自分の不動産を担保に入れてお金を借りていたり、担保に入れていなくても債務や税金を滞納している場合、金融機関や役所などにより自分の不動産に差押えの登記をされることがあります。
ただ、この「差押え登記」があることが売却の妨げとなることが多々あります。
たとえば不動産に差押え登記が入っている場合、差押えがついたまま買主の手に渡すわけにはいきませんので、売却が完了するまでに差押え解除をするという確約を取り付けておく必要があります。
では、差押えの登記を消したい場合、どのような条件を備えれば解除にこぎつけることができるのでしょうか?
また、差押え登記を抹消する場合、どのような流れで行われるのでしょうか。
目次
金融機関からの差押え
金融機関から、滞納を理由に不動産を差し押さえられてしまう状況としては
- もともとお金(主に住宅ローンなど)を借りる際に担保に入れていた(=抵当権や根抵当権がついていた)状況で、金融機関が「担保権者として」差押えをする
- フリーローンなど、担保を提供しない借金に基づいて、金融機関が「一般の債権者として」差押えをする
といったことが考えられます。
前者の「担保権者として」差押えをする場合は、もともとその金融機関は抵当権等で配当の優先権を確保している状態ですので、不動産を競売した場合はその金融機関が優先弁済を受けることとなります(複数の抵当権の場合は順位により優先権が変わる)。
後者の「一般債権者として」であれば、配当要求をしてきた他の債権者と並列の立場になりますが、基本的に債権額に応じる形で(諸費用等も考慮して)裁判所の決めた金額の配当を受けることになります。
金融機関はなるべく競売を避けたい
金融機関が差押えを入れるということは、いよいよ競売(裁判所を通じて売却し、その代金を配当すること)の準備に入ってきたことを意味します。
たとえば、住宅ローンにおける金融機関の対応を見るとこのようなスケジュールになることが多いようです。
- 三カ月くらい滞納が続いたら「保証会社」による「代位弁済(債務者に変わって保証会社が銀行に返済すること)」がされる。この段階で債務者は期限の利益(分割で返済する権利)を失う。
- 保証会社への一括返済がされず最初の滞納から半年くらいその状態が解消されなかったら、銀行に代わり債権者となった保証会社が担保不動産の差押えをする。
たとえば、下の図ではA信用保証は債務者が返済できなくなった場合、代わってA銀行に返済します。その後はA信用保証が債権者の立場を承継します。
よって、競売に入る段階ではすでに保証会社(サービサーと呼ばれる債権回収会社に債権譲渡することもある)が申立人となるケースが多いのです。
ただ、金融機関は「競売をなるべく避けたい」のが本音です。
実際の競売手続きをしようと思えば、少なくとも裁判所への「予納金」として50万円~100万円(裁判所の管轄、また各案件により異なる)を申立人、つまり金融機関が負担しなくてはならず、プラス事務的な手間もかかることになります。
そのような状況を避けるために、極力銀行担当者から返済に行き詰まった債務者に「任意売却(債務者が自ら不動産を市場で売る)」をすすめているというのが実務的な状況です。
なお、差押えまでされた状況の中で「任意売却」に切り替えられるのか?という点ですが、競売手続きが始まっていても切り替えは可能です。
建前上は「開札日」まで競売の取り下げ可能ですが、実際にはもう少し前に申し出ないと金融機関は取り下げの要望に対応してくれないことが多いようです。
任意売却は、金融機関にとってもお金と手間を省けるメリットがある一方で、債務者にも大きなメリットがあります。
一般的に任意売却の方が競売より物件が高く売れる=より多く債権者に返済でき、その後債務者が負う残債務が少なくなるということになります。
また、金融機関が債権者である場合はスムーズに物件から立ち退いてもらうために「引っ越し費用」を補助してくれるケースもあります。(最近はだいぶ厳しくなってきていますが…。)
競売にせよ任意売却にせよ、物件を売却したお金を充てても債務全額すら返済しきれない可能性が高いのですから、通常は債務者の手元にお金は戻ってこないはずであり、そう考えたら引っ越すことすら困難となるはずです。
そのような状況の中で、多少なりとも引っ越し費用を出してもらえれば債務者としては非常に助かることは間違いなく、こういった点からも、滞納してしまったら競売にかけられる前にできるだけ早期に任意売却を試みることが望ましい対応なのです。
差押えの解除の要件
金融機関が差押えを取り下げたり、抵当権を抹消する場合、原則的な条件としては、
「残債務や遅延損害金等を全額弁済すること」
となります。
経済的に健全な状態にある人が不動産売却に伴ってこれらを消してもらおうとした場合、売却金額が安くて抵当権者に返済しきれなかった金額は「債務者の手持ち資金」から出資し、全額を返済した上で抵当権を消すというのが通常の流れです。
しかし、現実的に、数カ月滞納を続けている債務者の場合、売却代金で返済しきれない金額を手持ち資金で補填するというのは非現実的な話です。
物件を売却したとしても満額の返済は難しいことがほとんどですので、実際に差押えを解除してもらえるとしたら「交渉」により、満額よりも下げた金額で差押えの取り下げに同意してもらうしかないことになります。
ただ、これは債務自体の減額ではなく「差押えを消す」ために支払う金額の話なので、不動産は債務者の物ではなくなりますが、金融機関は残りの金額を債務者に請求することはできます(要するに担保に取れる対象物がなくなるだけ、ということです)。
なお、これらは「任意売却」の場合であり、「競売・公売」においては当事者間の交渉の余地はなく手続きの中で配当額が決まり、強制的に抹消されることになります。
A:いずれの場合も物件を売却してそれを返済に充てても足りなければ(・・というか、ほとんどの場合は足りないのですが)それは「無担保の債務」として残ることになります。
実務的にはこのようなケースではサービサーに債権が譲渡されていることが多く、ただ、サービサーが元の債権者から債権を買う時には元の債権額の1割にも満たない金額で買い取ることが通常ですので、サービサー側としては債務者に対し相当「値引き」しても利益は出ることになります。
つまり、債務者に対して競売後に残った債務からかなり減額することもあります(ここは交渉次第でしょうが)。
ただ、それすら支払えない状況であれば不動産を手放したにもかかわらず、なおかつ破産まで追い込まれることもあります。
そこまでひどい状況であれば元々破産は申し立てられており、破産手続きの中で破産管財人が任意売却することも多いと思われますが・・。
なお、公売については役所関係がするものですので「税金」などが対象ですから、たとえ破産しても免れられません。 破産するのであれば民間の債権者の債務を免れたいという目的の場合に限られるでしょう。
差押えの解除の手続
売買を伴う差押えの抹消手続きは次の流れとなります。
- 「債務者が不動産業者のサポートに基づいて金融機関と交渉し、いくら払えば差押えを取り下げてくれるのか?などを決め、合意する」
- 「金融機関に、売買の代金決済日に間に合うよう取り下げ書類を作成してもらう」
- 「司法書士は差押え取り下げ書類の存在と他の売買必要書類を確認した上で、売買代金決済当日、決済の許可を出す」
- 「金融機関の担当者は代金決済後、入金を確認して裁判所に取り下げ書を提出する」
- 「裁判所は書類を確認した上で法務局に差押えの抹消登記を嘱託する(司法書士が申請するのではない)」
なお、上記のとおり、司法書士は差押え以外の「抵当権や根抵当権などの登記」と「売買の所有権移転登記」をしますが、差押えについては直接申請代理人にはなりません。
ただ、公の機関が絡む登記については「嘱託」となります。公的機関から直接法務局に「この内容の登記をしてください」と依頼して(これが嘱託)法務局が処理します。
どちらにせよ、法務局が登記の内容を書類に基づき確認して登記簿に反映させることには間違いないのですが、「誰が頼んでいるか」の違いとなります。
よって、このような流れで登記が進んでいきます。
- 司法書士が申請した「従来の抵当権の抹消、買主への所有権移転」が先に完了
- その後法務局によって差押えの登記が抹消される
公的機関による差押え
公的機関によって不動産に差押えが入るのは、
- 国による国税滞納処分(相続税や贈与税、所得税など)
- 市町村による地方税滞納処分(固定資産税など)
などが主なものとなります。
どのようなタイミングで差押えが入るかは税の種類やその自治体の方針によっても異なり、「絶対に〇カ月滞納したら差し押さえられる。」と断言できるわけではありません。
実際に固定資産税などは結構差し押さえられるタイミングが遅いケースも見受けられます。
ただ、いったん差し押さえられるとそれを外すのは大変ですので、滞納しそうなことがわかったらその前に対処することを心がけておかなくてはなりません。
返済期間の延長や一時据え置きのような措置になると思われます。
ただ、リスケができるのは一時的な減収などであり、滞納が続くのがいつまでかはっきりしないのであればリスケしても焼け石に水ですので、直接債務整理を検討する方が根本的解決になると考えます。
差押えの解除の要件
国税徴収法による差押え解除事由
国税や地方税では、差押えやその解除において「国税徴収法」の定めに従うことになります。
国税徴収法では、本来の目的の達成である「滞納の解消」以外の事由も含めた「解除すべき、もしくは解除することができる」事由についてこのように定めています。
差押えを解除「しなければならない」場合
- 国税が納付などされたことにより滞納が解消された場合
これは差押えをした本来の目的が果たされたわけですから、当然の解除事由になります。 - 無益な差押えがされている場合
差押えの対象となる財産がたとえ金銭的価値を持つとしても、その財産に対し、滞納された税金よりも優先する抵当権がついている場合などは結局差押えても意味がないため、解除しなければならないことになります。
差押えを全部または一部解除「できる」場合
- 超過差押えとなっている場合
負っている債務に対し、過大な差押えをすることです。
たとえば、500万円の債務がある場合を考えてみましょう。
1000万円の財産1つ(不可分のもの)を差し押さえた場合は「超過差押え」とはいいません。
500万円を超える財産を1つ差押えれば目的が達成できるのに、その他の財産も差し押さえたような場合に初めて超過差押えになるのです。 - 適当な財産を提供した場合
換価可能(すぐお金に換えられる)な財物を交付し、それが滞納している国税の全額納付に充てられるような場合のことです。 - 公売(役所側で強制的に売却すること)しても売れない場合
三回公売に付しても入札がない場合で、その不動産の形状など価値を考えてその後の公売等でも売れる見込みがない場合のことです。
解除事由がある場合は、徴収職員(税務署や県税事務所の職員など)は滞納者にそれを通知して差押えを解除することになります。
もし、滞納者が明らかにこれらの事由があるとの確信があるにもかかわらず徴収職員が対応してくれないのであれば、次の方法として「国税不服審判所(国税庁の特別機関であるが税務署等から独立した組織)」への審査請求があります。
滞納の解消により解除する場合はやはり交渉となる
実際に対応しなければならないことが多いと思われるのは、
「差押え自体は超過差押え等にあたらず適法、適切なので滞納を解消するしか差押えを解除する方法はないが、滞納した分を全額一度に支払えない。」
という状況でしょう。
では、この状況下でどのように解除させるか?について考えてみましょう。
差押えの解除には「税滞納を全額解消すること」が建前ですが、全額の支払いが終わらないと絶対に差押えは解除されないのか?というと必ずしもそうではなく、実務の現場では意外と柔軟に対応してもらえることがあります。
つまり、そこは「債務者の交渉力」にかかってくるわけです。
たとえば、市の税務課担当者と話し合いの上、滞納した固定資産税について払える分だけ極力支払った上で残りを2年の分割払いにすると書面で確約し、その代わりに差押えを外してもらったというケースもあります。
差押えの解除の手続
基本的に交渉で条件を決めた上で差押えを解除してもらう承認を取り付け、決済日までに書類を作成してもらうというのは金融機関と同じです。
ただ、役所の場合は役所の担当者が売買の代金決済当日、(裁判所ではなく)法務局に差押え取り下げの書類を出しに行くという部分だけが民間金融機関と異なる流れとなります。
このように差押え登記の抹消は司法書士が申請するわけではないので、司法書士が申請する抵当権抹消、買主への所有権移転よりも差押えの抹消が遅くなる、というのも金融機関の場合と同様です。
不動産会社に相談
上にも説明しましたが、結局、差押えを消してもらえるかどうかは、
「間に入る不動産会社がいかにノウハウを持っていて本人と金融機関の交渉をサポートできるか?」
がカギになります。
交渉の方法を知っている不動産会社であれば、差押えを解除する金額について金融機関の妥協を引き出した上に、引っ越し費用の捻出に協力してもらうためのアドバイスをしてくれます(ただし役所など公的機関はこれは不可能です)。
不動産売買や債務整理に対する知識がまったくない素人の場合、誰のアドバイスも貰わずにこのような交渉をして売却を成功させることはほぼ不可能に近いといえます。
よって、「どこの不動産会社に相談するか」は差押えのスムーズな解除=任意売却の成功を左右する重要なポイントであり、慎重に選択する必要があるのです。
まとめ
・金融機関、公的機関ともに、滞納全額の解消が差押えを解除してもらう基本的条件だが、分割弁済などの交渉に応じてもらえれば完済する前でも差押えを取り下げてもらえることがある。
・金融機関の場合、手間とお金のかかる競売はなるべく避けたいので、債務者に滞納の可能性が出てきた時点でより高く売れる可能性がある「任意売却」をすすめることも多い。
・滞納を全額解消しない状態で差押えを取り下げてもらい、任意売却を成功させるには不動産会社が金融機関や公的機関に交渉することが必要になるため、そのコツを経験に基づきアドバイスしてもらえる業者を選択することが大切である。