共有持分を有する人ができること、できないこと
不動産の共有者は各自が「その持分に応じて」使用収益する権利がありますので、他の共有者の使用収益権を妨げることもできません。
共有者が単独でできる行為、できない行為については民法でその範囲が定められています。
行為の種類 | 合意が必要な共有者の数 |
---|---|
保存行為 | 各共有者が単独でできる |
管理行為 | 共有者の持分価格の過半数でできる |
変更(処分)行為 | 共有者全員の合意が必要 |
では、これらをもう少し詳しく見てみましょう。
保存行為
保存行為(不動産の現状を変更しない範囲で維持するものと考えればよい)については共有者各自が単独で行うことができます。
たとえば、共有不動産を第三者が不法占拠している場合にその人を立ち退かせること、また、修繕しないとその利用に影響がでるような場合に業者に修繕の依頼をすることなどです。
管理行為
「保存行為を超える管理行為」とされるものは共有者の持分価格の過半数で決定しなくてはなりません。
ただ、どこまでを「管理行為」とみなすのかはかなりその線引きが難しく、ケースバイケースで見ていくことになります。
たとえば、共有不動産を第三者に賃貸借する場合は、
・借地借家法の適用を受けない(=「借主に有利、大家に不利」な状況ではない)
・短期賃貸借の範囲を超えない(一般的な土地は5年、建物は3年)
という条件を満たした場合のみ、管理行為とされ持分の過半数で決めることができますが、それ以外(大家にもっと不利な契約)になると「変更(処分)行為」とされますので共有者全員の合意が必要になります。
具体的な事例を見てみましょう。
事例は「資材置き場としての利用」なので上記条件の範囲内ですから管理行為、つまり共有持分の価格の過半数の同意でよいことになります。
(※資材置き場は借地借家法の適用の範囲外。)
つまり、3分の1を共有するCが反対していても賃貸することができます。
変更・処分行為
下記のような行為は「管理を超える変更(処分)行為」に該当するので共有者全員の合意が必要です。
- 法律的に処分すること
所有権を失う契約、抵当権の設定、共有者で決定した使用方法の変更、サブリース契約の賃料変更など(一般的賃料の変更は管理行為になる) - 物理的に変化させること
土盛り、田畑から宅地への変更、土地上への建物の建築、建物の建替えや大規模修繕
共有名義の不動産所有者は家賃を受け取る権利があるのか
では、第三者に対する賃貸借契約を行う前提で、家賃が発生する場合はどうなるのでしょうか。
共有者が家賃を受け取って良いのか
共有の不動産を賃貸借している場合の賃料は各共有者で合意がない限りは「可分債権(分けることができる債権)」とされるので、各共有者が共有持分相当額を賃借人に請求することができます。
具体例で見ると、大家2人が物件を2分の1ずつの割合で共有している場合、10万円の家賃なら「5万円ずつ」請求してよいことになります。
共有者が住んでいて家賃を支払わない場合
AB共有物件にBが居座っている場合でも、共有持分権があるため違法ではありません。
AはBに「出ていけ」ということはできません(※共有物の明渡し請求権がない)。
ただ、これでは先に占有した者が勝つことになってしまい、公平性が保てません。
そのため、特に何の合意もなしに居座っているBに対してAは「自分の持分に応じた使用が妨げられているからその分金銭を支払え」という請求(不当利得返還請求)をすることができます。
ただし、AとBの間でBが単独使用することを合意していたようなケースでは金銭の請求はできません。(最高裁平成10年2月26日)
第三者が住んでいて共有者が家賃を独り占めしている場合
共有者の1人であるAがBと共有する土地を第三者Cに貸している状況を考えてみましょう。
仮に「Aだけ」がCに対して不動産の使用を認めていて、Bがそれを知らなかったような場合でも、Cはまったくの無権利者ではないため、BからCに明渡しの請求をすることはできません。
ただし、Bは「AとC両方」あるいは「どちらか」に対して「賃料相当額を共有持分で割った」金銭の請求はできます。
ただ、これは純粋な「賃料」ではなく、法的な意味としては、
「不当利得返還請求権(法的な根拠なく利益を得ているので、それを返してほしいという請求)
「不法行為による損害賠償請求権」
ということになります。
共有名義の不動産を所有しているが家賃を請求できないケース
共有者のうち特定の者が占有することを合意している
上記のとおり、AB共有の不動産をBが占有することを合意しているなら、AはBに金銭の請求をすることはできません。
被相続人と同居してきた相続人が引き続き居住している
これは割とよくあるケースなのですが、親Aと長男Bが同居しており、次男Cは別のところに居住していたら、CはAの死後Bに対して明渡しや金銭請求ができるのでしょうか?
これについては、最高裁平成8.12.17で結論が出されていますが、その要旨としてはこのようなものです。
つまり、特にAの生前にAB間に明確な契約等がなくても「使用貸借(ただで使わせてもらえる)」の合意があったとされますから、BとCの間で遺産分割を行うまで、CはBに対して明渡し請求も金銭請求もできないということになります。
ただ、いったん遺産分割協議が成立して共有状態が確定した場合は、上記のような通常の共有者と同じ考え方になります。
共有していた内縁の夫婦の片方が死亡した
内縁の夫婦ABが不動産を共有しており、内縁の夫Aが死亡した後でAの相続人Cが残された内縁の妻Bに明渡請求をすることができるのか?という点は最高裁平成10.2.26で内縁の妻を保護する結論が出されています。
つまり、相続人Cから内縁の妻Bへの明渡請求、金銭請求はいずれも認められません。
※ただし、分割請求は可能
参考:http://www.sakurai-h.jp/article/10452272.html
持分の売買によって解決を目指す
共有状態になっているとこのようにさまざまな問題が生じ、面倒な状況になります。
特に「義務を果たしてくれない、費用も負担しない」共有者がいる場合は本当に厄介です。
では、いったん生じてしまった共有状態を解消するにはどうすればよいのでしょうか。
共有だった不動産につき共有を解消する方法として次のようなものがあります。
『土地を分筆(物理的に2つに分ける)する。ただし、この場合は分けられた2つの土地は分筆によって直にそれぞれの単有にはならない(共有の土地が複数の状態となる)ため、相互に共有持分を譲渡し合う必要がある。』
『直接的に、すみやかに解消する方法としては共有者相互でやりとりする(売買・贈与)』
『第三者に売り渡して金銭で分ける(換価分割)』
『共有者のうち誰かが取得し、その分を金銭で補う(価格賠償)』
このように共有物を、いずれか、またはそれぞれの単有にすることを共有物分割といいます。
とはいえ実際には、家を物理的に2つにしたり出来ないから共有者に売る、共有者に買ってもらう、とするケースが多くなります。
一般的には最初に話し合いを行い、そこで合意に至らない場合は裁判所に訴訟を起こす流れとなります(「共有物分割訴訟」については下に説明します)。
自分の持分を相手に買ってもらう
話し合いでAが自分の持分を相手方Bに買ってもらえることになったとしても、実際にBが登記に協力してくれなければ登記簿上、単有にすることができません。
そうなると第三者との関係では、いつまでも自分が共有者としての義務を負い続けることになってしまいます。
一般的に、登記手続きというのは「持分を取得する人と手放す人」双方が手続きに関与する(関与というのは、司法書士に委任状を発行して手続きを任せることも含む)ことで初めてできるものです。
つまり、本来であれば共有者の片方が単独で登記手続きすることはできません。
しかし、たとえばAがBに持分を買い取ってもらうことが訴訟で認められ(和解や判決)、その判決文や和解調書の中で「Aの持分をBに移転する登記手続きを命ずる」ことが明記されていれば、Aは単独で登記申請をすることができます(登記引取請求権)。
相手の持分を自分が買い取る
逆に、相手の持分を自分が買い取りたい場合を考えてみます。
最初から相手が話し合いに応じれば協議を試みる、それで合意しなければ裁判という流れは「相手に買い取ってほしい場合」と同じです。
しかし、共有している相手方が「共有者としての費用などの負担」に応じないため、自分の単有にして1人で管理したいといった場合は「共有持分買取権」を行使して相手の持分を強制的に自分に寄せる方法もあります。
これは、民法253条2項で「共有者が1年以内に本来その人の負うべき負担(費用など)に応じないときは、相当の償金を払ってその人の持分を取得することができる」としているからです。
Aが共有者Bに「あなたの共有者としての負担分を支払ってください」と言ってから1年(起算点は条文上明確にされていませんがこのように解釈されています)経ってもBが支払ってくれない場合、Aは強制的にBの持分を買い上げることができるのです。
ただ、実務的にはこれに基づいた登記をするためには上記と同じくBの協力が必要となりますので、協力が得られない場合は「買取の通知を内容証明で出した上で訴訟を提起する」流れとなります。
ここでもやはり単独での登記が法務局で通るためには判決文や和解調書に「登記手続きを命ずる」旨が明記されていなければなりません。
共有物分割訴訟
共有物を分割する話し合いが整わない時は訴訟をしなければならないというのは上に説明した通りですが、共有物分割訴訟には他の訴訟と違った特徴があります。
それは「3者以上の共有者がいて、争っているのがその一部だけであっても全員を巻き込んで訴訟しなければならない」ということです(「固有必要的共同訴訟」といいます)。
また、訴訟の前提として「協議を尽くしたが調わなかった」ことが必要です。(いきなり訴訟に持ち込むことはできない)。
ただ、「協議を尽くした」と言えるかどうかは、実務上はケースバイケースになってきます。
たとえば、共有者の一人に協議を持ちかけても全く応じる意思がなく話し合いができないという状況であれば、一度も当事者同士が話をしていなくても「協議が調わない」ケースに当たる、とされることもあります。
訴訟にもつれ込むであろうと思われるケースでは、あらかじめ弁護士に相談して方針を決めておく方がよいでしょう。
自分の持分を第三者に売る(買取)
共有名義の不動産が原因で起こっているさまざまな面倒ごとから解放されたいと思っている人は少なくないでしょう。
しかし共有者との話し合いができそうにない、とは言っても訴訟してまで相手に買い取ってもらう気力もない、という人は業者による買い取りを検討する余地があります。
各共有者は自分の持分のみであれば他の共有者の同意がなくても売却することができるのですが、通常、共有持分「だけ」を一般の買主に買い取ってもらうことは親族でもない限り、ほぼ不可能に近いものがあります。
しかし、専門の投資家、業者は「共有持分の買い取り」を積極的に行っているところもあります。
そのような業者であれば購入後の他の共有者との協議や訴訟などの可能性も踏まえて買い取ります。
もちろん、ある程度買い取り価格としては安くなってしまう可能性も否めませんが、自分自身で他の共有者に持分買い取りの交渉をしたり弁護士に頼んで訴訟をするよりはむしろ早期解決で安上がりとなる可能性も十分あるのです。
まとめ
・共有の不動産は、各共有者が持分に応じた使用収益はできるものの「保存行為は各共有者が単独で」「管理行為は持分価格の過半数で」「変更(処分)行為は全員の同意で」とされるため、一定の制限がかかっている。
・共有者の1人が他の共有者の合意なく「単独で占有」している場合は、占有している者以外の共有者は明渡しを請求することはできないが、持分に応じた金銭の請求をすることができる(不当利得、不法行為を根拠とする)。
・親の家に同居していた子が親の死後そのまま住み続けても、別居する他の子は「遺産分割協議完了までは」明渡請求も金銭請求もできない。
・共有の解消をするためにはまず「話し合い」、それが調わないなら「共有物分割訴訟」を起こすことになる。
・共有者との話し合いや訴訟が難しい人は「業者による持分の買い取り」を検討する方法がある。