共有物分割請求訴訟とは
まずは共有物分割請求訴訟がどういった手続きなのか、みてみましょう。
概要
共有物分割請求訴訟は、一種の「訴訟」です。
訴訟とは、裁判所が当事者の権利義務を確定したり支払い命令を下したり法律的な状態を確認したりするための手続きをいいます。
共有物分割請求をすると、裁判所が共有物の分割方法を指定してくれます。
自分たちで話し合っても共有物の分割方法を決められない場合でも、訴訟を起こせば裁判所が判決を出して分け方を決めてくれます。
面倒な共有関係を解消できるメリットがあるといえるでしょう。
訴訟前には協議が必要
共有物分割請求訴訟を起こすときには、前提として「当事者間の協議」が必要です。
相手と話し合いたくない場合でも、いきなり裁判はできないので注意しましょう。
訴訟前に行う協議の方法は、対面・電話・メールなど形式は問いません。
協議の日時を決めて相手方に申入れしたにもかかわらず、無視されてしまった場合でも「協議がととのわなかった」とみなされ、共有物分割請求訴訟が受理される場合があります。離婚後の共有物分割でも同様です。
事前に相手と話し合い、決裂してから訴訟を提起してください。
調停は必須ではない
訴訟前に調停をしなければならないの?と疑問を持つ方もおられますが、調停は必須ではありません。
協議が決裂した時点で、調停なしに訴訟を起こせます。
自分たちで話し合うのが難しい場合、協議せずに調停を行い、調停が不成立になった時点で訴訟を起こす方法もあります。
協議でも調停でもかまわないので、何らかの話し合いのステップを踏んでから訴訟を起こせばよい、ということです。
共有物分割請求訴訟の流れ
共有物分割請求訴訟の流れは以下のとおりです。
提訴(訴訟の申し立て)
相手との協議や調停が決裂したら、地方裁判所で訴訟を起こしましょう。
訴状と証拠書類、添付書類を提出したら完了です。
ただし訴訟を自分1人で進めるのは非常に大きな困難を伴います。
訴訟をするなら事前に弁護士に相談に行き、手続きを任せるようお勧めします。
口頭弁論期日呼出状を受け取る
提訴の手続きを終えると、しばらくして裁判所から「第1回口頭弁論期日呼出状」という書類が届きます。
ここには第1回目の期日が行われる日時や場所が書いてあります。
その日は裁判所へ行かねばならないので、予定を空けておきましょう。
弁護士に手続きを依頼している場合には、本人は出頭する必要はありません。
答弁書が提出される
通常は、第1回期日までに被告(相手方)から答弁書が提出されます。
答弁書が提出されると裁判所から原告のもとへと送られてくるので、内容を確認しましょう。
詳しい反論が書いてあるケースと書いていないケースがありますが、どちらにしても有効です。
相手が弁護士をつけた場合には、法律事務所から答弁書が提出されます。
答弁書内に法律事務所名や弁護士名が書いてあるので、確認しておきましょう。
口頭弁論期日
第1回口頭弁論期日が開催されます。
弁護士に依頼していない場合には本人が出頭しなければなりません。
平日の午前中や昼間の時間に期日が開かれるので、仕事をしている方の場合には休む必要があるでしょう。
なお第1回期日には被告は出頭しない可能性があります。
争点整理期日
当事者間で意見がかみ合わない「争点」を明らかにしたり、お互いに証拠を提出したりする期日が何度か重ねられます。
弁護士に依頼している場合には本人は出席する必要はありません。
不動産鑑定
不動産の共有物分割請求訴訟の場合、不動産鑑定が行われるケースがよくあります。
当事者間で合意ができず、不動産の正確な価格を評価できない場合などです。
鑑定を担当するのは、裁判所の嘱託を受けた不動産鑑定士です。
また不動産鑑定が行われる場合、物件や案件によって異なりますが、数十万円の費用が発生するので注意しましょう。
なお、東京地裁の場合、100万円程度かかるケースもあります。
証人尋問、当事者尋問
争点や証拠の整理が完了すると、必要に応じて証人尋問や原告被告の当事者尋問が行われます。
判決
これまで提出された主張内容や証拠、尋問結果などをもとにして裁判官が共有物の分割方法を決定し、判決を下します。
判決は必ずしも当事者の希望通りになるとは限りません。
望んでいなくても「競売命令」が出る可能性もあるので、注意しましょう。
訴訟にかかる期間
共有物分割請求訴訟には、約半年~1年の期間がかかります。
いったん裁判を起こすと相応の日数をかけなければならないので、腹を据えて取り組みましょう。
和解について
共有物分割訴訟の手続きでは、裁判官の勧告によって和解が進められるケースも多々あります。
特に元夫婦で自宅を共有している場合などには、話し合いでの解決を強めに勧められるでしょう。
実際、高額な不動産鑑定費用を払ったり、裁判所で強制的に競売にかけられたりするよりは、自分たちで話し合って解決した方が大きなメリットを得られる可能性があります。
無理に和解する必要はありませんが、裁判官から「話し合ってみませんか?」と勧められた際には無下に断らずに一度和解のテーブルについてみましょう。
なお和解で話し合っても納得できない場合、無理に和解する必要はありません。
和解を蹴ったからといって訴訟で不利になることもないので、嫌なら我慢せずに断りましょう。
訴訟の具体的な進め方については、依頼している弁護士に確認してみてください。
離婚した配偶者に共有物分割請求訴訟を起こせる?
離婚した元夫や元妻相手に共有物分割請求訴訟を起こせるのでしょうか?
親族間などの場合、訴訟できないのではないか?と心配される方もおられます。
結論的に、親族でも元配偶者でも訴訟は提起できます。
離婚が成立しておらず籍が入ったままでも裁判はできるので、安心しましょう。
注意点
夫婦や元夫婦で共有物分割請求訴訟をするときには、以下の点に注意してください。
財産分与が済んでいるか確認
まずは離婚時に「財産分与」をしたかどうか確認してください。
もしも財産分与していなければ、共有物分割請求より先に「財産分与請求」をしましょう。
財産分与と共有物分割請求の違い
財産分与の場合、「共有持分」にかかわりなく基本的に分与割合を夫婦で2分の1ずつにします。
夫婦が婚姻中に形成した資産については、夫婦が公平に受け取るべきと考えられているためです。
一般的な共有物分割請求における分け方では「共有持分」を基準にするので、財産分与とは結果が異なってくる可能性があります。
不動産以外の共有財産がある場合
夫婦間には不動産以外にも共有財産があるケースが多いでしょう。
その場合、不動産だけではなく全体を2分の1ずつに分け合う必要があります。
共有物分割請求訴訟で不動産だけを共有持分とおりに分割してしまうと、財産分与とは大きく結果が異なってきて、混乱が生じる可能性があります。
以上のようなことから、財産分与が未了であれば先に財産分与を行い、それでも共有状態になってしまった場合に共有物分割請求をすべきといえます。
財産分与の時効
ただし離婚時財産分与には時効があるので、注意してください。
財産分与請求は、基本的に離婚後2年間しかできません。
2年が経過すると、共有財産があっても分割請求できなくなってしまいます。
その場合には、共有物分割請求で不動産の分割を行うしかありません。
離婚時に財産分与をしていないなら、早めに相手と話し合うか家庭裁判所で財産分与調停を行うようお勧めします。
いきなり訴訟は起こせない
元夫婦の場合、相手と険悪になっていて話し合いをしたくないケースもあるでしょう。
ただ、話し合いをしたくないからといっていきなり訴訟をしても認められないので注意しましょう。
共有物分割の手続きは話し合いが原則となっているからです。
相手と関わり合いになりたくない場合でも、まずは「共有状態を解消したい」と話をもちかけて、協議しましょう。
どうしても自分で対応したくなければ、弁護士に依頼してみてください。
相手が無視する場合
相手に共有不動産の分割を打診しても、無視されるケースがあります。
この点、相手にまったく共有物分割の協議に応じる意思がない場合には、協議がととのわなかった合に該当するという判例があります(最高裁昭和46年6月18日)。
ただし訴訟になった後、相手が嘘をついて「自分は無視などしていない」「そのとき言ってくれたら話し合いには応じる用意があった」などと主張してくるリスクも考えられます。
話し合いを拒絶するような相手であれば、内容証明郵便で話し合いを打診する文書を送り、「協議しようとしたけれども無視された事実」の証拠を残しましょう。
調停の利用
過去に相手からDVを受けていて、どうしてもかかわりたくない場合などでは、「調停」を利用してみてください。
裁判所で「共有物分割調停」を申し立てれば、調停委員を介して話し合いができます。
相手と直接顔を合わせる必要はないので危険も避けやすく、精神的な負担も軽くなるでしょう。
調停が不成立になった場合には、事前の話し合いの要件を満たすので共有物分割請求訴訟の提起が可能となります。
自分1人で調停を申し立てるのが難しい場合、弁護士に依頼しましょう。
訴訟以外の解決方法は?
夫婦や元夫婦で不動産を共有している場合、共有物分割請求訴訟以外にも共有状態の解消方法があります。
それは自分の持分のみを売却する方法です。
その理由を以下で解説していきます。
なお、離婚に伴う共有不動産の適切な処理方法は、以下の記事で網羅的に解説しています。

共有持分は譲渡可能
「そもそも共有持分なんて売れるのか?」と疑問を持たれる方もいるでしょう。
法律上、共有持分は単独で譲渡できることになっています。
不動産を共有している場合、不動産全体を売却するには共有者全員の合意が必要です。
それに対し、自分の共有持分の売却だけであれば、他の共有持分権者の承諾は不要です。
他の共有持分権者に譲渡を知らせる必要もありません。
元夫婦で相手と連絡をとりたくない場合、何も言わずに共有持分だけを売却してしまえば、面倒な共有関係から外れることができるのです。
メリット
共有持分のみを売却すると、以下のようなメリットがあります。
相手と顔を合わせなくて済む
まずは相手と関わらずに共有関係を解消できることが一番大きなメリットとなるでしょう。
関わり合いになるとトラブルになりそうなケースでも、危険やストレスなしに持分を処分できます。
訴訟よりスピーディーに解決できる
共有物分割の手続きには大変な手間と時間がかかります。
相手と協議したりその後に訴訟を起こしたりしていると、あっというまに半年、1年という時間がかかってしまうでしょう。
共有持分を売却するだけであれば、持分の査定をして売買契約を締結するだけで簡単に済みます。
1ヶ月もかからずスピーディに共有状態を解消できるでしょう。
お金が入ってくる
共有持分を売却すると、売却代金が手元に入ってきます。
不動産全体を市場で売却したときの価格よりは低めになるケースが多いのですが、共有物分割訴訟で弁護士費用や不動産鑑定の費用をかけることを思えば、コスト的に高くはならないでしょう。
共有持分を売却するには?
共有持分は、誰にでも売れるわけではありません。
通常の一般人にとっては、共有持分だけを買っても使い途がないからです。
共有持分は、専門の不動産会社へ売却する必要があります。
弊社「訳あり物件買取プロ」でも共有持分を積極的に買い取っていますので、持分売却に関心がありましたらお気軽にご相談ください。

まとめ
夫婦間や元夫婦間で不動産を共有し続けていると、将来のトラブルの種になりかねません。固定資産税もかかりますし、相手との関係もいつまでも続いてしまいます。
早めに共有関係を解消する手続きを進めましょう。
相手と話し合いで解決できない場合には、訴訟をするよりも共有持分を売却して共有関係を解消するメリットが大きくなります。
共有トラブルでお悩みの方がおられましたら、お気軽に「訳あり物件買取プロ」までご相談ください。