共有名義不動産売却時の税金
これは共有不動産でも単有不動産でも同じことですが、もし不動産を売却して利益が発生していたらその「売却益(譲渡所得)」、要するに「儲かった分」に税金がかかってきます。
譲渡所得を計算する際には、ただ単に売却した金額がそのまま利益になるというわけではなく、そこから差し引く金額が決まっています。
どのような計算式になるのかを確認してみましょう。
売却益の計算方法
不動産を売却した場合、譲渡所得とされる利益の計算は次の式にあてはめて行います。
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①譲渡価額-②取得費(購入価額-減価償却費)-③譲渡費用-④特別控除
=課税される譲渡所得金額
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①譲渡価額
文字通り「売却した金額」のことです。
これは、売買契約書を見れば正確な金額を確認できます。
②取得費
売主がもともとその不動産を「購入する際」にかかった金額のことです。
購入した際の費用は、代金そのものだけではなく、次のようなものも含まれます。
・不動産業者への仲介手数料
・売買契約書の印紙代
・司法書士への登記報酬および登録免許税
・不動産取得税
これらを足して算出された購入価額から「減価償却費」を差し引きます。
減価償却というのは、資産を購入した際にかかった金額のすべてを一度に必要経費として計上せずに、それを数年(法定耐用年数=使用できる期間)に分けて計上していく方法です。
建物であれば「新築から年数が経てば経つほどその価値は落ちていく」のが普通です。
木造の非事業用建物(マイホーム)の場合は、耐用年数が33年、償却率が0.031と定められています。
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減価償却費は次の計算式で求められます。
建物購入代金×0.9×償却率×経過年数
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もし木造のマイホームを5,000万円で購入し、5年所有していたとすると
5,000万円×0.9×0.031×5=6,975,000円
が減価償却費となります。
ただ、実際に購入したのがずいぶん前なので、書類を紛失してしまったなどのケースも結構あります。
購入価額がわからない時はどうしたらよいのでしょうか?
そのような場合には「概算取得費」といって、「この金額で購入したとみなしましょう」と定められた金額があります。
概算取得費は譲渡価額の5%とされ、購入価額がわからない場合や譲渡価額の5%よりも購入価額が低い場合にもこれを使用することができます。
ただし、概算取得費は実際の購入価額より低くなってしまう(=当事者の不利になってしまう)ことが多いため、極力、実際の購入価額がわかる資料を探すように努めましょう。
③譲渡費用
購入した時と同様に、譲渡する際にも不動産業者への仲介手数料や印紙代などがかかってきますので、これらが「譲渡費用」となります。
④特別控除
特別控除というのは、「一定の条件を満たす住宅を売却する際に、売却益から一定の金額を差し引くことができる」制度です。
マイホーム売却につき必ず知っておきたいのは「3,000万円特別控除」です。
上記③までを計算して得られた金額から3,000万円を差し引き、最終的に残額(=儲け)がある場合に課税するという仕組みです。
もしこれが共有の物件全体を売却し、母50%、兄弟二人で25%ずつの持分だったのであればその持分に応じて売却益も2:1:1に配分されることになります。
3,000万円特別控除の要件について確認しておきます。
・実際に住んでいた家であること
・住まなくなって3年経過した年の年末までに売却すること
・これらのどちらかに該当する家とその敷地を両方売ること
※ただし、土地のみの場合でも、「災害により家が滅失した場合」や、「家を取り壊してから1年以内に土地を売った場合」は適用できます。
共有持分の税率
では、共有のマイホームの売却について実際の計算例を見ながら確認してみましょう。
たとえば、相続で取得した共有の土地建物(母50%、兄弟二人が25%ずつ共有している)を、5,000万円で売却したとします。
取得費(上記の②)は不明、譲渡費用(上記の③)が200万円という前提で計算すると次のとおりになります。
5,000万円-(5,000万円×5%+200万円)=4,550万円(特別控除前の譲渡益)
次に各人の持分で譲渡益を配分します。
母 ⇒ 4,550万円×50%=2,275万円
兄 ⇒ 4,550万円×25%=1,137万5千円
弟 ⇒ 4,550万円×25%=1,137万5千円
なお、3,000万円特別控除は共有者各人にそれぞれ適用することができます。
つまり、この設例でいくと全員がそれぞれの売却益から3,000万円を差し引きますので、課税対象となる譲渡益は「0」ということになります。
仮に、3,000万円を差し引いても利益が出た場合、それに税率を掛けて最終的な税額を算出しますが、この「税率」が不動産を保有していた期間によって異なります。
もともと、短期でのいわゆる「不動産ころがし」を防ぐ趣旨なのですが、長期保有の方が税率設定の上で当事者に有利となります。
具体的には、譲渡した年の1月1日現在で、その不動産の保有期間が「5年以下」であれば「短期譲渡所得」として高い税率が、「5年超え」であれば低い税率が適用されます。
売却した年の1月1日時点での保有期間 | 所得税 | 住民税 |
5年以下(短期譲渡所得) | 30% | 9% |
5年超え(長期譲渡所得) | 15% | 5% |
※所得税には、基準所得税額×2.1%の復興特別所得税が付加されます。
3,000万円の特別控除の特例
上記でも触れましたが、共有物件については土地も建物も共有であれば問題なく共有者は各人が共有持分に応じて3,000万円特別控除を受けることができます。
ただ、問題になってくるのが「土地のみ、または建物のみが共有」のパターンです。
これについては下記の通りになります。
・建物がAB共有、土地がA単有 ⇒ ABともに3,000万円特別控除を受けられる
・建物がA単有、土地がAB共有 ⇒ Aは3,000万円特別控除を受けられるがBは受けられない
結局、この控除は「居住用建物に対して」適用されるので、家屋に関して持分ゼロの人は制度趣旨にあてはまらないとされるのです。
確定申告は各共有者が個別に行う
共有不動産を売却し、前章でお伝えした譲渡所得が発生した場合、確定申告をおこない譲渡所得税を支払う必要があります。
共有不動産の場合、基本的に譲渡所得は持分割合によって分配されるため、共有者によって譲渡所得額が異なります。
そのため、確定申告も各共有者それぞれが行う必要があります。
離婚で共有不動産を売却した場合の確定申告
共有不動産を売却する代表的な例の1つとして、夫婦で共有していた家を離婚時に売却するケースが挙げられます。
離婚時に共有名義の家を売却し、譲渡所得が生じた場合もそれぞれが確定申告を行い、譲渡所得税を納めることになります。
しかし、離婚の場合は一般的な共有不動産の売却とは譲渡所得の分配方法が異なります。
離婚時は財産分与(夫婦が共同生活を送る中で形成した財産を公平に分配すること)が行われ、原則として1/2ずつ財産が分配されます。
共有不動産の売却金も財産分与の対象になるため、持分割合にかかわらず、1/2ずつ分配されることになります。
たとえば、共有名義の家が3000万円で売れたとして、夫の持分が2/3、妻の持分が1/3であった場合でも、譲渡所得は1500万円ずつになります。
この譲渡所得に対して、それぞれが確定申告を行うということです。
確定申告の方法
確定申告の時期や方法、書類などについて確認してみましょう。
なお、以下の動画では確定申告の方法について、申請書の書き方などを含めて解説しているので、合わせて確認ください。
時期
2020年は2月17日(月)から3月16日(月)までの予定だったものの、新型コロナウイルスの影響を受けて4月16日(木)までに延長されました。
このような特殊事情がない年であれば通常2月中旬から1カ月間に限られますが、2021年以降にどのような取扱いになるかは不明な部分も多いため、あらかじめ国税庁のサイトなど確かな情報源から正しい情報を取得しておきましょう。
方法(窓口、郵送、ネット等)
確定申告をする際の書類はフォーマットが決まっており、いくつかの入手方法があります。
①最寄りの税務署の窓口でもらう場合は、その人の申告すべき内容に合った申告書を選んでもらえる他、「確定申告の手引き」なども渡してもらえます。
②郵送を希望する場合は返信用封筒(切手貼付)と、自分が欲しい「申告書様式」「所得税確定申告の手引き」および申告内容を簡単にメモした紙を同封して税務署に郵送します。
③インターネットを使用する場合は「国税庁」のホームページで「所得税の確定申告」にアクセスし、申告書用紙や添付書類などをダウンロードします。
なお、こちらのサイトでは確定申告に関する最新情報(期限の変更など)も調べることができます。
④e-Taxを利用すればネットのみで申告する事も出来ます。(マイナンバーカード、電子証明書が必要)
なお、税務署に開業届を出している人、昨年確定申告をしている人は税務署から1月に用紙が送られてきます。
必要書類と入手方法
不動産の売却益があった人について必要となる書類を確認してみましょう。
上記のように土地建物を譲渡した場合の所得は「分離課税」といって、他の所得とは合算せずに計算します。
そのようなケースで税務署のフォーマットを用いなくてはならないのは以下の書類です。
・確定申告書B
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/01/shinkokusho/pdf/r01/02.pdf
・確定申告書第三表(分離課税用)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/01/shinkokusho/pdf/r01/03.pdf
・譲渡所得の内訳書
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/02/pdf/a029.pdf
これらは上記に解説したとおり、税務署窓口、インターネット、郵送といった方法で入手できます。
自分で準備しなくてはならないのは以下の書類です。
・源泉徴収票
・不動産を売却した際の売買契約書(写し)
・不動産仲介業者への仲介手数料の領収書(写し)
・売却した不動産の登記簿謄本
源泉徴収票については給与所得者が勤務先に請求すると発行してもらえます。
売買契約書や仲介手数料の領収書は売買した際に受領するものですから、失くさないように保管しておかなくてはなりません。
登記簿謄本は誰でも手数料を支払って法務局で直接、あるいはオンラインで取得することができます。
損失が出れば損益通算が可能
マイホームを売却して、場合によっては損になることもあります。
そのような時は一定の要件はあるものの、他の所得と「損益通算」することができます。
損益通算とは
「ある項目の収入ではプラス(黒字)になったが、他の項目でマイナス(赤字)なのでプラスの部分からマイナスの部分を差し引いて、課税される所得を少なくする」
という計算方法のことです。
損益通算ができる項目および、どのように所得から差し引いていくかはあらかじめ細かいルールが決まっています。
不動産を譲渡して損失が出た場合に「そもそも損益通算ができる赤字なのかどうか?」や、「どのように計算していくか?」はケースバイケースとなりますので、税務署あるいは税理士に相談することをおすすめします。
自身の持分のみの売却も可能
ここまでの解説では「共有者全員が協力して物件全体を売却する」ことを想定してきましたが、実際に共有者の足並みが揃わず、売りたい人と売りたくない人に分かれてしまうこともあります。
また、それ以前に「共有者と連絡が取れない」などのケースもあります。
そのような場合に、どうしても意思を統一しなければいかなる処分もできないのではなく、
「売りたい人が、自分の持分だけを売る」ことも可能です。
不動産全体の売却となると他の共有者の協力がなければできませんが、持分だけならその部分を保有する共有者だけで売却することができます。
ただ、一般の人が「持分だけを買い受けたい」ことはほぼないと言えますので、売却先としては「特殊物件を取り扱う専門の業者」ということになります。
その場合、「物件全体の価格に持分を掛けた金額よりかなり安い売却金額」にはなってしまいますが、それでも諸事情により「どうしても早期に共有関係から抜けたい」人には解決のための有力な選択肢といえます。
物件の管理の責任、固定資産税の負担、他の共有者との関係などを総合的に考えて、いつ売ることができるかわからない状態で保有し続けることに不安を感じる人は、持分だけの売却を検討してみるとよいでしょう。
まとめ
・不動産を売却した場合は売却益について確定申告が必要になるが、売却で得た対価がそのまま所得になるのではなく、そこから取得費や譲渡費用、特別控除を差し引いたものが課税対象の所得になる。
・共有不動産の売却では共有者の各人が確定申告を行う必要があるが、申告に使うフォーマットは「窓口で受領」「インターネットでダウンロード」「郵送で請求」といった方法がある。
・共有不動産は各共有者だけの判断で全体を売却することはできないが、もし他の共有者と足並みが揃わない場合は自分の持分だけを売却することができ、その場合は特殊物件を取り扱う業者への売却となることが一般的である。
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