共有持分の放棄は単独で自由に可能だが
不動産の共有者は、自身の共有持分を単独で自由に放棄することが可能です。
ただし、共有持分放棄後の登記手続きは、他の共有者全員の協力がなくては行なえません。
ということで、ここからは共有持分の放棄において、必要となる知識を順番に解説していきます。
法律的な話が絡みますので、少々難しい部分もありますが、専門知識の無い方でもわかるよう、噛み砕いて解説しますので、お付き合いください。
前提として共有不動産全体に対する行為は制限される
まず、前提として、共有名義になっている不動産は、民法上「共有者全員の共有物」として、共有者の一人ひとりで行える行為が制限されています。
複数人で共有している財産を、共有者のうちの1人が売ったり、貸したり、増改築を加えたりすれば、他の共有者に大きな不利益が生じるおそれがあるからです。
共有不動産に対する共有者の行為制限は以下の通りです。
行為の種類 | 具体例 | 行為に必要な持分割合 |
---|---|---|
変更行為 (民法第251条) |
|
共有者全員の合意(100%) |
管理行為 (民法第252条) |
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共有持分の過半数の合意 (50%以上) |
保存行為 (民法第252条但書) |
|
各共有者が単独で可能 |
共有持分の放棄は1人の意思表示で成立する
上記の通り、共有不動産に対して共有者のうちの1人ができる行為は制限されます。
一方で、不動産の共有持分のみについては、各自の完全なる所有物として、他の共有者から制限されることなく、売却したり放棄したりすることが可能です。
共有持分を含めた権利の放棄は、法律用語で「相手方のない単独行為」と呼ばれることがあります。
法律行為の中には「契約」のように2者以上の意思の合致で行われるものもありますが、持分放棄などを含む「単独行為」は相手方の意思を必要とせず、一方的な意思表示で成立します。
要するに、持分放棄は放棄したい人の一方的な意思表示のみで、法的な効力を発揮させることが可能です。
ただし、これはあくまで、共有者間において効力が発揮するものであり、本人の意思表示のみでは、無関係の第三者に対して持分放棄の効力を証明することはできません。
次項で詳しく解説します。
他の共有者と共同で登記申請をしなければ意味をなさない
上記の通り、持分放棄は本人の一方的な意思表示のみで、法的な効力を発揮させることが可能です。
ただ、法的効力が生じていても、それのみでは第三者に対して、持分を放棄した事実を証明することはできないため、放棄後の持分割合を登記簿謄本に反映させる必要があります。
後ほど解説しますが、放棄された共有持分は、他の共有者全員へ自動的に帰属(権利が移転)するため、持分放棄後の登記手続きは共有者全員の協力がなくては行なえません。
実際に不動産登記法では、持分放棄した人(登記義務者)と放棄によって新たに持分を取得する人(登記権利者)が共同で登記申請を行わなければならないと定めています。
(共同申請)
第60条
権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。引用元:不動産登記法第60条
持分放棄をした人は登記名義を相手に移すことにより初めて共有関係から離脱したことを第三者に証明できることになります。
そのため、持分放棄された共有の相手方が登記に協力してくれなければ、共有者としての責任から逃れることができません。具体的には、固定資産税の負担や、対象の不動産によって他人に損害を与えた場合の損害賠償責任などです。
よって、持分放棄は本人の意思表示のみで効力を発揮するとしても、登記ができなければ、実質意味を成しません。
登記申請に協力して貰えなければ登記引取請求訴訟
上記したとおり、持分放棄の意思表示を行ったとしても、他の共有者全員が登記申請に協力してくれなければ、共有者としての責任からは逃れることができません。
もし、持分放棄後に、相手方の共有者が登記申請に協力してくれなかったとしても、「登記引取請求訴訟」を起こし、判決によって相手方の共有者の申請意思があったものとみなすことが可能です。
つまり、訴訟の申立を受けた裁判所に訴えが認められれば、持分放棄を行った本人の単独で、登記申請を行えるようになります。
ただし、訴訟を起こすとなれば弁護士費用(50~100万円程度)もかかりますし、通常は放棄者以外の共有者が負担する「登録免許税」や「司法書士報酬」などの諸費用を持分放棄者側が支払わなくてはならなくなります。
さらに、持分の売買のように相手方からお金を受け取ることもできないため、持分放棄では経済的には損失しか残りません。
もし、共有持分を放棄する目的が、単に「共有名義から抜け出したい」ということであれば、むしろ後述する「共有持分のみを第三者に売却する」ほうが、金銭面以外にもメリットが大きいでしょう。
共有持分のみの売却については、この記事の「共有持分の放棄より共有持分の売却が選ばれるワケ」を参照ください。
放棄された共有持分は他の共有者へ帰属する
共有者のうちの1人が共有持分を放棄した場合、その持分は他の共有者へ「持分割合に応じて」帰属します。
参照元:民法第255条
たとえば、不動産を2名で共有している場合は、片方の共有者が持分放棄をすると、もう一人の共有者に持分が全て帰属され、単独名義の不動産になります。
しかし、不動産を3者で共有している場合は、あくまでも「持分の割合に応じて」持分が帰属するため、自分が放棄した持分を「誰に」「どの割合で」帰属させるか選択することはできません。
後ほど、具体的な事例を元に解説します。
共有持分の放棄を受けた者には贈与税が課税される
持分放棄によって、持分を受け取った人には「贈与税」が課されることがあります。
持分放棄は税法上は贈与とみなされ、共有者が贈与税の課税対象者となるからです。
共有持分放棄の事例
上でも解説したとおり、放棄された共有持分は他の共有者へ「持分割合に応じて」帰属します。
ここでは、持分放棄の具体的な事例を元に、解説していきます。
共有者Aが「3/5」、BとCがそれぞれ「1/5」ずつで共有している不動産の例で、考えてみましょう。
共有者Aが共有持分を放棄した場合、BとCの持分割合は同じなので、A持分「3/5」はBとCに半分ずつ帰属します。
結果として、最終的なBとCの持分は10分の5(=1/2)ずつとなります。
共有持分放棄の流れ
前項までで、共有持分放棄の概要を解説してきました。
ここからは、実際に共有持分を放棄する際の、流れを解説していきます。
持分放棄後の登記手続きは、共有者全員で個人的に行うことも可能ですが、申請に不備や誤りがあれば、再手続きを求められたり、本来必要のない贈与税を課されたりする恐れがあります。
そのため、登記申請時を確実に行うために、専門知識のある司法書士へ登記申請を委任しましょう。
持分放棄の流れは以下のとおりです。
- 司法書士に相談
- 必要書類の準備
- 持分全部移転登記
- 登記完了・各種書類の受領
司法書士に相談
司法書士の事務所では、ほとんどが不動産登記業務を行っておりますが、やはり不動産が絡む重要な権利の移転手続きになるので、事務所選びは慎重に行うべきでしょう。
地元の司法書士会に紹介を受ける、ネット上で事務所を見つける、など様々な方法がありますが、実際に相談に行った際は次のポイントに注目して委任先を決めるようおすすめします。
- しっかり相談者の話を聞き、丁寧にわかりやすい説明をしているか
- 概算見積もりや、登記完了までの期間の見通しを提示してくれるか
最初に相談に行った事務所に必ずしも依頼する必要はありませんので、最終的に信頼におけると感じた担当に依頼すると良いでしょう。
必要書類の準備
登記手続きを依頼する司法書士が決まったら、担当者の指示に従って、登記手続きに必要な書類を用意します。
「持分放棄した者(登記義務者)」が要する書類は以下の通りです。
- 権利証(または登記識別情報)
- 印鑑証明書(3か月以内)
- 司法書士への委任状(認印を押印)
なお、「持分放棄により持分を取得した者(登記権利者)」が用意する書類は以下の通りです。
- 現在の住所が載っている住民票
- 司法書士への委任状(認印を押印)
上記の他に、司法書士が「登記原因証明情報」を作成し、登記権利者、登記義務者にそれぞれ押印を求める他、運転免許証などで本人確認・意思確認を行います。
上記の書類や本人確認・意思確認がすべて調うと、担当の司法書士が、法務局に申請するための登記申請書等を準備します。
持分全部移転登記
登録免許税(登記の際に法務局に納める税金)と報酬を受領した司法書士は、法務局に持分移転登記を申請します。
なお、報酬が先払いか後払いかは事務所によって異なる場合があります。
法務局内部の処理にかかる期間は1、2週間から1カ月以上までさまざまですが、管轄法務局や時期により異なります。
登記完了・各種書類の受領
登記手続きが完了すると司法書士が法務局から新たに発行された「登記識別情報通知」「登記完了証」などを受領し、同時に名義が移った登記事項証明書(登記簿謄本)を取得します。
司法書士が依頼者に、登記完了書類一式を手渡しもしくは郵送で返却して手続き完了となります。
登記識別情報通知は次回の不動産売却時に必要となるため、大切に保管しておきましょう。
共有持分の放棄にかかる費用
共有持分を放棄する際にかかる費用を確認していきましょう。
結論、登録免許税と、司法書士への報酬がかかります。
まず、共有持分の放棄を登記簿に反映させる持分移転登記の際に、登録免許税が発生します。
登録免許税の税額は、登記権利者が取得する共有持分の「固定資産税評価額×20/1000」です。
たとえば、評価額5,000万円の不動産の持分「1/5」を放棄する場合、持分を取得する人は、「1,000万円×20/1000=20万円」を支払う必要があります。
次に、司法書士への報酬です。
司法書士報酬は現在自由化されているため、それぞれの事務所で異なりますが、大体一筆につき3万円から7万円くらいの幅があります。
それに登記簿謄本の費用や郵送費などがかかりますので、上記の例(5,000万円の不動産の1/5を移転)ですと実費と報酬の合計で25万円~30万円くらいになるでしょう。
ただ、持分放棄で問題になるのは、登記費用を誰が負担するのか?という問題です。
実務的慣例から言えば、売買や贈与等では「登記権利者」が登記費用を負担することになります。
しかし、持分放棄は登記義務者が一方的な意思で行い、登記権利者に手続きの協力を求める形になるため、登記義務者(持分放棄者)が費用負担する場面が多いでしょう。
共有持分の放棄より共有持分の売却が選ばれるワケ
ここまで、共有持分の放棄について、手順や費用を解説してきました。
ですが、不動産の共有名義から抜け出したいという目的であれば、持分の放棄ではなく、持分のみの売却のほうが適しています。
この記事の「共有持分の放棄は単独で自由に可能だが」で解説したとおり、共有持分は各自の完全な所有物であるため、放棄と同様に持分のみで自由に売却することが可能です。
ただ、共有持分というのは、不動産の一部の権利に過ぎず、使い道がないので、一般の個人や不動産屋はまず持分のみでは買い取ってくれません。
共有持分のみでの売却であれば、共有持分専門の買取業者に相談するのが現実的です。
では、ここからは、持分の放棄よりも、持分のみでの売却のほうが選ばれるのか、その理由を解説していきます。
共有持分の売却は完全に単独で可能
上記の通り、共有持分のみの売却であれば、持分の放棄と同様に、共有者のうちの1人が自由に行なえます。
ただ、前述の通り、持分放棄では、登記簿謄本に反映させて効力を第三者に証明するために、登記権利者(持分を受け取る人)つまり、他の共有者全員との協力が必要でした。
一方で、共有持分のみでの売却であれば、登記権利者(持分を受け取る人)は買主(買取業者)であるため、他の共有者との登記協力は不要です。
よって、他の共有者との関係が悪かったり、連絡が取れなかったりするのであれば、共有持分の売却によって、共有名義から抜け出すのが得策と言えます。
当サイトを運営する「株式会社AlbaLink」も共有持分のみでの買取を行う買取業者です。
当社では、持分の買取にあたって、他の共有者とのトラブルなど、売主様の不利益になる事態を回避するよう全力を尽くしております。
買取前提のご相談でなくても、真摯に対応させて頂きますので、気兼ね無くご連絡下さい。
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共有持分の売却で現金化が可能
共有持分のみであっても売却すれば、まとまった現金を手元に残すことが可能です。
当然、不動産の共有持分のみでは、使い道も無く、購入者側にリスクが生じることもあるため、市場相場通りで売却することはできません。
ですが、そもそも持分放棄であれば、他の共有者へ対価として金銭を要求することはできません。
その上、持分放棄後の登記手続きも、他の共有者へ協力をお願いする立場であるため、登記費用を負担しなければならず、むしろ金銭面でマイナスになるケースも少なくありません。
そのため、賢く共有名義から抜け出すのであれば、共有持分のみの売却が適しているでしょう。
なお、共有持分専門の買取業者であれば、査定依頼から最短数日での決済が可能です。
当社でも、査定依頼を頂いてから、最短3日で決済により代金をお支払いすることが可能です。
もちろん、無理な営業活動はいたしません。ご相談だけでも大歓迎ですので、気兼ねなくご連絡下さい。
共有持分の放棄と贈与の違い
というわけで、ここでは「共有持分の放棄」と「持分の贈与」の違いを解説します。
共有持分の放棄 | 共有持分の贈与 | |
---|---|---|
単独で可能か | 可能(相手方のない単独行為) | 不可能(契約) |
登記に関与するのは誰か | 放棄する人とされる人両方 | 贈与する人とされる人両方 |
贈与税 | 課税対象になる | 課税対象になる |
登録免許税 | 固定資産税評価額×持分割合×20/1000 | 固定資産税評価額×持分割合×20/1000 |
両者を比較すると、実体的な(=民法上の)効力を生じさせることが単独で可能か?という点を除けばほとんど差異がないことがわかります。
なお、先程も解説しましたが、共有持分放棄は税務上は「みなし贈与」とされることに注意が必要です。
要するに、持分放棄を受けた人に贈与税が課税されるおそれがあるため、持分放棄を行う際にはその点も他の共有者に説明しておくべきでしょう。
共有持分放棄が早い者勝ちと言われるワケ
共有持分放棄は、結果として「早い者勝ち」になってしまうことがありますが、その理由を解説します。
共有者A、B、Cの三者で共有する不動産があった場合、Aが持分放棄すると元々Aが所有していた持分はBとCに割合的に帰属する。
もし、その後でBが持分放棄するとBの持分はすべてCに帰属する。
そこで最後に残されたCは「単独所有者」になるが、Cが所有権を放棄することはできない。
共有持分の放棄は上に引用した「民法第255条」に根拠があるため可能ですが、所有権を放棄することは民法上根拠がないため不可能です。
つまり、いわゆる「負動産」を持っていて処分に困っているような人が共有関係にある場合、先に一部の共有者が持分放棄をして他の共有者に持分を押し付けてしまったら、最後に残った人は打つ手がないことになります。
このような状況で最後の一人になることを避けるためにも、何らかの問題を抱えて売れないとあきらめている不動産であっても、ひとまず共有持分買取の専門業者に相談してみることをおすすめします。
まとめ
この記事では、共有持分の放棄について解説してきました。
面倒な不動産の共有名義から抜け出したいという目的で、共有持分の放棄を選択する人が少なくありません。
ですが、持分放棄は、結局、他の共有者との登記協力が必要であったり、登記費用を負担しなければならず金銭的にマイナスとなったりするため、おすすめはできません。
もし、共有名義から賢く抜け出したいのであれば、あなた自身の共有持分のみで売却するのが賢明でしょう。
活用のしようがない共有不動産であっても、その持分のみを現金に変えて処分することが可能な上、他の共有者との協力は一切不要だからです。
当社は、共有持分に特化して買い取りを行っている買取業者です。
ご相談だけでも大歓迎ですし、これまで培ってきたノウハウをもとに、共有トラブル解決のアドバイスをさせていただくことが可能です。
ぜひ、お問い合わせ下さい。