隣地所有者への越境物の撤去請求は可能
結論から言えば、越境物がある場合、隣地所有者に対して撤去を請求することは民法第198条に基づき可能です。
これは「所有権に基づく妨害排除請求権」によって認められている権利です。
占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
たとえば、隣地の樹木の枝が自分の敷地に越境していたり、ブロック塀やフェンスが境界線を越えているといったケースでは、撤去を正式に要求できます。
越境トラブルは不動産売買や相続、あるいは建物の新築時に発覚することが多く、放置しておくと土地の売却時に瑕疵(かし)として扱われる可能性もあります。
また、時効取得により将来、越境部分を相手に取得されてしまうリスクもあります。
こうした事態を防ぐには、早めの対応が重要です。
越境物撤去請求5つの流れ
越境物を撤去するには、5つのステップで進めるのが一般的です。
専門家への相談
越境物の撤去を進める際は、まず弁護士や土地家屋調査士などの専門家へ相談するのが第一歩です。
なぜなら、境界線の位置や越境の有無について、当事者間だけで判断するのは非常に困難であり、誤った対応はさらなるトラブルを招く可能性があるからです。
参照元:RETIO(不動産適正取引推進機構)⑸−擁壁越境の瑕疵担保責任−
たとえば、不動産会社が売買時に境界について十分な説明をしていなかったケースでは、後に越境が判明し、売主・買主双方が契約不適合責任を巡って争う事例もあります。
売主が買主に引き渡した目的物が、種類、品質、数量に関して契約内容に適合しない場合に、売主が負う責任
こうした事態を防ぐには、初動での専門的なアドバイスが非常に有効です。
適切な専門家に依頼することで、問題の全体像を把握し、正確な判断と対応が可能になります。
必要な資料の準備
越境物の撤去を請求するには、まずその根拠となる資料の準備が必要不可欠です。
土地の登記簿謄本、公図、境界確認書、測量図、建物図面などが代表的な資料となります。
これらの資料により、越境の事実や範囲を客観的に証明できます。
また、過去に覚書や合意書を交わしていた場合は、その内容も確認しましょう。
売買契約書や譲渡時の書類にも、越境に関する条件が記載されていることがあります。
情報を整理しておくことで、隣地所有者との交渉や裁判所での判断にも有利に働きます。
現地の写真や、越境している部分の詳細(例えばブロック塀が何センチ越えているかなど)を記録しておくことも重要です。
確かな資料をもとに対応することが、トラブルの早期解決に繋がります。
隣地所有者との交渉
資料を揃えたら、いきなり訴訟を起こすのではなく、まずは隣地所有者との話し合いを試みるべきです。互いの主張や状況を確認し、合意による解決を目指すことが理想です。
誠意ある対応を心がけることで、感情的な対立を避けられます。
とくに、樹木やフェンスなど、越境の程度が軽微な場合は話し合いでの解決が現実的です。
場合によっては撤去の費用負担についても双方で協議し、折り合いをつけることもできるでしょう。
ただし、話し合いの内容は必ず書面にしておくことが肝心です。
後にトラブルが再燃した際に証拠として活用できます。
冷静な交渉と記録の作成によって、将来のリスクを減らす行動を取りましょう。
裁判所への申立(訴訟・調停)
話し合いが決裂した場合は、裁判所への申立を検討しましょう。
調停を申し立てて第三者を交えた合意形成を図るか、訴訟によって法的に撤去を求めることになります。
裁判所では、提出された資料と双方の主張に基づき、境界や所有権の有無、越境の範囲などが判断されます。
訴訟に進む場合、弁護士への依頼が必要となるため、費用や時間もある程度かかりますが、法的に確定した形で問題を解消できるというメリットがあります。
また、調停であれば比較的柔軟な解決策も期待できるでしょう。
裁判所による判断は、越境の事実が明確であるほど有利に進むため、前段階での資料準備や専門家のサポートが重要です。
適切な手続きを選び、法的な方法で問題解決を図りましょう。
判決・和解
裁判の結果としては、判決によって撤去が命じられる場合と、当事者間の和解によって合意が成立する場合があります。
判決は法的拘束力を持ち、強制的に越境物の撤去を実行できる手段となります。
いっぽう、和解は柔軟な条件設定が可能で、関係悪化を最小限に抑えられるのが利点です。
たとえば、擁壁や地中構造物など撤去が困難なものについては、一部撤去や使用承認といった方法で合意に至るケースもあります。
和解内容は将来にわたるトラブルを防ぐため、文書で明確にしておくことが必要です。
判決または和解により問題が法的に確定すれば、売買や譲渡の際にも安心して物件を取り扱えるようになります。
いずれの結果となっても、自身の所有権を守る行動として適切に履行し、トラブルを終結させましょう。
越境物の撤去請求を行う前に確認しておきたい5つのポイント
越境物の撤去請求を行う前に、いくつかの重要な確認事項があります。
これらを事前に把握しておくことで、トラブルの拡大を防ぎ、スムーズな解決につながります。
現地の状態
最初に確認すべきは、越境している物の「現地の状態」です。
たとえば、フェンスやブロック塀、樹木の枝などが敷地を越えている場合、それがどの程度、どの位置に、どのような形で越境しているのかを正確に把握する必要があります。
現地の確認は、所有物か他人の物か、あるいは建築時に設置されたものかどうかといった判断材料にもなります。
また、越境部分が一部か全体か、建物の基礎や擁壁といった撤去が困難なケースかどうかも重要な要素です。
場合によっては、隣地との境界線の認識違いが原因となっていることもあります。
こうした現状を写真やメモで記録しておくと、後の説明や証拠資料として有効です。
越境物の撤去請求をする前に、まずは事実関係の把握と記録を徹底しましょう。
なお、敷地の境界の確認方法やトラブル事例を詳しく知りたい方は、せひ以下の記事をご覧ください。

登記簿謄本や測量データ
越境の有無を法的に判断するには、登記簿謄本や測量データの確認が欠かせません。
とくに、公図や確定測量図があれば、境界線の正確な位置が把握でき、越境の事実が明確になります。
不動産会社や土地家屋調査士に依頼して、正式な測量を実施するのも有効です。
また、過去に売買や譲渡が行われている場合は、売買契約書や覚書などの書類に越境に関する記載がないかも確認しておきましょう。
こうした情報から、越境の原因や、誰の責任で設置されたものかを把握できます。
法的な越境物の撤去請求には証拠が必要です。
撤去請求を正当化するためにも、客観的な資料に基づいた対応が求められます。
必ず信頼性の高い書類を整備してから行動に移しましょう。
越境している原因
越境物が存在する場合、原因を把握することは非常に重要です。
なぜなら、原因によっては所有者の責任範囲や撤去の義務、取得時効が成立している可能性まで判断が変わるからです。
たとえば、以前の建築工事の際に誤ってフェンスを設置した、あるいは売主が認識しないまま越境した状態で不動産を売却していたなど、背景には様々なケースがあります。
さらに、相続や土地の譲渡を経て、現所有者が越境の事実を知らないということも考えられます。
越境している背景が判明すれば、撤去請求の際に相手側の主張や理解を得やすくなり、合意形成も進みやすくなるでしょう。
過去のトラブルや対応の有無
過去に同様の越境トラブルが発生していたか、またはその際にどのような対応が取られていたかも重要な確認事項です。
覚書や承認書など、当事者間で何らかの合意や取り決めが行われていた場合は、それが現在でも効力を持つか確認しましょう。
たとえば、過去に隣人との話し合いで撤去しないことを了承した覚書がある場合、新たに撤去請求をするには、その文書の法的効力を再検討する必要があります。
また、以前のトラブルが原因で感情的な対立が残っていることもあり、慎重な対応が求められるケースもあります。
覚書や承認書などの履歴の有無は、交渉の進め方や弁護士の関与が必要かどうかの判断材料です。
過去のやり取りを振り返ることで、現在の対応方法をより適切に選ぶことができます。
専門家の意見
最後に、必ず確認したいのが専門家の意見です。
弁護士や土地家屋調査士、不動産会社など、越境に精通した専門家のアドバイスを受けることで、自分では見落としていた法的リスクや解決手段が明らかになることがあります。
越境の事実が争点となる訴訟や調停に進む可能性がある場合には、早い段階で専門家に依頼し、対応方針を固めておきましょう。
また、専門家の作成した測量図や意見書は、裁判所での有効な判断材料になります。
正確な判断と安心できる対応のために、専門家の力を借りて進めていくことが賢明です。
越境物の撤去請求が認められない3つのケース
越境物が存在していても、必ずしも撤去請求が認められるとは限りません。
民法上の原則として所有権に基づく妨害排除請求権は認められていますが、特定の条件下ではそれが制限されることもあります。
なお、撤去請求が認められないケースに該当している場合は、専門の不動産買取業者への売却も選択肢です。
専門の不動産買取業者なら、豊富な知識とノウハウで越境問題に対応できるため、越境物のある物件でも適正価格で買い取ってもらえるケースも多くあります。
越境物のある物件を売却すれば、まとまった現金が手に入るので、問題のない物件に住み替えることも可能です。
弊社、株式会社Albalink(アルバリンク)も、越境物など問題を抱えている物件専門の不動産買取業者です。
全国どこにある越境物でお悩みの物件でも出張無料査定、即日現金化も可能です。
「越境物の撤去請求ができない!」「1日も早く越境物の悩みから解放されたい」とお悩みなら、ぜひ弊社までご相談ください。
取得時効の成立
越境物が一定期間以上継続して存在していた場合、「取得時効」によって撤去請求が認められない可能性があります。
民法では、他人の土地に設置された構造物であっても、一定の条件下で所有権を取得できるとされています。
第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
越境している物件が平穏かつ公然に20年間(または善意無過失なら10年間)占有されていた場合、取得時効が成立する可能性があります。
つまり、越境された側の所有者が撤去を要求しても、相手側から「すでに取得している」と主張され、請求が退けられてしまうのです。
測量結果や過去の建築記録、売買契約書などをもとに時効の成否を判断する必要があり、曖昧な状態で撤去を求めると逆に法的に不利な立場になるリスクもあります。
時効取得の可能性がある場合は、まず弁護士などの専門家に相談しましょう。
権利の濫用(軽微な越境)
越境の程度がごくわずかで、撤去によってかえって社会的損失や不合理が生じるような場合、「権利の濫用」として撤去請求が認められないことがあります。
これは民法の信義則に基づき、権利行使に一定の制限を設ける考え方です。
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
たとえば、フェンスの一部が数センチ越境しているだけで、建物や土地の使用に実質的な妨害がないようなケースでは、裁判所が撤去を命じない可能性があります。
逆に、撤去に高額な費用が発生したり、隣接する住宅の構造に重大な影響が出る場合も同様です。
このような状況では、撤去ではなく使用の承諾や一時使用契約といった代替手段での解決が現実的です。安易な撤去請求はトラブルを長期化させかねないため、実態に即した柔軟な対応が求められます。
公序良俗違反
撤去請求が「公序良俗」に反すると判断される場合、法的に認められないことがあります。
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
引用元:e-Gov法令検索 民法第90条
公序良俗は、社会秩序や倫理に反する行為を法律が是認しないという原則です。
たとえば、長年にわたり黙認していた越境について、関係が悪化した途端に突然撤去を要求するような行動は、公平性を欠くとして否定されることがあります。
また、嫌がらせ目的での訴訟提起や、不当に高額な撤去費用を求める行為も公序良俗に反すると判断されることがあります。
このようなトラブルは裁判でも感情面が強く影響するため、過去のやり取りや周辺住民の証言なども重要な判断材料になります。
感情に任せた行動ではなく、客観的な事実と法的根拠に基づいた対応を心がけましょう。
越境物の撤去請求を拒否されたら売却を視野に入れる
撤去請求が認められない、あるいは隣地所有者との話し合いが難航して解決の見込みが立たない場合、物件の売却を検討するのも現実的な選択肢です。
ただし、越境の事実を明示し、法的なトラブル回避策を講じた上で売却を進める必要があります。
ここでは、2つの売却方法をご紹介します。
覚書を作成して売却する
越境トラブルが解消できない場合でも、隣地所有者と「覚書」を作成しておくことで、安全に売却を進めることができます。
覚書は、越境物の存在について当事者双方が認識・合意していることを示す文書であり、将来のトラブル回避に有効です。
覚書に記載すべき主な内容は以下の通りです。
- 越境している物の種類と位置(例:ブロック塀、フェンス、樹木等)
- 越境の面積またはセンチ数
- 当事者双方が越境を承認していること
- 将来的に撤去義務を負わないこと、または撤去時の費用負担者
- 売買や譲渡時にこの事実を買主へ説明することの確認
越境物の存在について明文化し、署名・押印のうえ保管しておくことで、売却後に買主から契約不適合責任を追及されるリスクを大幅に軽減できます。
専門の不動産買取業者に売却する
越境物の撤去請求が困難な状況下では、専門の不動産買取業者への売却が、スムーズな不動産売却へと導く有効な一手となります。
越境の複雑な状況を専門的に評価し、現状のまま迅速に買い取ってくれるため、売主は時間と労力を大幅に節約できます。
早期の現金化により、資金計画を立てやすくなるメリットも見逃せません。
また、一般的な買主が越境問題を気にするのに対し、専門の不動産買取業者は独自の知識や経験によって処理できるため、売却後に売主が契約不適合責任を問われる恐れはありません。
越境物という課題を抱える不動産でも、専門の買取業者を活用することで、円満な解決と新たな展開が望めるのです。
弊社「株式会社Alba Link(アルバリンク)」は、日本全国の幅広い訳あり物件を積極的に買い取っている買取業者です。
築古物件や立地が良くない物件に関しても、活用ノウハウを豊富に持ち合わせているため、適正な金額をつけて買い取れます。
実際に、廃墟化した空き家の買取も過去におこなっており、フジテレビの「イット」をはじめ、多くのメディアに特集されています。
空き家でお悩みの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
弊社スタッフが、あなたのお悩みを解決できるよう、全力でサポートさせていただきます。
\(無料)空き家の相談・査定依頼/
電話相談も受付中!10時~19時【無料】0120-672-343
まとめ
隣地への越境物は、所有権に基づき撤去請求が原則可能です。
交渉から始め、不調なら法的手段も視野に入れましょう。
ただし、取得時効や権利濫用などの例外も存在するため、現地の状況や登記簿などを確認し、専門家への相談が不可欠です。
もし、撤去請求が難しいと感じたら、専門の不動産買取業者への売却は賢明な選択肢です。
専門の不動産買取業者に依頼すれば、現状のまま迅速な現金化が期待でき、煩雑な手続きや将来的な契約不適合責任のリスクを軽減できます。
越境という特殊な事情を理解し、適正な価格で買い取ってくれる可能性も高いです。
弊社、株式会社Albalink(アルバリンク)は、越境物などの問題を抱えている問題物件専門の不動産買取業者です。
弁護士や土地調査士などの専門家と提携しており、法的問題にも適切に対応できるため、越境物があるため買い手のつかない物件でも積極的にお買取りいたします。
「越境物のせいで売却できない」「越境物を撤去してもらえない」とお悩みの方は、ぜひ弊社にご相談ください。