所有している物件もしくは相続が予定されている物件の登記簿を調べてみたら、一つの土地が複数の土地に分けられていたといったことがあります。
今回取り上げるカミソリ地は、前面道路の接道部分が他人名義の土地になっており、接道義務を果たしていないため、再建築不可物件扱いとなり、土地の価値の下落につながるというデメリットを含んでいます。
この記事では、そういったカミソリ地がなぜ生じるか、カミソリ地があることによるデメリットは何か、カミソリ地を解消するためにはどうしたら良いかなどについて解説していきます。
カミソリ地はデメリットがあることに加えて、その解消も難しい部分がありますので、この記事をご参考にしていただければと思います。
目次
カミソリ地が生じる背景
カミソリ地は、長方形や三角形の長細い土地で、土地と道路の間に存在する他人名義の土地のことを指します。
カミソリで剃ったような細長い土地のため”カミソリ地”という俗称で呼ばれています。
カミソリ地が生じる背景として、敷地と道路の間に以前は水路などがあったというケース、隣地との間に高低差があるといったケースが挙げられます。
また、宅地開発時に開発事業者がカミソリ地に分筆しておくということもこれまでにはあったようです。
開発業者が宅地造成で当該地に道路を敷設する際、開発事業者が所有していない土地との接道許可を土地所有者から得る必要があります。
その許可が得られない場合、全体の工事が滞る可能性がありますので、そういった事態を回避するために道路と当該土地の間にカミソリ地を分筆して所有権を確保するといったケースがあります。
また、道路の終点をカミソリ地にしておくことで、その先の土地の所有者が勝手に土地を開発するといったことを防ぐといった効果を狙ったものもあるようです。
カミソリ地のデメリット
カミソリ地があることによって生じるデメリットは以下の通りです。
①敷地との接道が取れないため利用が制限される
②一般的な整形地に比べて物件価格が低くなりやすい
③建て替えが難しい
①敷地との接道が取れないため利用が制限される
市街地内で計画的に土地の開発などを行う地域を都市計画地域と言いますが、土地計画地域内に建物を建設する際、その敷地は原則、道幅4mの道路に2m以上接していなければならないと建築基準法第43条に規定されています。
所有するもしくは相続する予定の土地と前面道路の間にカミソリ地がある場合、当該地は接道していないことになります。
その場合、当該地は再建築不可物件とされ、新たに建物を建設することができないことになります。
再建築不可物件は現存する建物を解体してしまうと、他の建物を建てることはできなくなり用途が限定的となりますので、注意が必要です。
なぜ再建築不可物件が生まれるのか?
最初から接道義務を果たしていれば再建築不可物件は生まれることはありません。
しかし、接道義務を規定している建築基準法は1950年、都市計画法は1968年の制定のため、それぞれの法律が制定される以前に建てられた住宅の中には接道義務を満たさないものが存在することとなりました。
後から制定された法律に合わせて住宅、特に居住中の住宅を取り壊すことは現実的ではありませんので、接道義務を満たしていない住居であっても現行法下では既存不適格という形で適用の除外が受けられるようになっています。
再建築不可物件は、このような背景があるため基本的に築年数が経過したものであることが大半です。
ただし、リフォーム・リノベーションは認められることがありますので、耐震補強などを行いながら住み続けるケースが大半となっています。
②一般的な整形地に比べて物件価格が低くなりやすい
再建築不可物件は、購入しても展開できる土地活用に制限がある不動産ということになりますので、売却は自ずと難しいものなります。
このような道路に面していない土地の相場は、同じ条件で道路に面している土地に比べて、約30%から高くても70%程度の価格に抑えられてしまうことが多くなっています。
また、再建築不可物件は市場価値が低いとみなされることが多く、住宅ローンの審査が通りにくいことが一般的です。
買主は住宅ローンを利用することができず、自己資金のみで購入しなければならないため、買い手が付きづらいことも値下がりしてしまうことの要因の一つとなっています。
加えて、建物の築年数やコンディションによって価格がさらに下落する可能性もありますので、注意が必要です。

③建て替えが難しい
現行法では、土地は接道義務を満たさなければならないと規定されています。
その理由として、接道していない土地の場合、緊急車両の移動や出入りができないため防災面での安全が確保できず、消火活動や救助などに支障をきたす恐れがあるため、このような規定が設けられています。
カミソリ地のようなコンパクトなスペースであったとしても、法律上は接道義務を満たしていないことになりますので、当該地は再建築ができないということになります。
この場合の再建築ができないというのは、現況の建物を解体して建て替えることができないことはもちろんのこと、火災や地震などの災害による修繕や建て替えのほか、増築や改築も不可となっています。
ただし、再建築不可であってもリフォームやリノベーションは可能な場合がありますので、所在地の役所に確認してみましょう。
カミソリ地買取による問題解決法
カミソリ地によって接道義務を満たせないために再建築不可となっている場合、当該カミソリ地を買い取ることで問題を解決することが可能です。
カミソリ地を買い取り、接道要件を満たすことで通常の不動産と同じ条件で売買を行うことが可能となります。
カミソリ地買取のためのポイントは以下の通りです。
①カミソリ地の所有者を確認する
②カミソリ地所有者との交渉
③交渉の仲介に専門家を入れる
④日頃から近隣との関係性を構築しておく
①カミソリ地の所有者を確認する
まず、カミソリ地の買取交渉を行うために所有者を特定します。
所有者の名義を調べるためには、登記事項証明書もしくは登記簿謄本を確認することが必要となります。
登記事項証明書や登記簿謄本には当該不動産の所在地・所有者などの情報が記載されており、登記所もしくはオンラインで取得することができます。
登記事項証明書は、登記所で申請する場合は1通600円(印紙代)、オンラインで申請する場合は郵送受け取りで500円、窓口受け取りで480円が必要となります。
なお、これらの情報を調べるためには地番が必要になりますので、事前に調べておくようにしましょう。
地番は公図で確認することが可能で、公図も登記所やオンラインで取得することが可能です。
②カミソリ地所有者との交渉
カミソリ地の所有者が近隣に住む人であれば、ご自身の事情を説明してカミソリ地の買取について相談するのも良いでしょう。
近隣と日頃からお付き合いがあれば、コミュニケーションの仕方次第で交渉を上手く進められる可能性があります。
しかし、不動産知識が無い者同士の交渉となる場合が多いと思いますので、トラブルになる可能性があることに留意が必要です。
また、交渉相手が開発業者だった場合、立場が強いことを利用して不当に高い価格を持ちかけてくるといったことも考えられます。
例えば、「接道させたいなら言い値で土地を買え」といった交渉を仕掛けてくること自体は、直ちに違法となるわけではありませんが、相手が反社会的勢力だったりするケースも考えられますので注意が必要です。
③交渉の仲介に専門家を入れる
カミソリ地買取のトラブル回避のためには、専門家に交渉の仲介を依頼することがおすすめです。
登記簿を調べてみたらカミソリ地の登記が数十年前で、相続が発生している確率が高い場合は相続人との交渉が必要になります。
しかし、所有者ご自身でこれらを調べて交渉までを行うというのは、手間暇やコストの部分でかなり難しくなるでしょう。
加えて、面識の無い方と不動産取引を行うのは、コミュニケーションおよび不動産や法律知識の面で簡単ではありません。
土地を売買する際には価格の交渉や契約書の作成など、手間のかかる作業が多くなります。
手数料や報酬の支払いが必要になりますが、その土地・エリアに詳しい不動産会社や弁護士などに依頼したほうがスムーズかつ安心・安全に交渉は進むでしょう。
カミソリ地の所有者が不明の場合
登記から年月が経過していればしているほど、カミソリ地の所有者特定が困難になる可能性が高まります。
土地の相続が行われる場合、煩雑な手続きが複数あるため報告の義務がない所有権移転登記はついつい忘れられてしまいがちです。
そのため、登記事項証明書には所有者の氏名・住所が記載されていますが、所有者の死亡後であっても変更されないままとなっているケースが散見されます。
また、カミソリ地を企業が所有している場合も当該企業が倒産して連絡がとれなくなっているといったケースもあります。
いずれにしても、登記事項証明書に記載されている住所・氏名にコンタクトすることとなりますが、返事がないなどといった場合もありますので、住民票の写しなどを取得して所有者の生存や現住所を確認することが必要です。
ちなみに、所有者が亡くなっていた場合は、戸籍謄本を取得するもしくは周辺の聞き込み調査を行って法定相続人を探すことになりますので、さらに手間暇がかかることになります。
④日頃から近隣との関係性を構築しておく
不動産取引や相続などの際に土地の境界を確定させる確定測量が必要となります。
境界確定測量は土地の所有者・測量士に加えて、隣地の所有者にも立ち会ってもらう必要があります。
というのも、境界確定測量は隣地の所有者から同意を得て土地の境界線を確定させ、この測量によって図面を作成し、法務局に登記することになるからです。
隣地の境界が曖昧な状態のままで土地を売却すると、買主と隣地の所有者がトラブルになるリスクが残ります。
カミソリ地の買取に限らず、土地の売却や建て替え工事など、隣地とは不動産に関するトラブルのリスクが潜んでいますので、日頃から良好なコミュニケーションを心がけておくことが好ましいです。
カミソリ地がある不動産を売却する方法
ここでは、所有者と交渉したものの交渉がまとまらなかった、カミソリ地の所有者をみつけることができなかったなどのケースにおける当該不動産の売却について解説します。
再建築不可物件として売却
前面道路との間にカミソリ地が残ってしまい、接道義務を果たしていないことによって再建築不可となってしまうと、当該不動産を希望する条件で売却できる可能性が下がります。
再建築不可として売却する場合は、その土地にある建築物をリフォーム・リノベーションを行った上で売却する、もしくは賃貸物件として運用する、もしくは更地にして駐車場や資材置き場として活用することも考えられます。
しかし、不動産活用に制限がかかることになりますので、売却は自ずと難しいものになります。


専門業者による買取
再建築不可物件を専門に取り扱う買取業者であれば、当該不動産の買取が可能なケースがあります。
この場合、一般的な不動産会社では再建築不可物件を取り扱えないことも多く、買取不可のケースがありますので買取専門業者に依頼することが重要です。
買取は、専門業者が当該地を直接買い取りますので、仲介のように売り手と買い手をマッチングさせる必要がありませんので、早期に売却を完了することができます。
早い場合であれば、最短1週間程度で現金化が可能なケースもあります。
カミソリ地の所有者と面倒の多い交渉なども省くことができますので、買取専門業者の活用も選択肢の一つと言えるでしょう。

まとめ
ここまで、カミソリ地が生まれる背景、カミソリ地があることによるデメリット、カミソリ地を解消する方法などについて解説してきました。
ポイントを以下にまとめます。
・カミソリ地とは長方形や三角形の長細い土地で土地と道路の間に存在する他人名義の土地のこと
・カミソリ地が生じる背景は以下の通り
①敷地と道路の間に以前は水路などがあったというケース
②隣地との間に高低差があるケース
③宅地開発時に開発事業者がカミソリ地に分筆しておくケース
・カミソリ地のデメリットは以下の通り
①敷地との接道が取れないため利用が制限される
②一般的な整形地に比べて物件価格が低くなりやすい
③建て替えが難しい
・カミソリ地を解消する方法
①カミソリ地を買い取る
カミソリ地の所有者を特定するのが難しい場合がある。また、買取交渉には、不動産・法律の知識が欠かせないため、手数料・報酬を支払って専門家に依頼することが好ましい
②カミソリ地のまま再建築不可物件として売却する
再建築不可物件は土地活用に制限がかかるため、買主がみつかりづらく、取り扱い不可にしている不動産会社も少なくない
③カミソリ地も含めた専門業者による買取
再建築不可を専門に買い取る不動産業者に依頼することで早期売却が可能な場合がある
再建築不可物件を売却するのは簡単ではありませんが、再建築不可物件の専門買取業者に売却することで良い結果が得られるかもしれません。
カミソリ地所有者との交渉や売却に疑問・不安がある人は早めに再建築不可物件を専門に扱う不動産業者に相談することをおすすめします。
過去に取り扱った再建築不可物件の実績・ノウハウを元に、最適なアドバイスを受けられますし、再建築不可物件に明るい弁護士や司法書士の紹介などについても話を聞くことができるはずです。
カミソリ地所有者との交渉や売却に不安や疑問があるという方や早期に現状を打開したいという方は、専門の不動産業者にまずは相談してみましょう。