単有名義と共有名義
不動産の所有権を誰に対してでも主張できるようにする(=対抗力を得る)のが「登記」ですが、所有権を登記する場合には「単有」と「共有」のどちらかになります。
単有名義
1人だけの名義にする場合を「単有」といいます。
単有であれば、もちろん基本的には処分や管理等の行為もその人1人の裁量で行うことができます。
所有権に例外的に制限がかかるのは差押えが入っていたり、抵当権などの担保権がついている場合です。
制限がかかる不動産では所有権者は売却(つまり所有権の移転)はできるものの、購入したりもらったりした人は、その不動産の制限をそのまま引き継ぎます。
たとえば抵当権つきの不動産を購入した人は抵当権に紐づけられているローンが返済されなかった場合には最終的に競売による処分を受け入れなくてはなりません。
よって、通常は抵当権がついている物件を売却する時には、所有権移転と同時に抵当権の抹消登記をするのです。
共有名義
単有名義に対して2人以上の人が同じ物件の所有権を持つことを「共有」といいます。
共有では下の登記簿例のように「持分」を「〇分の〇」といった形で、全員分合わせると100%になるように登記します。
不動産を共有にした場合、物理的に分けたどちらかを使えるということではなく、「全員の共有者が不動産全体に対しての使用収益権を持つが、相互にそれを制限し合っている」という考え方になります。
つまり、たとえ100分の1しか共有持分を持たない共有者であっても不動産全体への使用収益権を持っているのですが、持分の数字が権利関係に影響を及ぼすのは、
「不動産を売却した場合の代金の配分」
「共有不動産についての管理に関する事項の決定」
「共有者の一部のみが占有している場合の他の共有者からの金銭請求」
といった場面です。
共有不動産に対してどのような処分、管理をするかといったことは共有者が1人で決めることはできない場合も多く、決定事項の重要度に応じてどこまでの同意が必要になるかが変わってきます。
行為の種類 | 合意が必要な共有者の数 |
変更(処分)行為 | 共有者全員の合意が必要 |
管理行為 | 共有者の持分価格の過半数でできる |
保存行為 | 各共有者が単独でできる |
このように、重要な行為である変更(処分)については全員が合意しなければならないため、共有という状態は当事者にとってかなり負担になる場面も出てくるということです。
なお、この点について詳しくは下記記事を参照してください。
※不動産の共有に関する民法条文のまとめ【保存行為、変更行為、管理行為とは?】
共有名義のメリット
不動産を共有にした場合、どのようなメリットがあるのでしょうか?
住宅ローン控除を2重に受けられる
住宅ローンを組んで不動産を購入するにあたっては、所得税のいわゆる「住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)」を受けられることは大きな魅力です。
現在の住宅ローン控除では「年末の住宅ローン残高」または「住宅の取得対価」のうち少ない方の金額の1%が10年に渡って(※居住開始時期によっては13年)所得税から控除されます。
なお、所得税から控除しきれない部分は住民税から控除されます。
ただ、上限が「40万円」とされているため、夫婦がどちらか1人で借りた場合、4,000万円以上の借入れについてはそれ以上控除が増えないことになります。
住宅ローン控除は夫婦がそれぞれに「個人単位で」申告するものであり、世帯が単位なのではありませんので、そのような場合は夫婦二人がそれぞれに借入れをすればこの上限枠が2人分の「80万円」となるため、合計4,000万円を超える借入れであっても控除額を増やせるということになります。
つまり、「ペアローン」や「連帯債務」といった、実質的に夫婦両方が債務を負担する場合には控除を2人分受けられて有利な場合があるということです。
(片方が連帯保証している場合は「連帯保証人」は債務者ではないため住宅ローン控除は受けられません。)
売却時の特別控除を2重に受けられる
もし、マイホームを売却する場合、売却によって利益が出た(譲渡所得)場合は利益(売却益)に対して課税されます。
しかし、このようなケースでは「3,000万円特別控除」という税制の優遇があり、実質的に利益が出たと考えられる金額から3,000万円を差し引いた金額を課税価格(税金を計算する基礎となる価格)にできるので、かなり税金を押さえることができます。
夫婦で共有にしている不動産については「夫婦それぞれが」譲渡所得から3,000万円を差し引くことができるのでこの点でも有利になります。
夫婦共有名義のデメリット
では逆に共有のデメリットについて考えてみましょう。
共有者全員の承諾が必要
上記にリンクを貼った参照記事の通り、売却や担保設定など共有不動産の「処分行為」は共有者全員の同意が必要になります。
つまり、共有にしてしまった以上は簡単に全体を売却することができず、他の人が反対した場合に売却できるのは自分の持分だけとなります。
登記費用が2倍になる
所有権の名義を共有にしただけでは登記費用は変わりませんが、仮に「夫婦でペアローンを組んで(つまりそれぞれに単独の借入れを行って)、銀行の抵当権を2本設定する場合」は抵当権の設定登記費用が2本分かかることになります。
共有者死亡時、相続の対象となる
たとえば、単有の場合にその所有権の名義人が死亡すれば法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)がいったん潜在的に全員で共有していることになり、遺産分割協議をして誰か1人または複数の相続人の名義にすると、相続時に遡ってその相続人の所有だったこととなります。
遺産分割協議をする際には、なるべく「法定相続人のうち誰か1人」の名義に決めておいた方が望ましいといえます。
ここで共有にしてしまうとまた将来上記のような「処分行為の制限」など、諸々の問題が起こってくる可能性があるからです。
仮に相続前から共有だった場合、共有者の誰かに相続が発生するとさらに共有者の人数が多くなってしまう場合があります(この点は下記にも説明しています)。
共有者は多くなればなるほど話し合いがまとまらなくなりますので、なるべく相続など権利関係が変わるタイミングでは「人数を少なくまとめる」に越したことはありません。
押さえておきたいポイント
上記のような問題を加味した上で、それでもやはり共有名義にして不動産を購入したいという場合にはどんなことに気をつけておけばよいのでしょうか。
共有名義の持分比率とローン
上記で、共有名義の登記をする場合、持分を「〇分の〇」といった形で、全員分合わせると100%になるように設定するという説明をしましたが、具体的にどのように持分を決めたら良いのでしょうか?
これは、「なんとなくこれくらいにしたい」とか「半々でよい」などと適当に決めてはなりません。
「共有者それぞれの出資比率やローン負担の比率に応じた持分を正確に設定する」
ということが大切です。
たとえば、3,000万円で購入するとして、妻が独身時代の貯金から300万円を頭金の一部として出資し、夫は残りの頭金とローンを負担したという場合は、「夫10分の9:妻10分の1」が適正です。
もしこれを夫の単有とし、全く妻の持分を入れなかった場合、妻から夫に300万円が贈与されたことになってしまい、夫に贈与税が課されることになりますので注意しましょう。
(年間110万円までの贈与は無税で行えるため、それを超えた部分)
離婚等による名義変更
もちろん、最初から離婚のことを想定してマイホームを購入する人はいないでしょうが、人生には万一ということもあります。
「財産分与代わりに夫の持分をもらえばいい」と安易に考える例も多いのですが、これは危険です。
夫婦でローンを組んでいて共有にしている不動産については銀行の住宅ローン契約の約款に拘束されますが、通常は「銀行の許可なく所有者を変えたら約款違反」ということになっています。
つまり、夫の持分を「ローンごと」譲り受けられるくらいの経済力が妻にあれば銀行に掛け合って妻が残りのローンも含めてすべての債務者になり、それと同時に夫の持分を譲り受ける、というのが本来のやり方です(もちろん、その場合は妻が改めて銀行の融資審査に通ることが必要)。
勝手に夫の持分を妻に移せば約款違反のため、残債務は分割で支払うことができなくなり即、全額一括返済を求められることになります。
では、名義を移さずに住み続ければ良いのかというとここにも問題があります。
「夫がローンを払ってくれると言ったから」と共有名義のまま妻が住み続けたのは良いものの、途中で夫が返済を放棄すれば容赦なく夫持分について差押えがされ、夫持分を競売にかけられる可能性があります。(この場合に考えられる買受人については後述します)。
※なお、共有名義不動産と離婚の関係についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
「住宅ローンが連帯債務や連帯保証で共有名義になっていて離婚する場合の解決法」
共有者が他界した場合の相続
上に説明したように、共有者の1人が死亡して相続が発生すると、その法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)すべてにいったん相続権が発生し、法定相続人全員が遺産分割協議を行って相続人を確定させるまでは潜在的共有になります。
相続人が確定するまでの間も固定資産税の負担などが生じます(その場合、誰に固定資産税の請求が行くかの基準は自治体ごとに基準が異なります)。
たとえば、下の図で甲の配偶者乙は法定相続分(民法で定められた相続分)が2分の1、子供の丙と丁は4分の1ずつとなるため、それを元の甲の持分2分の1で割った割合が各相続人のこの不動産における法定相続分ということになります。
上で説明したように、これを乙、丙、丁の話し合いで誰か1人または2人以上の共有に決めることができ、その効果が相続開始時に遡ります。
このように、ある共有者に対し複数の相続人がいる場合には、誰か1人に絞って相続させるのが基本と考えておくべきです。
下図において甲の法定相続人がもし全員で相続するとなれば、共有者は2人から最終的に4人となり、ますますその後の管理や処分がしづらくなるからです(他人が混じっていればなお、話がややこしくなりがちです)。
もし共有名義の不動産を売却したくなったら?
では、すでに共有になっている不動産を売却したい場合にはどのようなことを知っておくべきなのでしょうか?
売却時には共有者全員の承諾が必要
上記のように、共有名義の不動産を売却する場合には共有者全員が同意しなくてはなりませんが、実際にはこれがなかなかうまくいかないこともしばしばあります。
たとえば、現在占有している共有者は売りたくないが、他の共有者は売りたいとか、そもそも売りたがっている共有者が他の共有者に連絡しようとしてもなかなか応じてくれないなどです。
また、当事者同士で無理に話し合おうとするとそれが引き金になって人間関係のトラブルに発展してしまうこともあります。
買取業者を上手に利用する
では、共有者と意見が合わない、または話し合えない場合にはどうすることもできないのでしょうか?
法的には自分の持分のみを処分することはできますので、それを利用して「特殊物件買取業者に売却する」という方法があります。
持分のみの売買では、通常、親族関係等にない一般人が買い受けてくれることはまずないと言ってよいでしょう。
しかし、このような特殊物件買取業者であれば持分を売りたい当事者の分だけを買取ってくれることがあります。
業者は持分を買い取った後、残った当事者に交渉などを行って最終的に単有とするのを目的としています。
買取価格としては全体の物件相場×持分比率よりもかなり安くなってしまうものの、素早く売却できることや煩わしい共有者との関係から離脱できることを考えるとそのメリットは大きいといえます。
まとめ
・不動産を共有名義にすることは税金の控除などのメリットはあるものの、相続によりさらに共有者の人数が増えることの危険や各共有者が自由に売却できないことなどのデメリットもあるので、それらを理解しておく必要がある。
・共有名義の不動産を売却するか否かで意見が分かれた場合は不動産全体を売却することはできないが、共有持分だけを売却することができるため、特殊物件の買取専門業者に相談するのも選択肢の一つである。