
(建物買取請求権)
第十三条 借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
借地人が建物買取請求権を行使した場合、地主はこれを拒否できません。
そのためこのケースでは立ち退き料に加えて建物の買取費用を上乗せして支払う必要があります。
尚、契約書に「建物買取請求権を行使しない」旨の特約が記載されており、借地人もそれに同意している場合はその限りではありません。
立ち退き料がなかった場合は地主に贈与税が課される
話し合いによって借地人が立ち退き料を不要と判断した場合は立ち退き料を支払う必要はありません。
ただし、この場合は税務上、借地人が地主に借地権を贈与したと見なされ、借地権価格に応じた贈与税が地主に課される恐れがある点には注意が必要です。
贈与税率は以下のとおりです。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | 0円 |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
たとえば更地価格が3,000万円、借地権割合が70%の借地権を贈与された場合の贈与税は次のように求めます。
借地権価格=3,000万円×70%=2,100万円
基礎控除後の課税価格=2,100万円-110万円=1,990万円
贈与税額=1,990万円×50%-250万円=745万円
ケースによっては立ち退き料を支払ったほうが結果的に金額が抑えられる可能性があります。
立ち退き交渉の仕方によって立ち退き料は大きく異なるため、立ち退き交渉にあたっては個人間で話し合うのではなく、弁護士などの専門家や不動産会社などに依頼したうえで進めることをおすすめします。
参照元:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
まとめ
地主側の事情によって借地人に底地からの立ち退きを要求する場合は、立ち退き料の支払いが必要となることがあります。
ただし、たとえ立ち退き料を支払ったとしても「借地人側に転居が困難な理由がある」「借地人が借地利用を継続する必要性がある」と判断された場合は借地人に立ち退きを求めるのは難しいでしょう。
また、立ち退き料には一定の相場はなく、交渉によって金額が大きく異なります。
借地人との間にトラブルを起こすことなく立ち退き交渉をスムーズに進めたい場合は、弁護士などの専門家や不動産トラブルに長けた不動産会社に相談することをおすすめします。
なお、いっそのこと底地を売却したいとお考えの方は、弊社AlbaLink(アルバリンク)へご相談ください。
弊社は、底地をはじめとする訳あり物件を買い取っている専門の買取業者です。
過去にはフジテレビの「newsイット!」にも、訳あり物件専門の買取業者として紹介されました。
弊社には、借地人と交渉して底地と借地を同時に売却するなど買い取った底地を活用する豊富なノウハウがあります。
そのため、一般の不動産業者では取り扱わない底地でも問題なく適正価格で買い取ることができるのです。
以下のように、弊社をご利用いただいたお客様からも高い評価をいただけております。
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