共有物分割請求とは
共有物分割請求とはどのような場合に行われるのでしょうか?
共有不動産等の共有状態について解消を求めること
共有名義になっている不動産というのは、さまざまな制約を受けています。
そもそも共有状態というのは物理的に不動産を分ける形で権利を保有しているわけではなく、各共有者がそれぞれの持分に応じて不動産全体に対して権利を持っています。
その代わりに、各共有者は処分や管理について下記のような制約を受けており、自分勝手にすべての行為を行うことはできないのです。
行為の種類 | 合意が必要な共有者の数 |
---|---|
変更(処分)行為 | 共有者全員の合意が必要 |
管理行為 | 共有者の持分価格の過半数でできる |
保存行為 | 各共有者が単独でできる |
共有している不動産はどのような制約を受けるのか?について詳しくはこちらの記事を参照してください。
※不動産の共有に関する民法条文のまとめ【保存行為、変更行為、管理行為とは?】

共有物分割協議が決裂時に起こる
共有関係にあると、自分が持分権を持つ不動産であるにも関わらず思い通りにならないことが多々あります。
また、他の共有者が占有しているのに賃料を支払ってくれないなどのトラブルも多々あるため、そのような場合にある共有者が他の共有者に対して「共有者分割請求」によって共有関係を解消したいと申し入れることがあります。
もちろん、話し合いで方法が決まれば良いのですが、合意ができないこともしばしばあります。
そのような場合に最終的に行きつく方法が「共有者分割請求の訴訟」ということになります。
実際、共有関係を解消する手段としてどのようなものがあるのか、そして、訴訟になった場合はどのような流れになっていくのかなどを確認してみましょう。
共有物分割の方法
共有物分割、つまり共有関係を解消しようとする場合、3種類の方法があります。
現物分割
共有不動産を共有持分割合に応じて物理的に分ける方法です。
通常、建物については行うことができず、土地についてのみ行います(分筆)。
なお、AとBが2分の1ずつ共有していた不動産をいきなり分筆によりAとBそれぞれの単有にはできないため、いったん共有不動産が2つできることになります。
その後お互いに持分を交換する形でそれぞれの単有にします。
代金分割(換価分割)
代金分割(換価分割)とは、共有の不動産を第三者に売却してその代金を共有者の持分に応じて分配する方法です。
価格賠償(代償分割)
価格賠償(代償分割)とは、不動産を誰か1名の共有者の単独名義にした上で、取得者が他の共有者にその代金(代償金)を支払う方法です。
共有物分割請求訴訟が起こるまでの流れ
もし、上記いずれの分割方法を取るかについて、当事者同士の協議が整わなければ(合意できなければ)、裁判所に訴訟を申し立てることができます。
「協議が整わないとき」という前提がないと訴訟の提起はできません。
ただ、「協議が整わないとき」というのは必ずしも当事者が集まって話し合いをしてからでなければならないという意味ではなく、当事者に連絡を試みても連絡がつかない、話し合いに応じてもらえないなどの場合も含まれます。
なお、離婚のような案件と違って「前提として調停を申立てなければならない」というわけではありません。
手順については以下にもまとめています。

不動産に限らず一般的な訴訟の大まかな流れとしては下図のとおりです。
①地方裁判所に訴訟を申し出る
訴えの内容に応じてそれを提出する裁判所が決まっており、該当の裁判所(管轄裁判所)に訴訟を提起します。
不動産に関する訴えの場合は地方裁判所に「訴状」を提出して行います。
②裁判所から呼出状が送付される
訴えが適切に提起された場合は「被告(訴えられた側)」となる人に対して「訴状」と期日(実際に裁判所で弁論などを行う日)が書かれた「呼出状」が送られます。
これはハガキや普通郵便ではなく、特殊な郵便物である「特別送達」という形で行われますので、配達時に手渡しされて押印やサインを求められます。
③口頭弁論・答弁書を提出
被告側は訴状の内容を確認し、それに反論などを行うために「答弁書」を提出します。
これらに基づいて実際の期日に両当事者が口頭弁論を行います。
なお、共有物分割請求の場合、共有者が多数おり対立していない当事者であっても全員を巻き込んで原告または被告としなければなりません。
これを「固有必要的共同訴訟」といいますが、他の裁判とは異なる特徴となっています。
④裁判所から判決が出る
口頭弁論を経て(和解が成立しなければ)裁判所から判決が出されますが、これも共有物分割請求には他の訴訟と異なる特徴があります。
それは、「裁判所が当事者の主張に拘束されず、当事者が主張していない分割類型を選択することができる」という点です。
共有物分割請求の訴訟にかかる期間
訴訟にかかる期間がどのくらいなのかというのはケースバイケースになりますので一概には言えません。
ただ、標準的、平均的な期間の目安はありますのでそちらを確認してみましょう。
訴えの提起~判決まで半年程度
訴えが提起されて当事者に訴状が送られ、初回期日が開かれるまで約1ヶ月程度、それ以降大体、期日というのは1ヶ月に一度のペースで入れられます。
スムーズに行けば1回の期日で終わることもありますが、案件によっては2、3回かかることもあります。
審理が終わってから判決言い渡しまでは案件にもよりますが2、3カ月程度になるため、訴状提出から判決が出るまで半年弱くらいが標準的期間です。
競売になった場合の期間を含め8カ月~1年程度
もし、最終的に競売を命じられた場合、裁判所手続きの過程で半年強ほどの期間を要します。
よって、裁判自体の期間を含めたら全体として8カ月~1年弱となることが多いでしょう。
裁判は1回では終わらないこともある
裁判が何回かかるかというのはその案件の性質にもよります。
論点が複雑であるなど、当事者が主張や反論をすべきことが多い場合は1回では終わらずに2回、3回と期日を重ねなくてはならないこともあります。
ただ、上記のように「裁判所から当事者の希望しない分割類型を言い渡される」こともあるため、それを避けるためになるべく早く和解できそうな方向性の提案を当事者がしてくるなど、1回で終わるパターンもあります。
共有物分割訴訟の控訴の可否
では、もし裁判所から出された判決に対して不服がある場合はどうすればよいのでしょうか?
控訴ができる
判決受領後2週間以内であれば「控訴」を上級裁判所に対して行うことができます。
控訴の条件
上記のように、共有物分割請求訴訟については他の裁判の類型とは異なり「固有必要的共同訴訟」となりますので、共有者全員を巻き込んで訴訟を行う必要があります。
つまり、控訴する人は他の全員を被控訴人とする、もしくは控訴人とする必要があるということです。
一審より不都合な判決が出る可能性
一般的に日本の民事訴訟では、「控訴審においては原審よりも控訴人の不利益となるような変更をする判決を出すことはできない」というルールがあります(不利益変更禁止の原則)。
しかし共有物分割請求訴訟はここにも特徴があり、「不利益変更禁止が適用されない、つまり原審よりも控訴人に不利益となる変更がされる場合がある」ということに注意が必要です。
つまり控訴審にかけること自体がリスクとなりうるため、むやみやたらと控訴すべきではないのです。
共有物分割請求訴訟の裁判費用
もし訴訟まで発展するとなれば「裁判費用」のことも考えておかなくてはなりません。
収入印紙代
民事訴訟を提起するには、提出する訴状に「収入印紙」を貼る必要があります。
いくらの印紙が必要かは、「訴額」によってスライド式に決まってきます。
(訴額〇〇円までなら訴訟提起の場合は印紙〇〇円、など)
※裁判所ウェブサイトより「手数料額早見表」
「訴額」とは、訴えの対象になるものを金銭的に見積もったものです。
共有物分割請求の場合の訴額は、
「分割前の目的物に対して原告が有する共有持分の価額の3分の1の額」とされており、具体的な金額は固定資産税評価額を基準にしています。(時期により減免措置がある場合もあるため、最新情報の確認が必要です)。
なお、裁判所に納める費用プラス弁護士に依頼する場合には報酬がかかってきます。
現在は弁護士報酬が自由化されているため、各事務所によって金額はまちまちですが、ある事務所の一例を挙げると、着手金30万円、成功報酬として経済的利益の5%(3000万円の経済的利益があったなら報酬は150万円)などです。
経済的利益の算出をどのようにするのかなども確認する必要があるため、弁護士に依頼する前に費用の話はお互いにしっかりと文書で確認しておくことをおすすめします。
共有物分割請求以外の方法
他の共有者と話し合いや訴訟で分割を試みること以外にも共有関係から抜ける方法はありますので確認してみましょう。
専門の買取業者に買取を依頼
他の共有者と交渉などをせずに持分を処分するには
「問題のある物件を積極的に取り扱う不動産業者に持分のみ売却する」という方法もあります。
共有不動産は、その全部を売却しようとすれば共有者全員が同意して行う必要がありますが、「自己の持分のみ」の売買はそれぞれの共有者が単独でできます。
そもそも持分だけなど買い取ってもらえることがあるのだろうか?という疑問を持つ人もいるでしょうが、そのような業者は持分を取得した後で独自のノウハウに基づいて他の共有者と交渉して最終的に不動産全体を取得します。
業者側も交渉や売却等に手間、時間、費用がかかりますので、持分買取りの際の価格は単純に不動産全体の価格÷持分とはならず、それよりかなり安くなってしまうこともあります。
しかし、裁判になり手間と弁護士費用をかけたり、他の共有者との争いで精神的な消耗をするより、すみやかに共有関係から抜けてしまう方がトータルで見たら得というケースもありますので、選択肢の1つとして検討してみるとよいのではないでしょうか。
まとめ
・共有不動産を分割する方法としては「現物分割」「代金分割(換価分割)」「価格賠償(代償分割)」がある。
・共有物につき当事者で話し合っても分割方法が決められない場合、裁判を起こすこともでき、それに不服がある当事者は「控訴」することもできるが、その場合、他の種類の訴訟とは異なり「原審判決を控訴人の不利益に変更されてしまう」リスクがあるので注意が必要である。
・共有物分割の話し合いや裁判をする他に、「共有持分でも買い取ってくれる不動産業者に売却する」方法があるが、話し合いの労力や裁判費用などを考えた場合にこちらの方が楽なこともある。