兄弟で不動産を共有することになるきっかけはいくつかありますが、その代表的なものは「親から相続した不動産を共有で相続登記した」ことによるものでしょう。
遺産分割協議がなかなかまとまらなくて「とりあえず共有にしておこう」のように安易に考えてしまう人も多いのですが、実は共有にはさまざまな問題、リスクが潜んでいます。
それらを確認しつつ、共有を避ける、もしくは後から共有関係を解消するためにどのような方法があるのかも考えてみましょう。
共有とは
まず初めに、共有とは何かを確認します。
一筆(土地)や一つ(建物)と数えられる不動産は登記簿が一つです。
たとえ外形上、所有者が同じでひとまとまりに見えたとしてもそれらが複数の筆に分かれている(登記簿がいくつも存在する)ということもあります。
それとは逆に、登記簿が一つでありながら所有者が複数いる、というのがいわゆる「共有」の状態です。
※共有で登記された登記簿の例(山田太郎から相続した不動産を山田花子と山田一郎で共有登記した)
二者以上が共有で登記することもしばしばありますが、この場合は共有者がそれぞれに不動産全体の使用権を持ちながら、お互いにそれを制限し合っている状態です。
物理的にこちら側とあちら側、などと半分にしたい場合は「分筆」という手続きで登記簿自体を分ける必要があります。
もし、一筆(一つ)の不動産を二者以上が共有している場合は不動産に関する保存行為以外の重要な管理行為、処分行為(売却や担保の設定など)は共有者の一人だけで勝手にすることはできません。
行為の種類 | 合意が必要な共有者の数 |
変更(処分)行為 | 共有者全員の合意が必要 |
管理行為 | 共有者の持分価格の過半数でできる |
保存行為 | 各共有者が単独でできる |
※なお、具体的にどのような行為がどの類型に当たるかなど、共有についての詳しくはこちらの記事を参照してください。

「共有にするかどうか」はこのようにその後の各人の利害関係に強い影響をもたらすため、最初の段階で慎重に考える必要があるのです。
不動産を兄弟で共有するリスク
では、もう少し具体的に「共有した場合のリスク」を考えてみましょう。
勝手に売れない
不動産の売却というのは上記表の「処分行為」に該当し、不動産に関する処理の中では最も重大なものになります。
そのため、共有者「全員」の同意がなければ売却することができません。
その不動産に住む可能性がゼロの共有者であっても、登記簿に名前が入っている以上、その一人が反対すれば売却はできないのです。
※ただし、各共有者が自分の「持分のみ」の売却をすることは可能。
具体的には、売却の手続き(所有権移転登記)の際に共有者全員の実印、3か月以内の印鑑証明書を添付しなくてはならず、不動産業者や司法書士からの(原則、面会での)本人確認、売却の意思確認が行われます。
実質的管理者である人の売却への意向がいくら強くても思い通りにならないというのは、共有における最も大きなリスクといえるのではないでしょうか。
お金を借りて不動産を担保にすることができない
担保の設定も売却と同様に「処分行為」とされます。
銀行などから多額のお金を借りたい場合、担保にできる不動産があればほとんどの場合は差し出す(抵当権を設定する)ことが要求されるでしょう。
しかし、抵当権をつけるということは「返済できなければ競売にかけられても仕方ありません」と表明することですから、売却と同様に重く考えられているのです。
抵当権設定の際にも登記手続きには(持分のみでなく不動産全体への抵当権設定であれば)共有者全員の実印と印鑑証明書が必要です。
よって、一部の共有者の意向で決めることはできないのです。
賃借人との契約を自由に変更できない
たとえば、相続した不動産に誰も住まないので賃貸に出そう、というのはこれからの時代は増えてくるケースかと思われます。
しかし、賃貸人(貸主)が複数の場合、賃借人(借主)との契約やその変更でもなかなか共有者の一人だけでできないものがあります。
つまり兄が事実上物件をほとんど一人で管理している状態なのに、共有持分を持っているという理由だけで弟の同意がなければ契約の変更ができない、といった状況になるのです。
まだ共有状態でないなら兄弟間での共有は絶対に回避!具体的な解決策
相続が発生したもののまだ具体的に決まっておらずこれから不動産に関する話し合いをしようとしている場合、よほどの事情がない限り、兄弟間での共有にすることは避けるべきといえます。
では、共有を回避するためにどのような方法 があるのでしょうか。
遺産分割協議
相続においては、その人の故人との関係に応じて民法で定められた配分がありますが、これを「法定相続分」と呼びます。
ただ、必ずしも法定相続分に従って分けなくてはならないわけではなく、法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)全員が合意することによりこれとは違った分け方ができます。
この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。
遺産分割協議は上記のとおり「全員」の合意が必要であり、合意の内容を文書にして(遺産分割協議書)全員の実印を押印し印鑑証明書を添付することで登記やその他の相続手続きに使用することができます。
※ただ、実務上は銀行の預金解約については各銀行独自のフォームへの署名押印も要求されることがほとんどです。
不動産もその他の財産も、各相続人の法定相続分に従えば共有という理屈になるのですが、多くの場合は誰か一人に名義を持たせるために遺産分割協議が行われているのが実情です。
実際に不動産をどのように分けるべきか、方法を整理すると次の3類型に分かれます。
- 不動産のままで分ける(現物分割)
物理的に分けると(分筆)いったん両方の不動産が共有状態になるため、その後それぞれに持分を譲り合って最終的に単有にする。
- 名義を持つ(不動産をもらう)人が他の人に現金等を渡す(代償分割・価格賠償)。
- 不動産を維持したまま分割することが難しい場合などは不動産全体を売却し、代金を分割する(換価分割)
相続放棄
相続人の中には「最初から相続手続きに一切関わりたくない」といった人もいます。
それぞれに事情がありますが、両親が離婚し、父親と何十年も音信不通だったが突然親戚から父親の死亡を知らされ、相続人になってしまったなどが典型的な例です。
このような場合には「被相続人(亡くなった人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄申述書を提出して手続きする」ことにより、「最初から相続人ではなかった」という立場になることができます。
つまり、相続放棄が裁判所に認められた人は遺産分割協議に参加する権利自体を失うことになります。
※よく、遺産分割協議の中で「遺産は要らない」と意思表示することを「放棄する」と表現されることがありますが、こちらは法的な意味での相続放棄にはなりませんので違いに注意しましょう。
なお、相続放棄には重要な注意点があります。
それは「被相続人の死亡を知った時から3カ月以内に申述を行わなくてはならない」ことです。
「被相続人の債務の存在を知らなかった」などの特別な事情がある場合は3か月を過ぎて認められることもありますが、上申書などで説明し裁判所を納得させる必要があります。
よって、そのような場合は最初に弁護士(司法書士)に相談し、相続放棄が認められるかどうかの見通しを立てておきましょう。
以下も参考にして下さい。

民法第907条【遺産の分割の協議又は審判等】
上記のように相続放棄をしていない法定相続人によって遺産分割協議は行われますが、
「話し合いをしてもどうしても合意に達することができない」
「そもそも相手が話し合いに応じてくれない」
といったケースも少なくありません。
そのような場合は、裁判所に介入してもらうことができます。
② 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。 (以下省略)第907条 遺産の分割の協議又は審判等
もし遺産分割協議がととのわなかったり、協議自体ができないときは家庭裁判所に「調停の申立て」を行います。
調停は当事者が主体となって行う話し合いであり、そこで合意できれば良いのですが、調停を行ってもなお合意に至らなければ、裁判が主導し決着をつける「審判」に進みます。

相続開始前なら遺言書作成
もし、将来的に共有になることを防ぎたいが兄弟の話し合いが難しいのではないか?と思われる場合は、親世代が「遺言書」を残して不動産の承継者を誰か1人に決めることも非常に有効です。
自分で自宅で作成する「自筆証書遺言」は形式的に有効となるための条件が厳しいため、極力多少費用はかかっても公証役場で「公正証書遺言」を作ることをおすすめします。
万一、後日事情が変わっても遺言書は何度でも作り直すことができ、矛盾している点は日付の新しいものが有効となります。
相続不動産を共有にしない為の遺言書の書き方は以下にまとめています。

すでに兄弟間で不動産を共有してしまっている場合の解決策
では、すでに兄弟で共有の登記をしてしまっていたらそれを解消するため(単有にするため)にはどうすればよいのでしょうか。
土地なら分筆(分割)
実際に二人以上で使用したいが、使う場所が決まっているなどの場合は実際に土地を分割してしまう方法があります。これを「分筆」といいます。
実際に分筆する場合は上に図解した「現物分割」のような手順で行います。
(まず分筆してからお互いに持分を交換)
ただ、土地に関しては分筆できますが、建物についてはこの方法を取ることは現実的にほぼ不可能です。
マンションについては1つの部屋の登記簿を分割することができませんし、一戸建てでもその敷地になっている土地を建物に応じてきっちり分けることは難しいからです。
不動産が複数あるなら交換
もし、兄弟で複数の共有不動産を持っている場合、お互いがお互いの持分を譲り合ってそれぞれ単有にするという方法もあります(交換)。
贈与という形になれば通常は贈与税の対象ですが、等価の部分を交換した場合には税制上も譲渡をなかったものとみなす特例があります(土地建物の交換をしたときの特例)。
ただ、交換するのは土地と土地など同じ種類のものであることや1年以上所有していたことなど、さまざまな条件があります。
※詳細は国税庁のサイトで確認することができます。
https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/3502.htm
他の共有者と一緒に売却して現金を分ける
手放しても問題ない不動産であれば全体を売却してしまう方法もあります。
売買代金から仲介手数料や登記費用などの諸経費を差し引いて、残額を分割します。
売却するには共有者全員の実印や印鑑証明書が必要ですので、全員が手続きに協力してくれることが必須です。
他の共有者から贈与してもらう
他の共有者が贈与する意思を持っていれば持分について贈与を受けて単有にすることもできます。
この場合は贈与税が課税されますのであらかじめ現金での準備をしておくことと、申告手続きを忘れず行うことも大切です。
他の共有者から買い取る
他の共有者との間で買取りの合意が成立すれば「持分の売買」という形で単有にすることもできます。
相応の対価を支払っていれば贈与税の問題は生じませんが、不動産取得税や登録免許税などはかかってきますので注意が必要です。
共有物分割請求
もし、共有関係を解消したいと思っているのに他の共有者が取り合ってくれない場合はどうしたらよいでしょうか。
以下のようなケースでは裁判所に「共有物分割訴訟」を起こすことも可能になります。
- 協議したが合意に至らなかった
- 最初から相手方が協議を拒んでいる
- 協議は成立したのにその履行がされない
三者以上が共有する不動産が仮に裁判になった場合は、争っていない当事者であっても訴訟に巻き込まなければならないことになります。
このように全員を当事者として行うべき裁判を「固有必要的共同訴訟」といいますが、過去の裁判例は、共有物分割訴訟は必ずこの形式でなければならないとしています。
持分だけを専門の買取業者に売る
裁判をするところまで大ごとにはしたくない、でも共有関係から抜けるための兄弟での話し合いもできないという場合、「持分のみを不動産買取業者に売却する」方法もあります。
もし兄弟の関係性が悪化していた場合、なるべく手間をかけずに終わらたい人はこの選択肢を検討することが最も現実的な方法ではないでしょうか。
まとめ
・不動産を兄弟で共有にすることの危険性としては「売ることができない」「担保に入れられない」「賃借人との契約を自由に変更できない」といったものがある。
・親の不動産を相続した場合に兄弟での共有を防ぐには「遺産分割協議で誰か1人の所有にする」「相続放棄して自分が相続人ではなかったことにする」「遺産分割協議ができない場合、裁判所に調停、審判などで介入してもらう」といった方法がある。
・すでに共有の登記をしてしまっていたら、「持分を売買や贈与する」「全体を売る」などの方法で解消することができるが、共有を解消するための話し合いすらできない場合は「持分のみを買取業者に売る」という選択肢もある。