共有持分がリスクになる理由
共有持分を持つことのリスクを考える前提として、物権(モノに対する権利)についての基本的な考え方を確認してみます。
日本の法律では一物一権主義(いちぶついっけんしゅぎ)が取られています。
これは、
- 1つの権利の客体は1つの物でなくてはならない。
- 1つの物の上に、同じ権利は1つしか存在しない。
という考え方です。
つまり、原則的には1つの不動産の上に2つの所有権(全く制限のない所有権)が競合することはありません。
所有権と抵当権などは、それぞれ権利の内容が異なるためこれらが1つの不動産に併存しているのは一物一権主義に反しません。
しかし、全く同質の所有権が併存することがないという原則から考えると、共有はその例外ということになります。
そして、共有には特有の法律的な規制があります。
たとえば、民法第249条です。
つまり、二者以上が共有する不動産については、その全員が全体を「持分に応じて」使用することができるということです。
物理的に切った一部分を使えるのではなく「全体を使える」ということになるため、各共有者は自分の使用権がある一方で、他の共有者の使用権を害することもできないのです。
そういう意味では共有とは、ある程度の不便を甘受しなければならないこと、そして単有の場合と異なり自分の好きなように不動産を処分したり改変したりすることができない点にも注意が必要です。
具体的にどのような規制がかかるのかを確認してみます。
全体をまとめると次のようになりますが、各項目を見てみましょう。
行為の種類 | 合意が必要な共有者の人数 |
変更(処分)行為 | 共有者全員の合意が必要 |
管理行為 | 共有者の持分価格の過半数が必要 |
保存行為 | 各共有者が単独で可能 |
変更・処分行為は全員の同意が必要
変更・処分というのは共有物に関して行う行為で最も重いものであり、これを行うには共有者全員の同意が必要です。
変更・処分行為とは例えばこのようなものです。
- 不動産を売却する、担保に入れる(法律的処分に該当する)
- 田畑の宅地への造成や建物の大規模修繕(物理的な変化を伴う)
管理行為は過半数の同意が必要
管理行為とは、共有物の性質を変えない範囲内の利用・改良行為ですが、これは各共有者の持分の価格の過半数で決するとされています。
管理行為とは例えばこのような行為です。
- 目的物の使用方法の決定
- 賃貸借契約の締結(ただし、一定の範囲を超えると処分行為となる)
- 一般的賃貸借契約の賃料減額
保存行為は各共有者が単独でできる
民法第252条ただし書きでは、「各共有者が保存行為をすることができる」となっているため、保存行為と考えられるものは各共有者の判断で行うことができます。
保存行為とは例えばこのような行為です。
- 無権利者を排除するための明渡し請求や抹消登記
- 共有不動産の修繕
以上、各行為ごとの各共有者への制約について見てみましたが、特に賃貸物件等は外部の人(借り手)との関係を調整する前提として共有者間の合意形成が必要になることが多いため、共有者の数が増えれば増えるほど小回りが利かなくなるのです。
これは、不動産経営をする上で大きなリスクといえるでしょう。
自分の持分に関しては自由に処分可能
不動産の共有関係において知っておきたいことは、
自分の持分のみの処分なら自分だけの判断でできるということです。
上記の「処分行為は共有者全員の合意が必要」というのはあくまでも「共有物全体を処分する」場合の話です。
持分を売却したり、持分を抵当に入れたりすることは何ら他の共有者の協力を得る必要もなく、自由に行うことができます。
仮に、持分を売却して共有者の1人から他人の手に渡ると、その他人が新たに共有関係に入るだけです。
相続などにより権利関係が複雑になる
共有を放置しておくことにより深刻な問題となるのが、時間が経てば経つほど、当事者の一部または全部が死亡して「相続」が発生し、関係人数が増えてしまうということです。
2人が4人になり、8人になりと人数が増えていけば、合意形成はそれに従ってとても困難になり、もはや共有物の変更・処分・管理は実質できない状態になってしまうこともあります。
そのためにもまだ人数が少ないうちに共有を解消する、人数を減らすなどのリスク対策を講じておく必要があるのです。
価値が著しく低くなる
たとえば、不動産の持分2分の1を持っている人が自分の持分のみを売却しようと考えた場合、価格は全体を売却した時の価格の2分の1にはなりません。
それよりも相当下がってしまう前提で考えなくてはならないのです。
なぜなら共有持分を買ったとしても通常の不動産の使用収益権よりも大幅に制限がかかるため、実質、半分の価値とは捉えられないからです。
分割請求を受ける可能性がある
自分はまだ共有でよいと思っていて、他の共有者からの「共有を解消したい」という要求に応じないでいると、場合によっては訴訟等を起こされ、無理やり分割させられることがあります。
共有物分割訴訟を起こす前提としての形式的要件は「訴訟提起前に協議を尽くしても調わないこと(民法258条第1項)」とされていますが、これについてもいくつかの解釈論があります。
- 実際に協議したが不調に終わった
- 初めから協議を拒んでいる者がいる
- 協議が成立したものの履行を拒んでいる者がいる
こういった状況であれば訴訟を起こされる可能性もありますので、他の共有者から分割請求を受けたら真摯に対応する必要がありますし、共有を解消する方法として何がベストなのかを考えなくてはなりません。
そのためには共有解消の方法にどんなものがあるのかを知っておく必要があるのです。
共有持分分割請求については以下にまとめています。

リスク回避のためにも共有状態を解消
では、共有に伴うリスクを回避する(=共有を解消する)方法としてはどのようなものがあるのでしょうか。
現物分割
現物分割とは、不動産をそのまま分割して各人の単有にすることです。
土地を物理的に分けることを「分筆(ぶんぴつ)」といいます。
ただ、分筆した不動産の持分は元の持分と同じ割合になるため、その後それぞれが持分を譲り合う手続きが必要になります。
価格賠償
価格賠償とは、共有不動産を誰か1人だけの単有にして、その他の共有者に取得者が代償金を支払うというものです。
実務上は共有状態の解消を希望する一人から「自分の単有にしたい」との要望が出ることが多く、その人が取得することが妥当かどうか、また、賠償金の価格はいくらくらいが適正なのかをめぐって裁判で争われるケースも見られます。
換価分割(かんかぶんかつ)
換価分割とは、不動産自体を売却してしまい、その代金を分割することです。
全員が金銭で受け取ることになるため、一番不公平感が少なくなる方法といえます。
共有者に売る
条件等に争いや問題がなければ当事者同士で任意に持分を売却することもできます。
たまたま相続で取得したがその不動産を管理、保有するつもりはないという共有者は、条件が合えば他の人に売却してしまって共有関係から離脱する方がよいでしょう。
1人が他の共有者の持分をすべて買い取ることが望ましいですが、単に共有者の数を減らすために売買されることもあります。
自分が買う
実際に自分が普段から共有不動産すべての管理を行い、固定資産税の立替もしているなどの場合には、他の共有者に買取を申し出る方法もあります。
単有になれば管理も一気に楽になりますし、土地の運用方法などすべて自分の判断で決められるようになります。
ただし、全体として価値の高い不動産については、この先ずっと維持管理コストを負担できるかどうかなどについてあらかじめ考えておく必要があります。
第三者に売る
相続等のケースで多いのですが、共有者全員が保有し続けることを望まない不動産はなるべく早めに売却を検討した方が良いでしょう。
持ち続けていればその期間も固定資産税などの維持管理費用はかかりますし、不動産に起因するトラブルの責任も負わなければならないからです(老朽化した建物が崩れて通行人に怪我をさせるリスク等がある)。
また、売却を決意して買い手がつくまで数年かかることもあるので、不動産業者への相談はできるだけ余裕を持って早めに行う方が良いといえます。
共有持分放棄
共有持分放棄とは、共有関係から離脱したい共有者が「相手方のない意思表示」として民法第255条に基づく放棄の意思表示を行うことです。
これは契約と違って「単独行為」と呼ばれる法律行為なので、放棄の意思表示によって相手方の同意なしに他の共有者に帰属します。
ただ、これについては民法上の規定と手続き(不動産登記)が一致しないところがあります。
持分放棄した人の持分を他の共有者に移転させるためには、持分放棄した共有者とそれ以外の人が両方登記手続きに協力しなくてはなりません。
そのため、単独行為であるなら本来相手方(他の共有者)への放棄の通知は不要であるはずなのですが、登記手続への協力を促すため、内容証明郵便で通知するのが望ましいとされます。
共有物分割請求
繰り返しになりますが、共有におけるリスクを回避する最終手段は結局共有関係の解消ということになります。
共有物を1人の物にすることを目的とした手続きを「共有物分割」といいますが、これを誰かが請求した場合のステップとしては次のようになります。
- 共有物分割協議
いきなり裁判を起こすのではなく、最初は話し合いによる分割を試みます。 - 民事調停
分割方法や価格等について折り合いがつかなければ裁判所が関与して具体的な内容を決めます。 - 共有物分割訴訟
「共有者の間で議論を尽くしても具体的内容が決められない、またはそもそも他の共有者が話し合いに応じない」などの場合は最終的に裁判所が分割の類型(現物分割、価格賠償、換価分割)や内容を決めます。
上記にも説明しましたが、共有者は人数が増えれば増えるほどその合意形成が難しくなります。
つまり、時間の経過とともに困難さを増していくことが普通なのです。
共有状態が何もせず自然に解消することはありませんので、もし現状でリスクを抱えていると感じたら早期に共有関係の解消を検討することが大切です。

まとめ
- 不動産の共有持分を持つリスクとは、処分、変更、管理行為を自分1人の判断ですることができないなど、使用収益に制限がかかることである。
- 共有物は自分の持分だけなら1人で売却することもできるが、全体を売却するには全員の合意が必要になるので、共有の人数が増えれば増えるほど困難になる。
- 共有物の分割がどうしても当事者同士の話し合いでまとまらない場合、最終的に裁判になってしまうこともあるので、あまり人数が増えないうちに共有の解消を検討するべきである。