共有名義とは
複数人が同じ不動産を所有している状態を「共有名義」と言います。
共有名義に関する用語の意味を解説します。
共有者 | 不動産を共有している人 |
---|---|
共有持分 | 不動産に対して各共有者が持つ割合的な所有権 |
持分割合 | 各共有者が持つ共有持分の割合 |
以下の記事で共有名義を分かりやすく解説していますので、詳しく知りたい方は参照ください。

相続にまつわる専門用語を定義
相続とは、亡くなった人が所有していた財産を受け継ぐことです。
本記事で使用する相続にまつわる専門用語を定義します。
被相続人 | 亡くなった人 |
---|---|
相続人 | 被相続人と親族関係にあり、財産を受け継ぐ人 |
相続財産(遺産) | 被相続人から相続人へ受け継ぐ財産 |
相続割合 | 各相続人が相続財産を受け継ぐ割合 |
遺産分割協議 | 相続財産の分割方法を相続人全員で話し合って決めること |
共有名義での相続は避けるべき
本記事の結論として、不動産を複数人で共有名義で相続することはおすすめできません。
共有名義の不動産には複数のリスクがあるためです。
主なリスクは以下の4つです。
- 共有者全員の合意がなければ不動産を処分できない
- 共有者の過半数が合意しなければ不動産の管理もできない
- 固定資産税を負担し続けねばならない
- 新たな相続で不動産が細切れになる
リスク① 共有者全員の合意がなければ不動産を処分できない
共有不動産の処分(売却)は、民法251条で定められている「変更行為」に該当します。
変更行為には共有者全員の合意が必要です。
以下が実際の条文です。
(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
引用元:Wikibooks「民法251条」
例えば、共有者のうち1人でも反対意見を持つ人がいれば、不動産は売却できません。
他の共有者を説得できず、裁判にまで発展することもあるのです。
リスク② 共有者の過半数が合意しなければ不動産の管理もできない
共有不動産を賃貸に出したり、軽微でないリフォーム工事を行ったりする行為を「管理行為」と言います。
民法252条では、共有物の管理行為には「過半数を超える」共有者の合意が必要であると定められています。
合計の持分割合が「51%以上」である必要がある。
以下が実際の例文です。
(共有物の管理)
第二百五十二条 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
引用元:Wikibooks「民法252条」
例えば、兄弟で「2分の1ずつ」不動産を共有していたとします。
この場合「2分の1」では持分割合の過半数に達さず、兄や弟は兄も弟も単独で不動産を賃貸活用できません。
不動産の利用に大きな制限がかかり、共有者間のトラブルとなりかねないのです。
リスク③ 固定資産税を負担し続けねばならない
対象の物件に住んでいなくても、共有者は固定資産税を払い続けねばなりません。
共有者全員が連帯して固定資産税の納税義務を負っているからです。
具体的には、毎年4~6月ごろに共有者のうち代表者1人に対して「納税通知書」が送られてきます。
代表者は納付を済ませたのちに、立替分を他の共有者に請求できるのです。
基本的に立替分は持分割合に応じますが、共有者間で決めることもできます。
そのため、共有者間で負担割合を巡る争いが起こることもあります。
リスク④ 新たな相続で不動産が細切れになる
相続を繰り返すことで不動産の処分や管理が困難になります。
不動産が複数の相続人に相続されるたびに、不動産が細切れになるためです。
例えば、共有者Aに複数の相続人がいた場合、Aが亡くなると不動産の共有者はさらに増えます。
将来的に顔も名前も知らない人と共有状態となり、共有者の合意形成が難しくなるのです。
つまり、不動産を共有名義で相続することで、自分の子孫にトラブルのもとを残すことになります。
共有名義を避ける具体的な相続方法3選
将来起こり得るトラブルを避けるためには、共有名義での不動産相続は厳禁です(前述)。
具体的に、共有名義を避けられる相続方法は以下の3つです。
- 遺産を均等な価値で分配する(現物分割)
- 特定の相続人1人が不動産を引き継ぐ(代償分割)
- 不動産全体を売却して現金を分配する(換価分割)
遺産の価値が公平になるように分配する(現物分割)
現物分割は、不動産などの遺産を価値が公平になるように分ける方法です。
具体例をもとに解説します。
父親の財産を相続する例
相続財産は「3,000万円の不動産」「1,000万円の自動車」「6,000万円の預貯金」
兄弟2人で「相続割合2分の1ずつ」相続する
兄:「3,000万円の不動産」と「2,000万円の預貯金」=「合計の価値は5,000万円」
弟:「1,000万円の自動車」と「4,000万円の預貯金」=「合計の価値は5,000万円」
上記のように相続割合に応じて価値が公平になるように分けます。
ただし、各相続人が分割方法に納得している場合は、必ずしも価値を均等にする必要はありません。
また、不動産が土地のみの場合、分筆登記で物理的に分けて現物分割することもできます。
1筆(1つ)の土地を、複数の土地に分ける登記手続きのこと。
分筆登記については以下の記事で詳しく解説しています。

メリット
遺産をそのままの形で分けるので、手続きが楽
デメリット
実際には価値を均等にすることは難しく、不公平になりやすい
価値は同じでも「現金」と「不動産」のように性質が異なるため、相続人同士で揉めやすい
こんな人におすすめ
遺産に預貯金が含まれており、価値を均等に調整しやすい人
相続する遺産の価値が偏ることに寛容な人
均等でない分を代償金で清算する(代償分割)
代償分割とは、遺産の価値を均等に分割できない場合に、不公平な分を現金(代償金)で清算する方法です。
具体例を用いて代償分割を説明します。
相続財産は「3,000万円の不動産」「1,000万円の自動車」
兄弟2人で「相続割合2分の1ずつ」相続する
上記の例では、遺産を均等に分配することはできません。
兄が不動産を取得する場合、兄の手出し金で弟へ「代償金1,000万円」を支払うことで代償分割が成立します。
弟:「1,000万円の自動車」+「代償金1,000万円の受取り」=「合計の価値は2,000万円」
代償金で清算することで、兄弟2人とも「2,000万円の価値」を相続できるという考え方をするのです。
メリット
不動産の取得を求めない相続人も、相続割合に応じた現金を手にできる
デメリット
代償金の支払い能力を持つ相続人が必要
誰が不動産を取得するかについて、相続人同士で揉める可能性がある
こんな人におすすめ
相続人のうち特定の1人が不動産の取得を希望している人
資金的に余裕があり、代償金が支払える人
不動産全体を売却して現金を分配する(換価分割)
換価分割とは、相続不動産全体を売却し、得られたお金を相続割合に応じて分割する相続方法です。
具体例を用いて換価分割を説明します。
相続財産は3,000万円の実家のみ
兄弟2人で「相続割合2分の1ずつ」相続する
上記の例で換価分割する場合、実家の売却で得た3,000万円を兄弟2人で「1,500万円」ずつに分けます。
メリット
相続割合に応じた現金が相続人全員の手元に入るため、平等な分割方法と言える
売却代金が手元に入るため、相続税の支払いで困らない
デメリット
売却してしまうため、相続不動産を残せない
不動産の売却時に仲介手数料等の諸費用がかかる
こんな人におすすめ
相続人全員が不動産の現金化を希望している人
代償金の支払い能力がある相続人がいない人
相続放棄すると不動産以外の財産も相続できない
「相続放棄」することでも、共有名義のリスクを回避できます。
また、相続人同士での協議や、登記手続きなどの手続きに関わらずに済みます。
司法書士か弁護士に依頼することで、単独で相続放棄の手続きが可能だからです。
しかし、相続人としての一切の権利を放棄してしまうので、不動産以外の全ての財産を相続できなくなります。
また、家庭裁判所で相続放棄が一度受理されると、原則として撤回することはできません。
例えば、相続放棄をしたのちに、預貯金や自動車などの高額な遺産が見つかっても、それらを相続できないのです。
相続放棄するかどうかは慎重に判断しましょう。
共有名義を回避する不動産相続の流れ
共有名義のリスクを回避する相続方法について解説してきました。
ここからは不動産相続時の流れを以下の7つに分けて解説します。
- 専門家に相談
- 遺言書の有無を調べる
- 相続人と遺産を確定させる
- 相続人全員で遺産分割協議を行う
- 必要書類の用意
- 遺産分割・所有権移転登記
- 相続税の申告と納付
専門家に相談
不動産の相続には様々な手続きが発生します。
専門知識を持たない個人が手続きを行うことは非常に困難です。
不動産を相続することになったら、まずは専門家に相談しましょう。
専門家それぞれの相談内容と相談費用は以下の通り。
相談内容 | 相談費用 | |
---|---|---|
司法書士 | 相続時の登記手続きや 遺産分割協議書等の各種書類の作成 |
6万~10万円 |
弁護士 | 相続での紛争解決 | 30万円~ ※相談内容により異なる |
税理士 | 相続税の申告 | 20万円~ ※遺産総額に応じて変動 |
遺言書の有無を調べる
まずは、遺言書の有無について調査する必要があります。
原則として相続方法は、亡くなった方が残した「遺言書」の内容に従うからです。
相続人同士での協議がまとまった後に遺言書が発見されると、協議はやり直しとなってしまうのです。
遺言書は自宅に保管されている場合や、公証役場に預けてある場合があります。
具体的な調査方法については、相談している専門家の指示を仰ぐとよいでしょう。
相続人と遺産を確定させる
相続人間での協議を行うために、相続人と遺産の種類や金額を確定しましょう。
協議の成立後に新たな相続人が発見されたり、他の遺産が発見されたりしても、協議は振り出しに戻ります。
具体的には、被相続人の戸籍謄本や預金通帳を確認しながら、調査を進めます。
相続人と遺産の調査についても、相談している専門家の指示を仰ぐとよいでしょう。
相続人全員で遺産分割協議を行う
相続人と遺産が正確に把握できたら、相続人全員の協議で相続方法を決めていきます。
相続人同士で意見が対立して協議がまとまらない場合は、家庭裁判所による調停・審判を経て遺産分割となります。
紛争当事者(相続人)の間に第三者が入り、紛争解決の手助けをすること
調停で紛争が解決しない場合、裁判官が最終的な解決方法を下すこと
また、相続割合の決め方は以下の3パターンです。
- 遺言書の内容に従う相続
- 遺産分割協議に基づく相続
- 法定相続分に合わせる相続
それぞれ解説します。
パターン① 遺言書の内容に従う相続
原則として、相続人やそれぞれの相続割合は遺言書の内容に従います(前述)。
例えば、亡くなった父親の遺言書に「兄に60%を相続」「弟に40%を相続」と記載されていることもあるでしょう。
自分の財産を「誰にどれだけ相続させるか」は所有者の意思で決定できるのです。
ただし「兄に80%」「弟に20%」のように遺言書の内容が不公平なこともあるでしょう。
このような場合でも、各相続人は「遺留分」に応じた遺産を請求できます。
相続人ごとに最低限保証される相続権(相続割合)。
パターン② 法定相続分に合わせる相続
「法定相続分」とは、民法で定められている相続割合の目安のこと。
多くの場合、相続人同士のトラブルを避けるため、法的な目安である法定相続分に則って協議を進めます。
また民法では、相続人の目安についても定めており、このことを「法定相続人」と言います。
法定相続人は次の通りです。
配偶者がいる場合の法定相続人 | 配偶者がいない場合の法定相続人 | |
---|---|---|
子あり | 配偶者と子 | 子 |
子なし | 配偶者と父母 | 父母 |
子と父母なし | 配偶者と兄弟姉妹 | 兄弟姉妹 |
子と父母と兄弟なし | 配偶者 | 手続きを経て国のものになる |
ただ、法定相続分に応じるだけでは、不動産を相続割合に応じて共有することになってしまいます。
共有名義を避けるためには、具体的な分割方法について相続人同士で話し合う必要があります。
パターン③ 遺産分割協議に基づく相続
不動産が共有名義にならないよう、相続人同士で納得できる相続方法について話し合いましょう。
実際に協議内容に基づいて、登記手続きするためには「遺産分割協議書」の作成が必要です。
遺産分割協議書に様式の決まりはなく、協議内容と相続人全員の記名押印があれば問題ありません。
必要書類の用意
遺産分割に必要な以下の書類を用意します。
書類の名称 | 取得方法 |
---|---|
登記申請書 | 司法書士が作成 |
委任状 | 司法書士が作成 |
被相続人の戸籍謄本 | 被相続人の本籍地を管轄する役所で申請 |
被相続人の住民票の除票 | 被相続人の本籍地を管轄する役所で申請 |
相続人全員の戸籍謄本 | 役所で申請 |
相続人全員の印鑑証明書 | 役所で申請 |
相続人全員の住民票 | 役所で申請 |
遺言書 | 自宅や公証役場に保管されている |
財産目録 | 司法書士が作成 |
遺産分割協議書 | 司法書士が作成 |
相続不動産の登記事項証明書 | 法務局で申請 |
固定資産税評価証明書 | 役所で申請 |
多くの場合、書類の取り寄せや作成は司法書士が代行してくれます。
そのため、委任状と遺産分割協議書へ記名押印するだけで、遺産分割が可能です。
遺産分割・所有権移転登記
協議で決定した相続方法に基づいて、司法書士が所有権移転登記を行います。
相続税の申告と納付
不動産を含めた財産を相続した人には、相続税を納める義務があります。
被相続人の住所地を管轄する税務署へ、相続人共同での申告が必要です。
また相続税の申告と納付の期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内と定められています。
例えば、2月1日に被相続人の死亡を知った場合は、その年の12月2日までに申告と納付を済ませる必要があります。
相続税の計算方法
相続税額は以下の手順で求められます。
- 課税遺産総額を求める
- 課税遺産総額を相続割合で分ける
- それぞれに税率をかける
課税遺産総額を求める
まずは課税対象となる遺産額を求めます。
以下の計算式を用います。
相続財産の金額-(3,000万円+600万円×相続人の数)=課税遺産総額
※()内は基礎控除額
夫婦と子供2人の4人家族で、夫(相続財産1億円)が亡くなった場合
2億円-(3,000万円+600万円×3人)= 5,200万円
課税遺産相続は5,200万円
課税遺産総額を相続割合で分ける
課税遺産総額を相続割合に応じて分けます。
法定相続分で相続する場合
妻の相続額:5,200万円×1/2=2,600万円
子Aの相続額:5,200万円×1/4=1,300万円
子Bの相続額:5,200万円×1/4=1,300万円
それぞれに税率をかける
各相続人の相続額に相続税率を掛けます。
相続額に応じた税率は以下の表のとおりです。
相続額 | 相続税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | なし |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
妻の相続税額:2,600万円×10%=260万円
子Aの相続税額:1,300万円×10%=130万円
子Bの相続税額:1,300万円×10%=130万円
ただ実際には配偶者(妻)は法定相続分内の相続であれば相続税がかかりません。
法定相続分を超える場合でも、1億6000万円以下の財産であれば配偶者に相続税は課税されません。
すでに共有名義となっている場合の解消方法
共有名義の不動産にはリスクがあるとお伝えしました。
すでに共有名義で不動産を相続している場合は、共有状態を解消することでリスク回避が可能です。
共有状態の解消方法は主に以下の3つです。
- 共有者全員の合意のもと不動産全体を売却する
- あなたの共有持分を他の共有者に買い取ってもらう
- あなたの共有持分を第三者に売却する
共有者全員の合意のもと不動産全体を売却する
共有者全員の合意のもと不動産全体を売却することで、共有関係を解消できます。
売却によって得た代金は持分割合に応じて分配します。
共有名義とはいえ、不動産全体であれば通常の不動産売買と変わらないため、一般的な相場価格で売却可能です。
「不動産全体売却」は、売却に向けて共有関係の親子で協力しあえる人におすすめの方法です。
あなたの共有持分を他の共有者に買い取ってもらう
あなたの共有持分を他の共有者に売却することで、共有関係から抜け出すことができます。
共有不動産全体の売却には、共有者全員の合意が必要とお伝えしました。
ただ、自身の共有持分のみであれば、各共有者が自由に売却できるのです。
あなたは共有持分を現金化でき、他の共有者はより多くの共有持分を所有できるため、双方にメリットがあります。
また、他の共有者に「物件に住み続けたい」という希望がある場合、強気な価格交渉が可能です。
「他の共有者への持分売却」は、他の共有者に資金的余裕があり、買取に応じてくれる方におすすめの方法です。
あなたの共有持分を第三者に売却する
あなたの共有持分を第三者へ売却することで、共有関係から抜け出すことができます。
ただし、共有持分を売りに出す場合、一般個人の買い手を見つけることは困難です。
共有持分だけ買い取っても、その不動産を自由に活用できるわけではないからです。
共有持分のみを処分する場合は、専門の買取業者へ売却することが現実的です。
共有持分を売却できれば、共有者間の揉め事から抜け出し、将来起こり得るトラブルも防ぐことができます。
共有関係を早く解消したいという方は、弊社でも共有持分の買取を行っておりますので、お気軽にご相談ください。
なお、以下の記事では優良な共有持分買取業者をピックアップしてまとめてあります。是非参考にして下さい。

相続発生前であれば「遺言書」を作成しておこう
生前対策として「遺言書」を作成しておきましょう。
当然、あなたの死亡時には、あなたが所有している不動産は配偶者や子などに相続されます。
将来、あなたの相続人が、共有名義で不動産を相続してしまうかもしれません。
そうなれば、結果的にあなたの不動産が自身の子孫に禍根を残してしまいます。
共有名義を避ける相続方法を遺言書で指定しておけば、将来の不安を解消できるのです。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回の記事を要約すると以下の通り。
- 共有名義の不動産には数多くのリスクがあり、相続時は絶対に共有名義を避けるべき
- 共有名義を避ける具体的な相続方法は「代償分割」「換価分割」「現物分割」の3つ
- 不動産以外の財産も相続できなくなるので、相続放棄は慎重に行うべき